ユーミンに専業主婦になった過去が! 「再ブレイク」のしんどさを語る

2020.12.16
毎年この季節になると聞こえてくる冬の定番ソングといえば、ユーミンこと松任谷由実さんの「恋人がサンタクロース」。1980年にリリースされたこの曲は、クリスマスは恋人と過ごす日、という新たな価値観を日本人に染み込ませたともいわれている。「常に、今ないものをやりたい、今ないものでヒットを生みたいと思ってきたんです」――エッジの利いた衣装に身を包み、麗しい表情を見せてくれたフォトセッションの後、柔らかな口調でそう語ってくれたユーミン。でも、「今ないもの」を生み出し続けるなんて簡単なことではない。
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’72年のデビュー当時は、アイドルたちが昭和歌謡を歌い、学生運動の傍らフォークソングを歌う若者がいる時代。そこに登場したユーミン(当時は荒井由実名義)の音楽は「ニューミュージック」と呼ばれた。

「当時は自分が作る音楽が、今までにない新しいものだともわからなくて。テレビ番組のオーディションに譜面を持っていくと、2小節ごとに転調する私の曲を局付きの楽団のおじさんたちが演奏できなかったのは覚えています(笑)」

「ベルベット・イースター」「やさしさに包まれたなら」「ルージュの伝言」といった初期の名曲たち。洗練された言葉と美しいメロディで、ユーミンの音楽世界はデビュー当時から既に完成されていた。10代でフランス文化に憧れ、米軍基地の近くで暮らしていたことで様々な海外のカルチャーに触れて育ったことも影響している。

「10代の頃は、頭の中にエッフェル塔が立ってる感じ(笑)。オタクなんて言葉はまだなかったけど、オタクだったの。米軍基地の売店でロックのレコードを探して、ライナーノーツを自分で必死に訳したりしてたな」

14歳で作曲を始め、17歳でレコード会社と契約。その頃、後にYMOで活動する高橋幸宏や細野晴臣らと出会い、ファースト・アルバム『ひこうき雲』を発売。インターネットのない時代に「じわじわと口コミで」売れていった。

「でもレコード会社は『次はもうちょっと売れてもらわないと』みたいな雰囲気で。セカンド・アルバム『MISSLIM』の『海を見ていた午後』にある〈ソーダ水の中を 貨物船がとおる〉というフレーズも、『どういう意味?』と難色を示された。だけど2枚目が最初から好調で(笑)。自分らしさを守る戦い、みたいなものをしなくても売れたんですよね」

一度は専業主婦に。でも音楽をやめられなかった。

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’76年にミュージシャンの松任谷正隆と結婚後、一度は専業主婦になろうと考えたが、松任谷由実名義で音楽シーンにカムバックした。’81年に「守ってあげたい」で再ブレイクできたことは、長いキャリアの中でも彼女にとって特に大きな出来事だったという。

「結婚して家庭に入ったらユーミンのブームが終わっちゃった。でも1年半くらい経った頃『やっぱり音楽はやめられないな』と。もう一度やるなら売れないとまずいと思い、地道にライブを続けていたら『守ってあげたい』がヒットして。今考えても再ブレイクってすごいエネルギーが必要でした」

そこから’90年代にかけてのユーミンの快進撃は、まさに奇跡の連続。「リフレインが叫んでる」「真夏の夜の夢」「Hello, my friend」「春よ、来い」など時代を彩るヒット曲を生み出し、日本のエンタメ界の最先端をゆくライブ・パフォーマンスでも話題を集めた。

これまでアルバムの総売り上げは、ソロ歌手史上初の3000万枚を突破。今年の12月に届けられた新作『深海の街』は通算39枚目のオリジナルアルバムとなる。これだけのキャリアがあれば何もコロナ禍の2020年に新作を出さなくてもいいのかもしれない。でもユーミンはそう考えなかった。

「去年の時点では次のアルバムは『SURF&SNOW vol.2』みたいなコンセプトで考えていました。でもコロナ禍にリリースするものとしてそれはないな、今年はアルバムは出せないだろうなと。でもこういう時だからこそ大変な思いをしている人に響く音楽があるんじゃないかと。6月末から本気で制作をスタートさせました」

まつとうや・ゆみ 1972年、荒井由実としてシングル『返事はいらない』でデビュー。以来、「ひこうき雲」「やさしさに包まれたなら」「真夏の夜の夢」など数々の名曲を生み出しJ‐POPシーンを牽引し続けている。

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※『anan』2020年12月23日号より。写真・伊藤彰紀(aosora) スタイリスト・服部昌孝 ヘア&メイク・遠山直樹 取材、文・上野三樹

(by anan編集部)