MONO NO AWARE、新アルバムは「ありのままでいることの価値観」にフォーカス

2021.6.15
MONO NO AWAREの曲を初めて聴いた時、セオリーにとらわれない自由な音の奏で方と、言葉使いのセンスが独特なバンドだなと感じた。ニューアルバム『行列のできる方舟』を聴いて、ますます“こんなバンド、他にいない感”が強まり、嬉しくなった。

みんなのありのままの心境を音楽として言語化したかった。

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「3作目までは人間の優しい面を曲にして、優しい人コミュニティをつくる感覚でしたけど、それが前回の『かけがえのないもの』で完成した気がしていました。今回はそれよりみんなが実は、抱えてるありのままの心境を言語化できないかな、と思ったのが制作のスタートでした」と話すのは、全曲の歌詞を手がける玉置周啓(Vo&Gt)さん。メンバー4人は熱いメッセージを投げかけるバンドを聴いてきた世代だと思うけど、その影響は本作でも希薄。それが彼らの個性でもあるのだけど。

「みんな頑張っていこう! ではなく、言語化できないもの、微妙な心境をどう詰めていくかを、考えていますね。もともと内気な4人なので、その心の内が音楽にも絶妙に出ていると思う。明るい気持ちで頑張ろう、という提示は、そもそもしていないです」(加藤成順・Gt)

『行列のできる方舟』は、玉置さんがメロディに歌詞の一部の大事なワードだけをのせた状態でメンバーに示し、トラックをつくり、最後に歌入れをしたそう。そんな制作もはじめての試みだったとか。レコーディングは歌詞がヌケていて不安じゃなかったのだろうか。

「私はテーマについて聞きすぎてしまうと、そっちに寄せてしまうので(笑)、わからないまま自分で見えた風景とか、ふんわりとしたイメージでとどめておいたことがよかった気がします」(竹田綾子・Ba)

「レコーディングしながら、例えば女性らしさのような誰かが描いた理想像に向かって頑張るというより、このアルバムは、ありのままでいることの価値観にフォーカスしているのかな、となんとなく思いながら創作しました」(柳澤豊・Dr)

このアルバムを聴き終わって感じるのは、さまよっていた心が落ち着きを取り戻すようなピースフルな感覚だ。前に進むよりも、ちょっと自分を見つめてみよう、私は私だもの、という気持ち。

「今回のニューアルバムの全体のトーンをいちばん表しているのが『異邦人』という曲だと思います。人間はみんなバラバラです、ということを分かりやすく伝えたかったんですよね」(玉置)

とにかくすべての歌詞を、じっくり読むことをおすすめ。玉置さんの言葉の裏にある景色を想像するのも楽しいアルバムだと思う。

「『方舟』とは頑張った人だけが乗れる理想郷ですが、過去100年はあったかもしれないけど、もうないんじゃないかと思う。いま助かる方法は、自分の身でもってどうにかするしかない、と感じます。それはアルバム全体で言いたいことのひとつ」(玉置)

最後に嬉しい話。玉置さんが大学生の時、グループワークで歴代のananを取り上げ、“時代とananの関連性”を、国会図書館に通って調べ尽くしたそうでびっくり。

「時代とともにエロくなっていったことがわかった」とのことなので、そのレポート読んでみたいな。

もののあわれ 左から、柳澤豊(Dr)、竹田綾子(Ba)、玉置周啓(Vo&Gt)、加藤成順(Gt)。2017年に『人生、山おり谷おり』でデビューし、独特の言語感覚とユニークな楽曲が注目された。レコ発ツアー「ODORI CRUISING」は6月20日の札幌を皮切りに、ファイナルの7月25日の東京Zepp Diver Cityまで7都市を回る。

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4th Album『行列のできる方舟』。劇場アニメ『海辺のエトランゼ』主題歌「ゾッコン」や、配信シングル「そこにあったから」に、新曲8曲を加えた全10曲入り。¥2,860(SPACE SHOWER MUSIC)

※『anan』2021年6月16日号より。写真・川村恵理 取材、文・北條尚子

(by anan編集部)