志村 昌美

もし人生をやり直せたら…25年を振り返って気がついた後悔と答え

2020.11.3
ふと過去を振り返ったとき、「あのときこうしていれば」とか「もう一度あの瞬間を味わえたなら」と思い出すことってありますよね? そこで、改めて自分の人生について考えずにはいられない話題作をご紹介します。それは……。

胸アツ間違いなしの『PLAY 25年分のラストシーン』

【映画、ときどき私】 vol. 336

1993年、パリに暮らす13歳のマックスが夢中になっていたのは、両親からもらったビデオカメラで家族や友人との日々を撮ること。いつしかそれは彼のライフワークとなり、初めての恋心や黒歴史ともいえる仲間とのやんちゃな遊び、そして手痛い失恋まで、すべての瞬間がカメラに収められていた。

それから25年。38歳になったマックスは、仕事もプライベートも低空飛行が続いていたが、ある出来事をきっかけに撮りためた25年分のテープを見返す。そこには、いつもカメラの後ろで本心を隠していた自分の姿があった。大切なものを失ったことに気づいたマックスは、“とっておきのラストシーン”を撮ろうと決意するのだった……。

1990年代から2010年代までを舞台に、25年という時間の流れをホームビデオの映像で見せるというユニークな手法を取った本作。今回は、こちらの方に見どころをお話いただきました。

アントニー・マルシアーノ監督

主人公のマックスを演じた俳優のマックス・ブーブリルとの共同脚本で本作を完成させたマルシアーノ監督。自伝的要素も含まれている本作に込めた思いや撮影の裏話などについて、語っていただきました。

―最初にこの作品を思いついたきっかけは、どんなことだったのでしょうか?

監督 僕は1979年生まれで、携帯電話とインターネットが存在しない世界で育ちました。当時はバカンス先で恋に落ちた相手から手紙の返事が来るのをドキドキして待っていたり、やっと相手から家の電話にかかってきたと思ったら母親から受話器を渡されたり…なんてこともありましたよね。

それが現代に比べていいというのではなく、なんとなく昔に対するセンチメンタルな気持ちがあり、もう一度追体験したいと思ったのがきっかけです。

―まるで映画のなかの登場人物たちと一緒に時間を共に過ごしたような感覚になりましたが、どれくらい個人的なエピソードを入れているのでしょうか?

監督 劇中のエピソードは、ほとんど実際に僕たちが体験したものを入れました。今回は、主演のマックスと共同で脚本を執筆しましたが、僕たちは同い年で、ともにパリで育ち、同じような経験をしてきていることに改めて気がついたので、そういった部分を脚本に反映しています。

最大の挑戦は、観客を懐かしい気分にさせること

―そのなかでも、「この出来事だけは絶対に入れたい!」と思ったものは?

監督 いくつかありますが、まずは主人公のマックスが運転免許を取ったあと、初めての運転でほかの車に追突してしまい、相手ともめるシーン。あれはマックスが本当に経験したものなんですよ(笑)。あとは、幼なじみのエマと池で小舟に乗っているときのエピソードですね。この話は、僕が子どもと一緒に過ごした誕生日に起こった出来事にちなんでいます。

―どれも実体験とはおもしろいですね! マックスの性格やキャラクターは、監督とマックスさんのどちらでしょうか?

監督 これも僕たちふたりが混ざっていますね。僕に似ている部分も大きいし、マックスの部分もある、という感じかなと。

ただ、マックスは俳優として人生の早い時期に成功して、華やかなパーティに行ったり、女の子と付き合ったり、僕ができなかったことを先に体験しているんですよ。しかも、彼は男前ですからね(笑)。なので、18歳以降はどちらかというと僕に近いかもしれませんが、18歳より前はふたりが混ざっていると言えると思います。

―なるほど。では、撮影で苦労したのはどのようなことでしたか?

監督 観客を懐かしい気分に浸らせることこそが、この映画における最大の挑戦でした。そのために、できる限りリアルに見せる必要があったので、技術面では映像をアナログ風にするための加工処理に時間をかけています。

演出面では、俳優たちに普通の映画とはまったく違う演出指導をしました。たとえば、通常は登場人物がカメラ目線になったり、カメラを撮っている人と話したり、誰かが話しているときに別の人が話を始めたり、誰かが話し始めてもすぐにその人を撮らなかったり、ということはないですよね? 

ただ、この作品ではこういった新しい手法を取ることで、役者たちが実際に彼ら自身の人生を生きているかのように撮ることができたと思っています。

アナログな映像には、独特な魅力がある

―確かに、それによって臨場感があり、非常にリアルにも感じました。監督はアナログとデジタルの両方経験している世代ですが、撮影するなかで改めてアナログの良さを感じることもありましたか?

監督 僕はすごくノスタルジックな人間なので、過去の思い出にすごく思い入れがありますし、アナログの映像には独特の魅力を感じています。たとえば、スマートフォンではいつでもどこでも撮れるので、撮れる限り撮ろうとして事前に厳選することはありませんよね?

