「家族が重荷だった」…“普通じゃない”家族を描いたエッセイ『しくじり家族』

エンタメ
2020.12.25
耳が聞こえない両親、元ヤクザでけんかっ早い祖父、カルト宗教にハマる祖母ーー。登場人物を並べると小説のようだが、『しくじり家族』はフリーライターの五十嵐大さんが「普通じゃない家族」との関係を綴ったエッセイ。障がいのある母が大嫌いだったという思春期の葛藤を吐露したウェブの記事が編集者の目に留まり、本作につながった。

大人になったからわかる、いびつで不器用な家族の愛。

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「無名の自分の個人的な話が本になりうるのか、最初は戸惑いがありました。でも、うちほどややこしい家族はそうそうない(笑)。僕の体験が、家族に悩む人の力になれるかもしれないと思いました」

両親や祖父母が普通じゃないと気づいた小学生の頃から、家族が重荷だったと、五十嵐さん。近所の人や友だちから好奇と偏見の目で見られ、時には心ない言葉を浴びせられ傷つき、その“原因”である家族と衝突を繰り返して。そんな幼少期からのやり場のない怒りや悲しみ、そして家族への複雑な思いが、最後までわかり合えずに逝った祖父の葬儀を通して描かれる。それは家族を遠ざけ、ずっと目を背けてきた過去と正面から向き合う作業だった。

「自分の幼さや汚い部分も含めて、イヤな思い出をひとつひとつ確認して描写するのが本当にしんどくて。でも、ただ恨みつらみを詰め込んでも意味がない。一番辛かった子どもの頃の自分を励ます感覚で、重苦しくならない文章と読んだ後に考える余地が残る内容を心がけました」

その言葉通りの淡々とした語りが、自身の心の揺れや不器用ながらお互いを思う家族の姿を鮮明に浮かび上がらせる。そして終盤に明かされる五十嵐さんの誕生までの経緯と両親の愛情が胸に迫り、温かい気持ちに。

「書き終えた時、本当にスッキリしました。書くことで心の整理ができたのと、幸せな瞬間もたくさんあったのだと再認識できたから。家族を憎んで悩んでばかりいた昔の自分も救われた気がしています」

五十嵐さんは現在、手話や視覚を中心とした「ろう文化」や社会的マイノリティの取材を精力的に重ね、今後も続けていくという。

「当事者に近いから聞ける話もあるし、祖父母の話題はフックになる。物書きとしての武器をくれた家族に感謝したいですね。…なんて言えるくらい、大人になりました(笑)」

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『しくじり家族』 ややこしい家族から離れ、東京で“普通”を擬態して暮らすぼくのもとにある日、祖父が危篤という連絡が入り…。CCCメディアハウス 1400円

いがらし・だい 1983年、宮城県生まれ。2015年からフリーライターとして活動し、アンアンでも執筆。本作がデビュー作となり、母との関係を描いた次作も近々発売予定。こちらも要注目!

※『anan』2020年12月30日-2021年1月6日合併号より。写真・土佐麻理子(五十嵐さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・熊坂麻美

(by anan編集部)

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