森山未來「ある種シブくいきました」 “かませ犬”ボクサーを演じる

2020.11.29
新作映画『アンダードッグ』に主演した森山未來さんにお話を聞きました。

タイトルにもなっている“アンダードッグ”とは、対戦相手を引き立てるために用意された“かませ犬”のこと。今作で森山さんが演じるのは、かませ犬としてリングに立ち続けるボクサーの晃。

生きる場所を求めてボクシングにしがみつく、負け犬たちの物語。

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「以前に、武(正晴)さんが監督した足立(紳)さん脚本の『百円の恋』というボクシング映画を観て素敵だなと思っていたんです。今回も同じチームだし、あの愚直な感じがやりたいなと思っていましたけど、脚本のありかたも撮りかたもやはり…愚直でしたね(笑)。段取りとか、細かな芝居の内容とかより、現場がいかにドライブしているかを重視していて、その熱を撮ろうとしている感じっていうのかな」

晃は、一度は日本ランク1位まで上り詰めながらも大事な一戦で敗北を喫し、「過去から抜け出せなくて体だけが彷徨ってしまっている」人物。それを演じるのは、「なかなか我慢が必要で苦しかった」とか。

「自分から何かを動かしていくキャラクターじゃないんですよね。周りにいる人たちが動いていっているのに、彼だけがいつまでも動けずにいる。もう一度立ち上がるには、あのときの敗戦と向かい合うしか方法はないんだけれど、それもできずにいる。無口を貫き、堕ちるところまで堕ち、ボクシングでしか感情を発露する場面がない。足立さんも武さんも、そういう晃の姿を、あえてなのかすごく淡々と描いているんですよね。だからこちらも無駄なサービス精神は排したほうがいいだろうと思って、ある種シブくいきました。晃の感情がどう動いていくのか、僕の頭のなかでは考えていましたが、それを演技として見せる必要はないというか。そのドラマ的な部分は、リングに上がっている瞬間にだけ見せられたらいいのかなと」

役について話しながら、「こういう負け犬みたいな役をいただくことが多いけど、なんでなんやろ」と、ぼそり。しかし画面の森山さんからは、虚ろな瞳や歩きかた、さりげない仕草や表情に、ここまでの自堕落な日々が滲み出てくるようだった。

「晃は感情が動かないというか、凪いじゃってるんですよね。でもボクシングの練習をしているとアドレナリンが出るのか、刹那的な、生きている実感があるんです。これがある程度順調な人生だったらまた違うのかもしれないけれど、彼の場合、ボクシング以外にそういう感覚を得られる場所がない。そういう人だからこそ、殴ったり殴られたりするのが許される場所に対してアクティブになるっていうのは、ある気がします」

映画は、前・後編合わせて上映時間4時間半にも及ぶ大作に。

「今の時代、スマートに生きることを良しとするような空気感があるじゃないですか。そんななかで、こういう泥くさい物語をどれだけの人が求めているのかなと思うんです。愚直に生きることのつらさとか、美しさがあるのはわかりますけど。でも、このジリジリした感じは、武さんと足立さんのふたりだからできること。上映時間の長さも含めて、挑戦的な作品だと思っています」

近年、ダンサーとしても精力的に活動し、自ら振り付けや演出などもおこなっている。そんな森山さんだからこそ、いま俳優という仕事にどんな魅力を感じているのだろう。

「映像に関しては、監督という存在に身を委ねるということの、ある種の気楽さはあります。あと自分じゃない人生の片鱗を見させてもらえるっていう好奇心じゃないかな」

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『アンダードッグ』 デリヘル嬢の送迎で日銭を稼ぎながらもボクシングにしがみつく晃(森山)。荒んだ過去を持つ龍太(北村)。芸人として崖っぷちに立たされた宮木(勝地)。3人の男たちがボクシングのリングの上で対峙する。監督/武正晴 原作・脚本/足立紳 出演/森山未來、北村匠海、勝地涼ほか 前・後編11月27日ホワイトシネクイントほかで同日公開(R15+指定) https://underdog-movie.jp ©2020「アンダードッグ」製作委員会 配給:東映ビデオ

もりやま・みらい 1984年8月20日生まれ。兵庫県出身。毎週土曜19:45~NHK Eテレで放送の『オドモTV』に出演中。12月28~30日に3夜連続放送予定のドラマ『岸辺露伴は動かない』(NHK総合ほか)の第2話に出演。

トップス¥29,000 パンツ¥25,000(共にLAD MUSICIAN/LAD MUSICIAN HARAJUKU TEL:03・3470・6760) シューズ¥37,000(NEPCO FOOTWEAR/NEPENTHES TEL:03・3400・7227)

※『anan』2020年12月2日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・杉山まゆみ ヘア&メイク・須賀元子 インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)