でも、僕が10代の頃にビデオカメラでいろいろと撮っていたとき、フィルムは大事だったので撮る前に何を撮るかきちんと考えていました。そんなふうに撮った映像は、いまよりもずっとおもしろいものだったと感じていたので、そういった部分はこの映画のヒントにもなっていると思います。

―とはいえ、デジタルならではの利点を感じることもあるのでは?

監督 もちろん、それもありました。特に、いまの時代で優れている点は、いつでも何でも撮れること。以前だったら、出来事が起こったあとにしか撮れないこともありましたが、いまはその出来事が起きた瞬間をすぐに撮ることができますからね。

―この作品を制作するなかで、監督自身もご自分の25年を改めて振り返ったと思いますが、もう1回過去に戻ってやり直したいと思ったことはありますか?

監督 やり直したいというか、全部もう一回体験したいですね。だからこの映画を撮ったのかもしれません。実際、当時の音楽や学校の雰囲気、初恋など、観る人も一緒にノスタルジーに浸れるように意識して作りました。なかでも、初恋をしたときの思い出は、一生忘れられない特別なもの。みなさんにも、再び同じような気分を味わってもらいたいと考えています。

唯一の後悔は、好きな子に告白できなかったこと

―ちなみに、エマとの初恋のやり取りは監督自身の話ですか? それともマックスさんのですか?

監督 これもふたりの話ですね。「あのとき、こうしていればよかった」という過去の過ちに対する幻想です(笑)。

―そのなかで、監督にとってこの25年間で最大の後悔といえば何ですか?

監督 うーん、そうですねぇ……。人生で後悔していることは特にないかもしれません。そう言えるほど、いろいろなことをやってきましたから。もしあるとするならば、自分の人生をもう一度体験できないこと。それだけですね。

ただ、しいて何かを挙げるとすれば、映画で描いたように、思春期特有のメンツを気にし、勇気がなかったせいで当時好きだった子に告白しなかったことでしょうか(笑)。

―(笑)。では、監督自身の人生にとって、忘れられない一曲やその曲にまつわる思い出を教えてください。

監督 映画で使っている曲は全部大好きで、レニー・クラヴィッツ、ジャミロクワイ、オアシスは、聴くとすぐに青春時代がよみがえりますね。年齢ごとにいろいろな思い入れがある曲がありますが、どれも思い出深いものばかりです。もし、1曲を挙げるならオアシスの『ワンダーウォール』。なぜなら、パーティでギターが弾ける人がいると、この曲かピクシーズの曲を必ず誰かが演奏していましたから。

そのほかに、著作権の関係で使えませんでしたが、入れたかったのはニルヴァーナとレッド・ホット・チリ・ペッパーズの曲です。

時代や国は違っても共感できるはず

―劇中の音楽は、映画のエピソードとそれぞれ直結しているものが多いのでしょうか?

監督 ある曲が特定の思い出につながっているということではなく、いろいろな曲が青春時代の思い出を想起させています。ただ、Finley Quayeの『サンデー・シャイニング』はちょっと別で、ロンドンにバカンス旅行に行ったときに、誰かのアパートのパーティで聴いた光景が浮かびますね。

選曲の仕方としては、Spotifyのプレイリストに入れた1990年代~2000年代の音楽を次々と再生し、聴いた瞬間に何かがふと胸に迫ったり、青春時代を思い起こさせてくれそうと感じられたりした曲を映画の候補曲にしていきました。

―シーンごとに流れる数々の名曲にもぜひ注目ですね。最後に、ananweb読者にメッセージをお願いします。

監督 僕自身が「もう一度あの時代を体験したい!」と思って作ったので、観る方にも同じように自分の人生をもう一度体験してもらえたらいいなと思っています。

日本とフランスでは、時代の出来事などが違うところもあるかもしれませんが、読者の方々にもきっと共感する部分があるはずです。ぜひ、みなさんも昔のビデオを棚から取り出して、見返してみてください。

忘れていた“本当の気持ち”に気づかされる!

人生において、つねに前を向くことも大切なことではあるけれど、一度立ち止まって過去を振り返ってみるのも、ときには必要なこと。そのなかでやり残したことやふたをしてきた思いから、“未来のヒント”を見つけることができるはずです。最高のラストシーンへと向かうために、一度自分の人生を見直してみては?

再生したくなる予告編はこちら!

作品情報

『PLAY 25年分のラストシーン』
11月6日(金)より新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA、kino cinéma立川髙島屋S.C.館ほか全国順次公開
配給:シンカ/アニモプロデュース
©2018 CHAPTER 2 - MOONSHAKER II - MARS FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - CHEZ WAM - LES PRODUCTIONS DU CHAMP POIRIER / PHOTOS THIBALUT GRABHERR
http://synca.jp/play/