最後に大きな感動が…!? 一枚の絵画と“愛”をめぐる連作集『赤と青とエスキース』

2021.12.21
帯に書かれた「二度読み必至!」の惹句は伊達じゃない。青山美智子さんの新作『赤と青とエスキース』は、最後にぎゅぎゅっと心を掴まれる展開が待っている連作集。一枚の絵画と、愛をめぐる物語だ。

絵画が生み出す「ふたり」の光景。最後に大きな感動が待つ連作集。

13

執筆依頼がなんともユニークだ。これまで書いてきたような物語の中で場所が替わる横移動や、時間が流れる縦移動の話ではなく「モノが斜めに動く話を書きませんか」という内容だったという。

「すぐに絵画が浮かびました。もともと絵は好きですし、学生の頃、美大に進学しようかと考えたこともあったんです。美術と考えるとハードルが高いけれど、絵は喫茶店にも飾ってある。そうした身近なものとして書こうと思いました。エスキースは下絵のこと。芸術も人生もどこまでが下絵でどこからが本番か分からない。それが今回の話にぴったりだと思いました」

第一章の主人公はオーストラリアに1年間留学中のレイ。現地に住む日本人の青年と恋に落ちるが、帰国の日、つまり別れが迫ってきた頃、彼女は彼の知人の画家のモデルを務める。そして描かれたのが本作の裏主人公であるエスキースだ。舞台を日本に移した第二章は額縁工房の青年、第三章は元弟子と対談する漫画家、第四章では恋人と別れ50歳を迎えた輸入雑貨店で働く女性が主人公。

「第一章は絵のモデル、第二章ではその絵の額縁を作る人、第三章は絵を眺める人、第四章は写真に写ったその絵を眺める人というように違うシチュエーションを考えました」

どの章にも恋人同士や師匠と弟子といった2人組が登場。恋愛感情や師弟愛など、さまざまな形の“愛”が描かれる。

「愛という言葉を照れくさく感じていた時期もありましたが、最近は愛って大げさなことじゃないと思うようになって。むしろ綺麗なことばかりではなくて、格好つけたり自分を偽ることもある。でも、それは対象があってはじめて生まれる人間らしい感情だということを肯定したかったんです」

主人公たちの年齢はばらばらだが、自身が投影されているという。

「作家って、自分を脱いでさらけ出していくタイプと、登場人物にコスプレするタイプがいると思うんですが、私は普段は後者なんです。でも今回は、今までで一番、素の私を書いた気がします。第三章の漫画家のタカシマも、第四章の茜もすごく“私”が出ていますね」

ちなみにこのタカシマに、売れっ子となった元弟子が「ぼく、タカシマさんが運のいい人だなんて思ったこと、一度もないですよ」と言う場面がある。それに続く彼の台詞は、実際に青山さんが編集者に言われた言葉なのだとか。ぐっとくる内容なので、ぜひ本文でご確認を。

ばらばらなエピソードが連なる先に浮かび上がるのは、とても大きな物語。読了した人ならその意味は分かるはず。このように、青山さんは視点人物を替えていく手法を得意としている。

「同じものを見ていても、それぞれの頭には違う景色が浮かんでいる。地球上に78億人いるなら、78億個の物語がある。そこに興味があります。それに場所と場所、人と人って実は繋がっていたりする。それはミラクルなことではなく、多くの場合気づかないまま通り過ぎているだけ。そこを物語にするのが、自分がいちばん乗って書ける方法なんです。私はその時書けるものしか書けないので、これからも偽りのない自分を書いていきたいと思っています」

青山美智子『赤と青とエスキース』 留学先のメルボルンで、期間限定の条件でブーと付き合いはじめたレイ。帰国の直前、彼の知人の画家のモデルを務めるが、その時描かれた絵画がその後さまざまな場所で「ふたり」の物語を生み出す。PHP研究所 1650円

14

あおやま・みちこ 大学卒業後2年間オーストラリアで生活、帰国後、雑誌編集者を経て2017年『木曜日にはココアを』で作家デビュー。今年『お探し物は図書室まで』が本屋大賞2位に入賞。

※『anan』2021年12月22日号より。写真・土佐麻理子(青山さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)