なぜ『有吉の壁』はヒットするのか? 制作陣が明かす“テレビの新しいカタチ”

2021.8.3
テレビ離れといわれる中、様々な世代に支持されているバラエティ番組『有吉の壁』。大勢の芸人がMC・有吉弘行さんという“壁”に挑んでネタを披露する。シンプルに見える構成に隠れた、時代にマッチしたテレビ作りの新たな姿を、制作陣のインタビューから考察します!

時代は、緻密に構築された笑いから予定調和ではないリアルさへ。

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「ananが取り上げてくれるとは!」と、なんだか意外そうな番組総合演出の橋本和明さん。ゴールデンタイムでの人気ぶりには嬉しい誤算もあったという。

「お笑い番組はおもに男性がターゲットなので、女性に見てもらえていることに驚いています。女性には芸人への親近感があるみたいで、奮闘記や成長物語として見てもらえているようです。『最近、安村さんが調子崩してる…』『パンサーの尾形さん、今日は絶好調!』というふうに、応援しながら追ってくれています。テレビって、ずっとすべてを面白く見せようとしてきましたけど、常にパーフェクトにやるのは、相当キツいんですよ。でも、『有吉の壁』(以下、『壁』)では『今日やっちゃいました…。絶不調です』という状況でも、有吉(弘行)さんや(佐藤)栞里ちゃんが受け止めてくれるからすべて許されるんです」

番組作りで大切にしているのは「誠実であること」。

「今の人は、YouTubeやTikTokを毎日見ているので相当な目利きです。何がリアルでそうじゃないか、すぐ見抜かれてしまう。だから、過剰に演出せず、誠実にリアルに作ることはすごく大事にしていますね。たとえば、コントは表情がオチだったりしますから、ネタを毀損しないように、なるべくテロップは入れません。聞き取りにくいところは入れますが、字で笑わせなきゃいけなくなってしまいますからね」

その対極にあったのが、ひな壇のトークバラエティともいえそう。

「トークが上手い方々が集まり、流れを組み立てていく、いわばショーアップされたプロレスの感覚で楽しむのがひな壇のバラエティ。それももちろん面白いんですけど、緻密に構築されたものは、どうしても最初に考えた範疇に収まってしまいがちなんですよね。『壁』はその枠からはみ出たドキュメンタリー。ある種確立されたお笑い技術では通用せず、先週ウケたパターンが今週はもうウケないということが毎週起こります。そうした予定調和が崩れたリアルさに目の肥えた人が惹かれるのは、時代と一致しているからなのかもしれません」

やるまでどう転ぶか予測不能という厳しい条件下で、芸人たちが必死に考えたネタには口を出さないのが、橋本さんのモットー。

「『パーパーなら歌ネタを』とか『ワタリ119なら体を張って』とか一切言わないです。芸人がやりたいネタにも、よほど問題がない限り、NOと言いません。ネタは全力で戦う芸人の自己表現の域。立ち入る気はまったくありません」

芸人の渾身のネタを、有吉さんが面白いかどうか「○」か「×」で判定する。このシンプルな構造こそが老若男女問わず、受け入れられるカタチだった。

「考えるべきことが一つもない時間って、素晴らしいですよね。マツコ・デラックスさんも『人はそんなにテレビ見ながら考えたいのか』と仰ってましたが、緻密に構築されたウェルメイドなものより、シンプルなもののほうが今の時代の空気に合っている気がします」

MCの有吉さんとアシスタントの佐藤栞里さんのコンビネーションも番組の魅力。

「有吉さんは、そのネタが面白いのか、上手くいかなかったことを問い詰めたほうがいいのか、1日に40回、50回と瞬時に正しく判断していく。これって本当にすごいことなんですけど、その中で、時には芸人に厳しいことを言う場面もあるわけで。その横で、栞里ちゃんが『あ~残念!』とか『頑張ってください』とか小声で言うんですよ。バッサリ斬られた芸人にとってあのひと言は、傷を癒してくれる塗る薬みたいなもの。栞里ちゃんがいなかったら、多くの芸人の心が死んでいますね(笑)。奇跡のキャスティングですよ!」

また芸人の“仲良し感”も、推したくなる今っぽいポイント!

「休憩や移動中も『次は、こんなことがしたいね』とか、よく喋っていますね。安村さんは、ネタが終わると必ず楽屋で、パンサーの菅さんに『今日のネタ、どうだった?』って本気のアドバイスを求めていますよ(笑)。相談相手に菅さんを選ぶところに、安村さんの真面目さが出ています。みんな本当に仲がよくて、スタッフを含めてのびのびやっています。このチーム感は、一朝一夕では作れませんでしたね。ゴールデンに来るまでに、深夜の特番時代から5年かけて関係性を築いて、新しい人が来たら温かく迎えられるベースを作れたことはすごく幸せでした。この番組で、面白い人がちゃんと注目されて、仕事が増えたらいいですね。有吉さんも僕らスタッフもみんなそう思っています」

定番コーナー

「一般人の壁を越えろ! おもしろ○○の人選手権」

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ショッピングモールや学校などでオールロケ。ロケ地にあるものや空間をめいっぱい使い、一般人に扮してネタがテンポよく繰り出される。誰と誰が組むのかも楽しみ。

人気コーナー

「流行語大賞の壁を越えろ! ブレイク芸人選手権」

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チョコプラの「TT兄弟」、シソンヌの「こうへいくんとゴンちゃん」、きつねの「KOUGU維新」など、人気キャラが爆誕。慣れないネタをやるコンビの必死さも面白い。

「なりきりの壁を越えろ! ご本人登場選手権」

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芸人のモノマネに、スターご本人が登場! ご本人ではなく、ただ名前が似ているなど、強引につなげた人が出てくることも。一生懸命覚えたダンスを踊る姿はけなげ。

「スピーチの壁を越えろ! 日本カベデミー賞選手権」

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アカデミー賞授賞式のパロディで、司会の有吉さんがスピーチする芸人を指名し、無茶ぶり全開の質問で追い詰める。答えを捻り出す、芸人の懸命な返しが見どころ。

『有吉の壁』 毎週水曜19時~19時56分放送(日本テレビ系)

橋本和明さん 日本テレビ所属の演出、ディレクター。’03年、入社。現在の担当番組は『有吉ゼミ』『マツコ会議』など。『卒業バカメンタリー』『でっけぇ風呂場で待ってます』などドラマ演出も手掛ける。

※『anan』2021年8月4日号より。取材、文・小泉咲子

(by anan編集部)

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