『パラサイト』だけじゃない! “韓国映画”がおもしろい理由

2021.10.17
『パラサイト』の衝撃からの反動など多種多様。世界的ヒットや新しい才能の台頭など、ますます目が離せない“韓国映画”の世界とは?

現時点で韓国の最もエポックメイキングな映画といえば、昨年アジア映画史上初のアカデミー作品賞受賞など数々の金字塔を打ち立てた『パラサイト 半地下の家族』。

「そのポン・ジュノ監督が、『パラサイト』に多大な影響をもたらしたと公言しているのが、’60年公開の『下女』。今年『ミナリ』でアカデミー助演女優賞を受賞したユン・ヨジョンが受賞スピーチの際、故キム・ギヨン監督へメッセージを送ったことからも、今日の韓国映画の礎となる重要な作品といえるでしょう」(日本映画大学学部長・石坂健治さん)

そして、韓国映画が爆発的な飛躍を遂げるのは’90年代終盤から。

「国策として映画産業支援が始まったことが大きい。以降、多くの名作が生まれていますが、韓国映画の特徴といえば、ロマンスにしても暴力描写にしてもとにかく過剰なところ。ただ、最近は淡々とした映画を撮る監督にも秀作が豊富など多士済々です」(石坂さん)

そんななか才能豊かな女性監督の存在も目立ってきているという。

「自身の実感を登場人物に重ねて繊細に描く監督が増えています。『はちどり』や『チャンシルさんには福が多いね』がまさにそんな作品」(ライター・西森路代さん)

一方、『パラサイト』のような社会派の反動からか、コミカルなアクションにもヒット作が続々と。

「『エクストリーム・ジョブ』が歴代興収1位を記録するなどユルい空気も楽しいエンタメが人気に。この傾向が続きましたが、『ガール・コップス』はフェミニズムの視点も入った進化系」(西森さん)

また、韓国はコミック原作のドラマが多いが、そのムーブメントは映画にも及んでいるという。

「実写はもちろん、『整形水』のようにコミックがアニメ化されるケースもあります。いずれにしてもクオリティが高い」(映画評論家・くれい響さん)

韓国映画の新潮流1:女性監督の目覚ましい活躍

『はちどり』(2018年)

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監督のキム・ボラは、今作で長編デビュー。’94年のソウルを舞台に、14歳の少女の、自分が女性であるがゆえの生きづらさや、それを覆したいという思いなど、揺れ動く気持ちを静かな映像の中に映し出す。「’94年の聖水大橋の崩落事故なども描いていることで、経済的な成長が急がれていた時代を振り返り、その時に主人公の少女がどう感じていたのかが伝わってきます」(西森さん)
©2018 EPIPHANY FILMS. ALL RIGHTS RESERVED. Blu‐ray&DVD発売中 発売元:アニモプロデュース 販売元:TCエンタテインメント 提供:アニモプロデュース、朝日新聞社 デジタル配信中

『チャンシルさんには福が多いね』(2019年)

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長年、ホン・サンス監督のもとでプロデューサーとして働いていたキム・チョヒの初監督作。主人公は映画プロデューサーのチャンシルで、長年、仕事をしてきた監督が急逝し、失業してしまい…とキム・チョヒ自身の投影も感じさせる物語。「飄々とした空気の作品ですが、主人公の状況は他人事ではない。大きなことは起こらないけれど何もないわけではない、そんな作品です」(西森さん)
2019 Copyright ©KIM Cho-hee All RIGHTS RESERVED / ReallyLikeFilms Blu‐ray&DVD発売中 発売元:リアリーライクフィルムズ 販売元:オデッサ・エンタテインメント デジタル配信中

韓国映画の新潮流2:漫画と併せて楽しめる作品も続々

『整形水』(2020年)

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韓国の「WEBTOON」発、日本では「LINEマンガ」で独占配信中のオムニバス作品『奇々怪々』の中の「整形水」をアニメ映画化。顔を浸すと思い通りの容姿になれる“整形水”を手にした女性の末路とは。「韓国に根強いルッキズムを、おどろおどろしく描いた作品。美しくなりたい気持ちは誰しもあって不思議はないので、興味がある人は多いと思います」(くれいさん)
©2020 SS Animent Inc. & Studio Animal &SBA. All rights reserved. 全国順次公開中 配給:トムス・エンタテインメント/エスピーオー

韓国映画の新潮流3:コミカルな爽快アクションがヒット!

『エクストリーム・ジョブ』(2019年)

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麻薬捜査班のいわば落ちこぼれ組が、犯罪組織のアジトを監視するために、向かいのフライドチキン店を買い取り、フェイクで商売をスタート。それがうっかり大繁盛してしまい…。「これまでのアクションは力強いヒーローが巨悪に立ち向かうというものが多かったのですが、この映画は、登場人物全員が脱力系で、派手じゃないけどクセになる。その後、同じ系譜の作品がブームに」(西森さん)
©2019 CJ ENM CORPORATION, HAEGRIMM PICTURES. CO., Ltd ALL RIGHTS RESERVED Blu‐ray&DVD発売中 発売元:クロックワークス 販売元:TCエンタテインメント デジタル配信中

『ガール・コップス』(2019年)

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警察署の同じ課で働くことになった義理の姉妹で刑事のミヨンとジヘ。ソリが合わない二人は家でも職場でも衝突するが、ある女性のネットでの性的被害を捜査することになり…。「嫁と小姑の落ちこぼれ刑事が喧嘩しながらも敵に立ち向かうコミカルなバディもの。同時に、韓国で実際に起こった事件を彷彿とさせるフェミニズム映画でもあります。セリフにグッときました」(西森さん)
©2019 CJ ENM CORPORATION, FILM MOMENTUM ALL RIGHTS RESERVED Blu‐ray&DVD発売中 発売・販売元:ギャガ デジタル配信中

石坂健治さん 日本映画大学学部長。東京国際映画祭「アジアの未来」部門シニア・プログラマー。専門はアジア映画史、日本ドキュメンタリー映画史。

西森路代さん ライター。韓国などアジア作品について執筆。ハン・トンヒョンさんとの共著『韓国映画・ドラマ―わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』(駒草出版)。

くれい響さん 映画評論家、ライター。映画誌、情報誌などさまざまな媒体での執筆や、『少年の君』『唐人街探偵 東京MISSION』といったアジア映画のパンフへの寄稿も多数。

※『anan』2021年10月20日号より。取材、文・保手濱奈美

(by anan編集部)