原田美枝子、菅田将暉とは「大変な現場を共に戦っていく同志みたいな感覚でした (笑) 」

2022.9.16
黒澤明、神代辰巳、深作欣二、実相寺昭雄…日本映画のレジェンドのような監督たちから愛されてきた“ザ・女優”ともいうべき人。でも目の前に現れた原田美枝子さんは、とても軽やかで少女のような可憐さを持った方でした。
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――まずは新作映画『百花』について伺わせてください。本作は、認知症で徐々に記憶を失っていく母と対峙する中で、主人公の泉(菅田将暉)が封印してきた幼い頃のとある記憶と向き合っていく物語です。認知症と診断される母・百合子という役に、どのような思いで向き合われたんでしょう。

私が手がけた『女優 原田ヒサ子』という映画の公開が、ちょうどコロナ禍が始まった時期に重なってしまったんですけれど、その公開初日に(『百花』の原作者で監督の)川村元気さんが観に来てくれたんです。川村さんも映画『百花』を準備していて、私の映画と共有できるものを感じてくれたそうで、出演オファーをいただきました。

――脚本を読まれて、作品のどこに惹かれたんでしょう。出演を決めたポイントはありましたか?

気になったのは、百合子の過去…そこが物語のキーポイントになるわけですけれど、若い時代をどなたがやるのかなぁということでした。直感的に、両方の時代を同じ俳優が演じたら面白いとは思ったんですが、私がやる自信はまったくないわけです。だけど、監督に「同じ俳優がやったほうが面白いと思うんですよね」と話したら、わりと軽くOKしてくださって、逆に私が「いいんですか?」って(笑)。川村監督が勇見勝彦さんという優秀なヘアメイクの方を探してきてくださって、なんとか成り立つ雰囲気になったんですけれど、当の私は、もう本当にやるしかないのかなと、弱気から始まった撮影でした。

――違和感がないどころか、撮影技術以上に、原田さんの表情や雰囲気が全然違っていて自然でした。意識されたことはありますか?

撮影に入る前に川村さんとお会いしたときに「40代と60代の違いって姿勢なんですよ」とおっしゃられたんです。ただその頃、腰痛が悪化し、まっすぐ立てない状態になっていて。今の私では到底40代の役はできないと思い、トレーニングしながら腰を矯正するところから始めました。それはなんとか間に合ったんですが、それより大変だったのは、40代を演じても大丈夫だと自分を鼓舞すること。そこにすごく時間がかかりました。私がちょっとでも無理しているのが見えたら、映画をご覧になる方は物語に入れない。作品の邪魔になるのが一番困るので。

――息子を演じられた菅田将暉さんとのやり取りはいかがでした?

正直、最初の頃は撮影が本当に大変でした。監督のこだわりで、1シーン1カットで撮影していたんですが、とにかく全然OKをくれないものだからテイク数がものすごく多くて、私はヘトヘトになりながらやり続けた感じです。川村さんは最初から長回しで撮りたいと決めていらしたんですけれど、そこに固執しすぎちゃうと逆にうまくいかないんじゃないかという不安がありました。でも途中から、監督はいわゆるわかりやすい芝居を超えたところに滲む何かを撮りたくてそうしたんだなとわかってきて。監督を信頼していいんだと思ってからは楽…ではないけれど、よかったです。ただ、そこに辿り着くまでが大変だったので、菅田くんとは大変な現場を共に戦っていく同志みたいな感覚でした(笑)。

――原田さん自身は、この作品のどこに魅力を感じられましたか?

この年齢になると、おばあちゃんとかお母さんという若い人を優しく見守る役柄が多くなってくるんです。でもこの『百花』は、理想的な母親像から一歩踏み込んで、シングルマザーである百合子の背景…ひとりの女性として生きてきた姿が描かれているのが面白いなと思います。

原田さんが出演する映画『百花』は、川村元気さんが自身の体験を元に綴った同名小説を題材に、川村さん自身が脚本・監督を務めて映画化した。レコード会社に勤務する葛西泉(菅田将暉)と、認知症と診断され記憶を失っていく母・百合子(原田美枝子)との、封印していた過去の記憶と親子の愛を巡る物語。

はらだ・みえこ 12月26日生まれ、東京都出身。1974年にデビュー。黒澤明監督の『乱』『夢』をはじめとして、増村保造、深作欣二など数々の名匠の作品に多数出演。’98年の『愛を乞うひと』で第22回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞など受賞歴多数。NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』に出演中。自身が監督した短編ドキュメンタリー映画『女優 原田ヒサ子』は、現在、Netflixにて独占配信中。

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※『anan』2022年9月21日号より。写真・樽木優美子(TRON) スタイリスト・坂本久仁子 ヘア&メイク・Eita(Iris) インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)