SKY-HI「非常に危なかった…」 「THE FIRST」成功の裏にあった苦悩を告白

2022.1.30
’20年、“アーティストが自分らしく才能を開花させられる環境を”と立ち上がり、BMSGを設立したSKY-HIさん。アーティスト活動を続けながらCEOも務めるという、自身が新たな挑戦の真っ只中にいる。起業したからこそ気づけた才能は?

問題意識が、行動のタネになる。不満や不安とは、ハダカで向き合う。

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「BE:FIRSTやトレーニーの飛び込み営業は向いていましたね。企画のプレゼンにも適性があったんだと思いました」

BE:FIRSTは、BMSG主催のオーディション「THE FIRST」から誕生したボーイズグループ。トレーニー(練習生)として事務所と契約を交わした参加者もいる。’21年の上半期はオーディションに全力投球で、落ち着いた下半期に、会社の根底を揺るがしかねない問題が浮き彫りに。

「オーディション参加者に対してできているマネージメントが、社員やスタッフにも十分できていたかというと、そうではありませんでした。僕自身に、表に立つ人間としての仕事に甘えていた部分があり、さらに想像していた以上に会社の成長が早く、社内でのチームワークの欠陥によって、意識共有に綻びが生じかねない状態でした。非常に危なかったですけど、昨年の7月の時点で気づけてよかったですし、そこからは社長業への意識が変わりました」

問題に気づいて即、社内の体制を立て直し、強固なチームワークを構築したが、自分が招いた問題に向き合うのは「しんどかった」と当時の心境を吐露する。

「やはりバランス感覚やコミュニケーションは大事ですね。今は一人ひとりとしっかり話し合い、社内の問題や各人の不安を吸い上げて、改善に向かうというマネージメントの基本ともいえる作業を丁寧にやろうと心掛けています。何につけても、問題に気づき、その改善方法を考え続けることは、とても大事なこと。すべての行動のタネになるのは、問題意識なんですよね。起業する時には圧倒的な覚悟が必要でしたけど、腹を括ることができたのも、エンターテインメントの世界に対する問題意識があったからでした」

社長業に限らず、どんな立場や仕事であっても、現状を打破するには、まず目の前にあるやるべきことから逃げないことが出発点。

「自分が置かれている場所で不満や不安を抱えていようと、もし、今の自分ではない自分を見つけたい、ここではないどこかに行きたいという気持ちがあるのなら、いま対峙しているタスクに対して真正面から向き合うことが、最低限かつ最初に必要になってくると思います。それができたら、本当にすごいことだし、そんな自分を褒めてあげてほしい。そして、もし、あなたが誰かと比べて自分には突出した才能がないと思っているのなら、実はあなたが才能あると思っているその人だって同じだということを伝えたい。世の中って、『私がやったんだ』と大きな声で言う人が目立つ仕組みになっています。自己主張は大事ですけど、自らの功績をひけらかす必要はありません。それ以前に、何かしらの仕事をしてるということは、それだけですでにすごいことを成し遂げています。一日の中で、業務上の問題点を見つけて改善に向かう行動を一回でも起こせたのであれば、その人は全員MVP!」

新しい自分=0→100じゃない。とりあえず動きだしてしまえば、意外と簡単に「扉」は見つかるもの。

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卓越したラップスキルで、自ら生み出したメッセージ性の高いリリックを届けるSKY-HIさん。まぎれもなく、音楽的才能に恵まれているように見えるが、自分自身ではそうは感じていないという。

「その上で、自分に一個だけ才能があるとすれば、“背負うのが苦ではない”ことのような気がします。グループをやりつつアンダーグラウンドでMCバトルに出たことも、ソロアーティストとしての自我を強く持ちながらもグループを続けたこと、プロデューサー業を始めてもアーティストを辞めないことも、リスクを背負うことへの耐性が強いからでしょうね」

リスクへの耐性は、HIP HOPを愛してきたことで身についていったのかもしれない。

「コンプレックスや劣等感はたくさんあるんです。でも、HIP HOPは、自分に欠けているものを武器にしてしまえるカルチャー。HIP HOPの精神性に助けられ、20代前半までには、自分が持つネガティビティをポジティブに消化できたと思います」

それまでの自分とは違う環境に身を置くことで、すぐに、少なくとも立場や肩書は違う自分になれるとSKY-HIさんは説く。

「シンプルに言えば、働く人が習い事を始めれば“生徒”になるわけですし、何かのコミュニティに入って、信頼できる年上の友達ができれば妹的な立場になれるじゃないですか。何でも始めてしまえば、新しい自分というのは案外簡単に見つかると思うんですよ。僕自身が、起業して社長になり、グループのプロデューサーという肩書を得たという意味では、新しい自分を見つけたと言えますし、受ける評価も今までと変わって新鮮ですし、楽しいですね。ただ、新しい肩書を得たからといって、0→100で自分自身が変わるわけはなく、それまで培ってきた人格は変わりません。抱えている不満や鬱屈とした気持ちを栄養にして初めて、自分を輝かせ、人生を好転させられるところに、僕は美しさを感じます」

SKY-HIさんがプロデュースするBE:FIRSTのメンバーは、自分らしく輝く場所への入り口を自ら見つけたともいえる。

「彼らは、『THE FIRST』が始まるまでは、あなたの隣にいる同僚や同級生の一人と変わらない存在でした。でも、自らが輝こうとする意志があったからこそ、一瞬にして、たった一曲で国内トップクラスの注目を集めることができた。半年という短い期間で取り巻く環境を変え、自分自身を変えることができるんだということを証明してみせたBE:FIRSTの存在がある以上、自ら動けば驚くほど人生を好転させられる可能性を誰も否定できないと思います。僕は、エンターテインメントの本質は、鬱屈した感情を抱えている人が、そこから抜け出すためのヒントや、新しい自分になれるように考えるきっかけやモチベーションを与えることにこそあると信じています」

スカイハイ 1986年12月12日生まれ、千葉県出身。2005年、AAAメンバーとしてデビュー。ソロ活動は“SKY-HI”名義で行い、昨年アルバム『八面六臂』を発表。自らが発掘したボーイズグループ「BE:FIRST」のプロデューサーとしても注目を集める。

※『anan』2022年2月2日号より。写真・田形千紘 ヘア&メイク・椎津 恵 取材、文・小泉咲子

(by anan編集部)