一歩間違えば恐ろしいことに? 「学術会議」問題から考える“政治と科学”

2020.11.26
意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「日本学術会議」です。

さまざまな論点が浮き彫りに。透明性が重要です。

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日本学術会議の新会員候補者のうち6名の任命を菅総理が拒否。その理由がなかなか明らかにされていないことから、さまざまな憶測が飛び交い、日本学術会議のあり方が問われるまで、大きな問題になりました。

日本学術会議は、昭和23年に日本学術会議法という法律で定められた内閣府直轄の政府機関。日本の科学技術が戦争に利用されていった歴史を踏まえ、科学が文化国家の基礎という考え方に立ち、国の施策や生活に科学を反映させ、平和的な復興、人類社会の福祉への貢献、世界の学会と提携して学術の進歩に寄与するという目的で設立されました。また、技術の発達とともに、たとえばAIやゲノム編集など、倫理的な問題や高度な政治判断が求められるようになり、6月に科学技術基本法が見直され、科学技術に人文科学系の分野も含まれるようになりました。

「科学者を養成するためにこういう施策を」「この分野に科学技術の浸透を」など、科学界から政府に対して提言・勧告するのも役割なのですが、最近では、見解を問われていない事柄については意見の発表を行わないなど、「ちゃんと機能しているの?」という批判もあがりました。日本学術会議は、独立した機関と説明をしていますが、内閣府の直轄で税金が投入されているため、本当に独立していると言えるのか? という声もあります。

今回の任命拒否が、候補者の反政府的な発言や行動が理由だった場合、議論は2つに分かれます。ひとつは、国の機関なのだから、自分たちの政策に反対する人をわざわざ任命する必要はないだろうという意見。もう一つは、科学が間違った使われ方をしないためには国の方針に物言いをつけられる独立した存在としての役割を期待したい。だからこそ、反対意見を持つ人も必要という考えです。科学者の意図しない形で、技術が政治に使われてしまった最たる例は原子爆弾です。政治と科学のつながりは一歩間違えば恐ろしいことに。あらゆる観点から検証する慎重さが求められます。安全保障上の問題で、理由を説明できない事情があるのかもしれませんが、政府は情報の透明性を大事にしてほしいと思います。

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堀 潤 ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。

※『anan』2020年12月2日号より。写真・中島慶子 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

(by anan編集部)