Utena Kobayashi「“悲しみ”がひとつのキーワード」 新アルバム発売

2021.4.11
あるときはスティールパン奏者として音楽仲間とのセッションに心を震わせ、あるときはコンポーザーとして劇伴、広告音楽などを理知的に制作する。そして、ソロ作ではクラシック音楽を長く嗜んできた経験に裏打ちされた、神秘的なムードを醸した物語性のあるトラックメイキングでリスナーを惹きつける――。そうした多面的な才能を持つUtena Kobayashiの楽曲に心酔し、共鳴するアーティストや音楽ファンが、続々と増えている。

心に刻まれた悲しみに向き合い、今を生きる。

Entame

昨年は3か月連続、デジタル配信で3枚のEPをリリース。異世界の神話を思わせるような独自の空想世界を構築した「耳で読み、耳で視る」ことの楽しさを内包した作品群。第1弾は“飽和から再生”。第2弾は“悲しみ”。第3弾は“門”。物語性の強い連作の“結び”として制作されたコンセプトアルバムが本作『6 roads』。一般的なCDの形態とは一線を画す、物語と絵画が共に楽しめる絵本仕様となっている。

「作曲をするときには、ほぼ90%の割合で『物語』が付随しています。例えば、あらかじめプロットを練ってから曲を作るのではなく、作っている間に『これは、田園風景で死者を弔っている葬式の歌だな』と、断片的なシーンが生まれます」

自身の心の奥底に向き合い、一つ一つのシーンを大切に紡いだ本作の物語は、ある2つの惑星で暮らす悲しみを背負った2人の少女たちの人生が描かれているという。

「私が作る楽曲は“悲しみ”がひとつのキーワード。生きていたら誰しもが抱く普遍的な感情ではあるけれど、悲しみを感じるトリガーは人の人生の数だけある。他者の悲しみと自分の悲しみは比べることができないし、計り知れない。そうした想像力を持つことの大切さを自分への戒めとして、心に刻み込みたくて作った楽曲もあります。“悲しみ”と“記憶”は深く繋がっていて、過去の記憶をふと思い出して悲しくなってしまうことがあるけれど、突き詰めて考えると、その記憶を忘れてしまうことがいちばん悲しい。これまでに感じた痛みを乗り越えて、今の自分を肯定し、自分の殻を破る精神の在り方を、アルバム制作を通して見つけたかったんです」

Utena Kobayashiのスペクタクルサウンドにどっぷりと身を浸す。ある種の瞑想的な行為が、過去に置き忘れてきたものを浮かび上がらせ、今を生きるエネルギーをもたらしてくれるかもしれない。

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アルバム『6 roads』は全7曲をセルフプロデュース。Utena Kobayashiが書いた物語に浮かび上がる情景をアーティストのsemimarrowが描きおろし、「絵本」を付随した作品として発売中。5280円(Caroline International)

うてな・こばやし 実力派バンドD.A.N.、気鋭のラッパー KID FRESINO、蓮沼執太フィルなどのライブメンバーのスティールパン奏者として、幻想的な音色を繊細に紡ぐ。ソロアーティストとして“希望のある受難”をテーマに楽曲を制作している。

※『anan』2021年4月14日号より。写真・小笠原真紀 取材、文・矢島聖佳

(by anan編集部)