尾上右近「願ったり叶ったり」 悪役ばかりの“汚いミュージカル”に挑戦
“汚いミュージカル”に意欲満々。「周りの期待を裏切っていきたい」
「いまって、コンプライアンスの網目がどんどん小さくなっている時代ですよね。エンターテインメントの中でタブーを描くには、たぐい稀なる技術とセンスを持った者じゃないと容易にすり抜けられなくなっている。古田さんは、それを舞台という場所でとことんやりたいとおっしゃっていて、僕自身も以前からそこに踏み込んでみたいと思っていたので、願ったり叶ったりでした」
と話すのは、古田さんと共に主演に名を連ねる歌舞伎俳優の尾上右近さん。「そもそも歌舞伎自体がアングラだったり、グロテスクな題材とかタブーに触れたりしているんでね」と、涼しげな顔を見せる。
「人って怖いもの見たさというか、どこかに悪に惹かれる気持ちがある。この作品にはこれでもかっていうくらい悪者ばかりが登場するんですけれど、その悪者たちがごもっともなことを言ったりするんですよ。じゃあなぜ悪がダメなのか。そういうことを考えさせられたりもするはず。光と影とか陰と陽とか、ふたつでひとつを構成する要素は多くあるけれど、どっちも知らないとその大切さってわからないと思いますし」
先月右近さんが歌舞伎座で演じた『三人吉三』に代表されるように、歌舞伎も悪役が主役の演目は数多い。
「悪役は真っ当な役以上に役者の人間としてのパワーとか迫力が必要とされるんですよね。目の奥までしっかり悪に染まらないとカッコよくならないし、説得力もない。変な話、誠心誠意やらないと難しいんです」
しかも今回は、歌ありダンスありのミュージカル仕立て。いきものがかりの水野良樹さんらによる楽曲は「ブラックミュージックが基調となっている」そう。
「そもそも華やかなミュージカルを予想されている方はいないと思いますけれど、それでも想像を軽々と超えた感じになっていると思いますよ」
右近さん自身、子役時代から身を置く歌舞伎はもとより、家業である日本の古典音楽・清元、さらに現代劇やミュージカル、テレビのバラエティと、さまざまな分野を軽やかに行き来している印象。しかし本人は「毎回テンパっていて、首の皮一枚で繋がってる感覚」とか。飄々と見えるが、「首の皮がだんだん厚くなってるだけです」と苦笑する。
「新しい歌舞伎座ができた頃から、肩書より個人の力が大事だという思いが強くなりました。僕はまだまだ立場的に歌舞伎役者として踏襲、継承するものがないし、ある意味好きにやってもいいんだと思ったとき、ヒリヒリした状況に身を置く方が自分には合っている気がして(笑)。この作品もですけれど、周りの期待や想像を裏切っていきたいんです」
『衛生』~リズム&バキューム~ 社長の良夫(古田)と息子の大(右近)が営む、し尿汲み取り業者「諸星衛生」は、金のためなら殺人も厭わないという経営方針でのし上がってきた。そんななか従業員の麻子(咲妃)が大との間に子供を授かり…。7月9日(金)~25日(日) TBS赤坂ACTシアター 脚本・演出/福原充則 出演/古田新太、尾上右近、咲妃みゆ、石田明(NON STYLE)、村上航、佐藤真弓、ともさかりえ、六角精児ほか S席1万3500円 A席1万円 キョードー東京 TEL:0570・550・799 大阪、福岡公演あり。
おのえ・うこん 1992年5月28日生まれ、東京都出身。歌舞伎俳優。清元栄寿太夫の名で歌舞伎の伴奏音楽の唄方としても舞台に立つ。昨年には『ジャージー・ボーイズ・コンサート』にも出演。
カットソー¥14,300(KURO/KURO GINZA TEL:03・6274・6257) ブルゾン¥19,800(TOWN CRAFT/C.E.L STORE TEL:03・6459・3932) パンツ¥31,900(CULLUNI/Sian PR TEL:03・6662・5525)
※『anan』2021年7月7日号より。写真・中島慶子 スタイリスト・三島和也(Tatanca) ヘア&メイク・白石義人 インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)