29歳フリーターが平屋を譲り受け…阿佐ヶ谷での日常を描く、コミック『ひらやすみ』

2021.12.20
偶然親しくなったおばあちゃんから都内の平屋を譲り受けた29歳のフリーター、生田ヒロト。上京してきた従妹の美大生・小林なつみとハウスシェアしたり、既婚者の親友・野口ヒデキといまだにつるんだり。そんなヒロトのマイペースな暮らしを描く『ひらやすみ』に萌える。

それぞれが悩みを胸に秘めながら、緩やかに流れるビバ! 平屋ライフ。

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前作『ノラと雑草』では社会の負の部分も描いた真造圭伍さんだが、本作では一転。ヒロトをはじめ、出てくる人たちがみな微笑ましい。

「次の連載では、主人公を『人として正しい』人間にしようという思いがありました。そういう人を突き詰めていったらヒロトになった。ストーリーも、今回は特に自分が日々感じているようなこと、いま見ている景色や食べているごはん、など生活の空気感や良かった思い出などを積極的に入れていこうと決めていました。ヒロトがやたらおばあちゃんに話しかけられたりというのは、僕自身のリアルな体験でもあります」

ヒデキが持ってきた魚をヒロトが捌いて食べるとか、なつみが中華屋さんでアルバイトを始めるなど、毎回、エピソードは他愛ないものだ。だが、東京・阿佐ヶ谷という街の空気感とも相まって、どこかのどかな平屋ライフに惹かれるファン続出。それはすべてアナログで描かれる画の魅力も大きい。

「光の表現には少しこだわりがあるかもです。例えば、夏、手前が真っ暗なのに、奥が燦々とまぶしく見える景色がとても印象に残っていて、そういうコントラストをどう見せるかなど。季節ごと、時間ごとの光の移ろいを、下描きのときからかなり力を入れています」

2巻では、ヒロトと、平屋の管理をしている不動産会社の社員・立花よもぎの心理的距離がほんの少し近づく。だが、安易にロマンスに流れないのが真造さん流。

「僕はラブコメとかでも、両思いになっちゃうとちょっとつまらなく感じてしまうほうで(笑)。できればこの作品でも、つかず離れず、恋愛でも友情でもないけれど、お互いに気になる関係というものを描いてみたいですね」

と真造さんは言う。

「日常ものではあるけれど、ある部分はきちんと話が進んでいくようにしたいと思いました。ヒロトは変わらないまま、周囲はどんどん変化していく。それに対してヒロトは何を思うのか、変わろうとするのかしないのか。そのあたりがテーマです」

彼らのこれからを見届けたい。そんな気分になる、2021年の大ホームラン級コミックだ。

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真造圭伍『ひらやすみ』2 2巻では、平屋のもとの持ち主・和田はなえおばあちゃんとのエピソードも深掘り。おばあちゃんの面倒見のよさやヒロトの心根のよさに触れ、温かな気持ちに。小学館 650円 ©真造圭伍/小学館

しんぞう・けいご 1987年、石川県生まれ。2008年にデビュー。『森山中教習所』『トーキョーエイリアンブラザーズ』が映像化されるなど国内外から注目が。

※『anan』2021年12月22日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)