あいみょん、米津玄師のMVも 山田智和、「嘘がない世界」を描く理由

2021.9.9
あいみょん、米津玄師、KIDFRESINO、藤井風といった時代のアイコンから、Charaや矢野顕子といったレジェンドミュージシャンのMVを数多く手掛ける映像作家・山田智和さん。刻々と変化する時代を映像の中に記録してきた彼にとって、2020年は立ち止まって考えるシフトがあったという。

名だたるアーティストの映像表現を担うMV界のフロントランナー。

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「プライベートがないほど全力で駆け抜けるようにクリエイションしてきたけれど、コロナ禍で強制的に立ち止まる時間ができた。自分は何をしているときが楽しいんだろうと考えたり、知識をインプットしたり。自分を大事にすることが新鮮で喜びがあって、プライベートが充実しているからこそ、そのパワーを作品づくりにひっぱれるというか。今までとはマインドやつくり方は変わったと思います。シンプルに映像をつくることがより好きになりましたね」

純粋に楽しむことを追い求めた結果、自身でカメラを回す機会が増えてきた。最近のMVはカメラマンを兼任したものが多いとか。

「もちろん、広告のように規模が大きなものも好きで性にも合っているんですが、規模の大小ではなく、自分自身の手触りやプリミティブさを感じられる現場が今はすごく楽しい。人の道具を集めて組み立てていくようなクリエイションを否定するわけではないけど、今の自分はなるべく自分たちのストーリーの集積で何かつくっていけないかなと。自分にしかないストーリーがあるかはわからないし、幻想かもしれない。でもつくることを諦めないというか」

彼がMVを通し自分のストーリーを語るとき、そこに度々映っていたのは変わりゆく東京の風景だ。雪の降る新宿、再開発された渋谷、昨年閉園してしまった「としまえん」。今の社会を記録し、同年代に生きる者としての思いを潜めている。

「社会的でないものには意味がないと思っています。僕は東京で生まれ育ったので、経済的な変化や自分が遊んでいた場所の変化には個人的な経験とつながっていろんな思いがある。どの目線で世の中を見て、どこでどう生きて、どう感じて何を提示したいかが表現の出発点じゃないかと。それをSNSで言葉にしたらただのマウンティングになってしまう。言葉にならないことを伝えられるのは映像の特権ですよね」

近年、特に本質的にいいと思うものを追い、なりたいと願う像に近づくことに集中するようになったという。心から尊敬できるクリエイターたちとものづくりができることが、次へのモチベーションにつながる。

「嘘がつけない性格で。作品を撮っていると、嘘ってけっこうバレちゃうんですよ。だから、なるべく嘘がない世界にしたい。理想論ですけど、フェイクな人間にはなりたくなくて。それに、関係値が築けるクリエイションもすごく好きで。毎回同じ人とやっていくのは難しくもあるけれど、お互いに成長できる。そういう関係を結べるアーティストさんはすごく貴重ですね。例えばFRESINO君だったら、明日PV撮ることになっても大丈夫という自信があります」

アーティストが目の前に存在していて、音とカメラさえあればいい。本質的な素晴らしさを装飾したり、誇張したりする必要はない。最新MV、米津玄師の「Pale Blue」や矢野顕子の「音楽はおくりもの」を見てみても、シンプルにアーティストの個性とエネルギーに向き合ったものとなっていることがわかる。

「ラッキーなことに、本当に素晴らしい人たちが目の前にいるので、フィルターをかけるんじゃなく、その本物にどう向き合うかってことのほうが今は本質のように思っています。お願いしてくれるアーティストさんのことを心からすごいと感じていて、信じているからできているんだと思う。そういうものに心が動きます」

今年春には、オリジナル脚本・監督のショートフィルム『Somewhere in The Snow』をYouTubeで発表。広告、雑誌、写真集なども手がける彼がメディアを横断する理由とは?

「まずやりたいことがあって、コンセプトがあって、それを伝えるにはどういう手段がいいかを考えるという順なんです。僕はテレビも好きだし、雑誌も好きだし、YouTubeを見るのも好きなので、いろんな媒体と仕事することにネガティブな感情はなくて。何をやっているのかわからないと言われますが、褒め言葉だと思ってます(笑)」

山田作品ファンの間で度々使われる、“山田ブルー”。ブルーは映像の色を指しているわけではないらしい。青春の青とは関係がありそうだ。

「色ではなく概念だと。爽やかさ、センチメンタル、開放感、寂しさ、冷静とか心がクリアとか、そういうのを全部ひっくるめた表現だというコメントをもらえたのは、すごく嬉しかったですね」

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「Pale Blue」 米津玄師の最新シングル「Pale Blue」(ソニー・ミュージックレーベルズ)のMV。米津玄師というアーティストとしての深度や世界観を真っすぐに撮ることで、プリミティブな気持ちを表現することに挑んだ。Foorin「パプリカ」の振り付けを手がけるダンサーの菅原小春が、すれ違いながらも、相手を思う気持ちを見事に演じている。©REISSUE RECORDS Inc.

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「音楽はおくりもの」 デビュー45周年を飾る矢野顕子の新アルバム『音楽はおくりもの』(SPEEDSTAR RECORDS)表題曲のMV。監督、カメラを兼任し、ピアノを弾く矢野顕子の無敵な姿、そして空気感を山田さんが追いかけている。以前から親交があり、矢野顕子ファンを公言するのんが、“音楽の妖精”に扮して楽曲の世界観を表現している。ⒸSPEEDSTAR RECORDS

山田さん注目の映像作品

Perfume LIVE 2021[polygon wave]

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神奈川・ぴあアリーナMMで開催された有観客公演。「MIKIKOさん振り付けのPerfumeはいつも驚きがある。3人自体はアナログなのに、ハイテクなものが合わさり、次元が違うエンタメに」。Amazon Prime Videoにて、12月配信予定。写真・上山陽介

『ノマドランド』

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アメリカ西部で経済不況により車上生活者として季節労働に従事しなければならなくなった人々にスポットライトをあてた、クロエ・ジャオ監督作。「コンセプト、つくられ方、描かれるもの、カメラのスタンスまで素晴らしかったですね。美しいものを見たという感じでした」デジタル配信中/ブルーレイ+DVDセット発売中 ©2021 20th Century Studios. 発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン

『ダンシングホームレス』

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どん底の路上生活経験者たちがメンバーのダンスグループ「新人Hソケリッサ!」を密着取材した、三浦渉監督によるドキュメンタリー。「撮る側の“視点”、テーマ選びからその全てが圧倒的」。上映予定は公式サイトで確認を。https://thedancinghomeless.com ©Tokyo Video Center

やまだ・ともかず 1987年11月生まれ、東京都出身。Tokyo Film主宰。‘20年はギャラクシー賞CM部門大賞、ACCディレクター賞、MTV VMAJ 2020の最優秀ビデオ賞“Best Video of the Year”を受賞。

※『anan』2021年9月15日号より。取材、文・小川知子

(by anan編集部)