香港、台湾、そして日本も…? 「アップルデイリー」廃刊にみる中国の脅威

2021.8.28
意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「アップルデイリー」廃刊です。

中国の脅威拡大。一国二制度が終わりを告げた。

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香港に唯一残っていた民主派の日刊紙「アップルデイリー(蘋果日報/ひんかにっぽう)」が6月に廃刊しました。創業者のジミー・ライさんをはじめ、新聞の編集に関わっていた幹部6名が香港国家安全維持法違反の罪に問われ逮捕されました。言論の自由が封鎖され、香港の一国二制度が終わったことを印象づけるニュースでした。

「アップルデイリー」はもともとは大衆ゴシップ紙だったのですが、やがて民主化運動のための機関紙になっていきました。最終号は100万部刷られ、すべて売り切れたそうです。

中国は習近平国家主席体制になってから、今後100年の国家運営のあり方を示しており、その上位に「香港と台湾を一つの中国にする」という言葉が挙げられていました。そのため、次のターゲットはおそらく台湾でしょう。中国が実力行使に出るのか、経済力をもって取り込んでいこうとするのか、その瀬戸際にいま立たされています。

2014年、香港の「雨傘運動」に先立って台湾では「ひまわり学生運動」が広がりました。当時の馬英九総統は、中国と親密な関係を築こうと、貿易交渉を進めていました。本土から台湾への移住者が増え、商売の結びつきを強めて台湾―中国間に自由貿易協定が締結されれば、中国経済依存になってしまう。そうなれば政治的にも呑み込まれ、自由と民主が奪われることを危惧し、学生たちは台湾の国会議事堂である立法院を占拠し抗議の声をあげました。その結果、現在の蔡英文政権が発足。蔡さんは中国に対峙する構えを世界に表明しています。

国が変わる瞬間というのは、革命が起きてひっくり返るのではなく、経済的侵食によってじわじわと塗り替えられていくんですね。香港の人たちは、台湾の次は日本だと話しています。中国の新疆ウイグル自治区や香港に対する非人道的な行いに対し、日本は明確な抗議を示せていません。経済の結びつきがあるため中国を敵に回したくないのです。「アップルデイリー」の廃刊は民主国家にとって無視できない動きですが、同時に、世界ではこれがマジョリティではないという認識にも立っておかなければいけないと思います。

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堀 潤 ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。

※『anan』2021年9月1日号より。写真・中島慶子 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

(by anan編集部)