戦前の日本に近づいている? 「共謀罪」で揺らぐ“安全と自由”

2017.6.15
意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する連載「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「共謀罪」です。

安全のために本当に必要か。疑問点も多々。

堀潤

「共謀罪」の趣旨を含む、組織的犯罪処罰法の改正案が、5月末に衆議院で可決されました。必要性や処罰の対象範囲が曖昧なままの強行採決でした。政府は、テロ対策に必須な「テロ等準備罪」と呼んでいますが、小泉政権時代に3度廃案となった「共謀罪」の内容を一部修正したものです。これは、実際に罪を犯さなくても、複数の人間が集まって犯罪を計画し、実行の準備が始まった段階で罪に問われるというもので、対象となる罪は277にのぼります。

ただ、「組織的犯罪集団」の基準は明確ではないため、罪のない市民が捜査対象にされる可能性も出てきます。たとえば、桜並木の下を友達と歩いているとき、それが花見なのか、犯行現場の下見なのか、どう判断をつけるのか? 犯罪を計画した心の内が罪の対象になるため、捜査機関の恣意的な解釈によって、適用される危険性もあるんですね。これは戦前の「治安維持法」に酷似しており、公の場で自由にものが言えなくなるのではと、強く反対する声が多く出ています。

法案成立を急ぐ理由もいまひとつわかりません。政府は、「国際組織犯罪防止条約」を批准するため、共謀罪は必須と主張していますが、日弁連は従来の刑法でも問題ないと話しています。

安全か自由か。この2つを天秤にかけたとき、安全のためには自由が制限されることを人は意外にも簡単に受け入れてしまうんですね。そして、その状態が当たり前だと思ってしまう。たとえば空港。9・11以降、手荷物検査が大変厳しくなりました。ペットボトルを持ち込めなくなり、PCはカバンから取り出さねばならなくなりました。テロを避けるためには仕方がない、とも思いますが、監視社会は勢いを増しています。羽田空港の警備員はウェラブルカメラを装着していて、空港訪問者の全記録を残しています。街の監視カメラも増えました。今は、路上で反政府的な歌を歌っても咎められませんが、国の意向次第で問題視されるようになるかも?

何より怖いのは、「何をされるかわからない」という空気が広まって、皆が口を閉ざしてしまうことです。そうして、戦争に突入した75年前を忘れてはならないと思います。

堀 潤 ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN

※『anan』2017年6月21日号より。写真・中島慶子 文・黒瀬朋子

(by anan編集部)


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