志村 昌美

「親の世代にこそ性教育が必要」性教育YouTuberシオリーヌが訴える真意

2021.7.15
ベルリン国際映画祭の銀熊賞をはじめ、世界中の映画祭を席巻している話題作『17歳の瞳に映る世界』。劇中では、予期せぬ妊娠をしてしまった17歳の少女オータムが両親にその事実を伝えることができず、自らの力だけで中絶手術を受けようと決意する姿が描かれています。そこで今回は、本作のテーマについてこちらの方にお話をうかがってきました。

シオリーヌさん

【映画、ときどき私】 vol. 399

現在、「性の話をもっと気軽にオープンに」をテーマに正しい知識を明るく楽しく学ぶための動画を配信している“性教育YouTuber”のシオリーヌさん。看護師や助産師として働いてきたシオリーヌさんが、日本における中絶の現状や性教育が必要な理由、そして女性たちに伝えたい思いについて語ってくれました。

―まずは、今回の作品から受けた印象について教えてください。

シオリーヌさん 大きな印象としては、社会の現状が子どもたちに影響を与えていることを改めて可視化している作品であるということ。なぜ彼女たちが親に隠れてこういったことをしなければならなかったのか、というのを考えると、背景にはいまの子どもたちが抱えている問題があることを感じずにはいられませんでした。

これはアメリカを舞台にした映画ではありますが、日本でも同じような境遇にある子どもたちは決して少なくないので、この映画を通じてそういった問題に思いをはせてくれる人が増えればいいなと思っています。

―作品を観て、アメリカと日本の違いを感じることもありましたか?

シオリーヌさん アメリカでは中絶に関しては、中絶反対派の「プロライフ」か、それとも中絶権利擁護派の「プロチョイス」かという価値観が医療機関の対応にも大きく反映されているのが実情だと思います。アメリカでは州や病院によって異なるというのが特徴かなと感じました。

それに比べて、日本ではどちらかというとそれぞれの医療者の持っている価値観によって、かけられる言葉も違ってくるのかなと思っています。実際、私と同じ助産師のなかにも、中絶は悪いことという考えの人もいれば、女性の人生を守るための大切な選択肢のひとつという考えの人もいましたから。ただ、それによって子どもたちが理不尽な思いを強いられることが無いように、社会の環境を整えていかなければいけないと改めて感じているところです。

普段から話せる関係性を築くことが大切

―助けを求めにいったはずの病院で、つらい思いをしてほしくはないですね。自分に合う病院はどのように見つければいいのでしょうか?

シオリーヌさん いまは、多くの病院が公式HPを持っているので、そこに書かれている病院の理念を読むことは大事なことかなと思います。ほかにも術後のカウンセリングが用意されているかどうか、女性の権利に寄り添った診察を大切にしているかどうか、といった病院が出しているメッセージを事前に読むことはオススメしたいです。

―なるほど。では、望まない妊娠をしてしまった場合、相談できる場所はありますか?

シオリーヌさん 若い方々にぜひ知っていただきたいと思うのは、「妊娠SOS」という相談窓口です。各都道府県に窓口が設置されているので、そこに電話やメールで連絡をすると、妊娠検査薬の使い方から今後の選択まで、さまざまなことに対応してくれる専門のスタッフがいます。両親や身近な大人に相談できないときは、ぜひそういった専門機関を頼っていただけたらと。また、妊娠が性被害によるものであれば、「ワンストップ支援センター」で相談することも可能です。

―妊娠してしまったことを親に言えない子は多いと思いますが、そういう状況に陥らないためにすべきこととは?

シオリーヌさん 子どもたちにというよりも、親御さんたちに「普段から大切なことを話しやすい関係性を築いていってほしい」と伝えたいです。性の話題をタブー視している方や自分の子どもにそんなことは話せないと思っている方は多いですが、それは避妊に失敗してしまったときや妊娠してしまったときに親に言えないというトラブルにつながる可能性があります。

過去には、「アフターピルをもらいに行かないといけない状況なのに、親に言えなくてどうしていかわからない」と私に連絡がきたこともありました。なので、できれば「そういうことがあったら味方になって助けてあげるからちゃんと言ってね」と日頃から伝えていただけたらいいなと思います。

大切な子どもに伝えるのは当たり前のこと

―ただ、親御さんもどういうふうに話をしていいのかわからない方が大半だと思います。円滑にできる方法はありますか?

シオリーヌさん そもそも大人たち自身が性教育を受けたことがあまりないので、上の世代の方々からすると、性教育は恥ずかしいものやタブーだから人前で話すものではない、という印象を持っている人が多いと思います。とはいえ、受けてきた教育を思うと、そういう考え方になってしまうのは不思議なことではありませんよね。

でも、だからこそまずはそういった大人のみなさんに性教育を受けていただきたいと思っています。たとえば、私の動画を見てくださった方のなかに、「普通に大事なことを話しているんだと気がついた」と言ってくださる方がいました。ぜひ、みなさんにもその“気づき”を得ていただきたいですね。

もし、性教育が大事なことだとわかっていただければ、それを大切な子どもたちに知ってほしいと考えるのは、当たり前のことだと思うはずです。つまり、決して変なことを教えようとしているわけではないのだと。そこを理解していただきたいので、まずは親御さんたちから性教育を受けていただきたいと伝えたいです。

―「教えなきゃいけない」というプレッシャーを感じるのではなく、「一緒に学んでいこう」くらいの気楽さでいいということですか?

シオリーヌさん はい、それでいいと思います。私の動画を子どもと一緒に見ましたと言ってくださる方がいますが、いきなり自分の口から完璧に説明することはできないと思うので、私の動画もそういう使い方をしていただけるといいのかなと。どうしていいかわからなければ、一緒に話を聞きに行くとか、一緒に本を読んでみるとか、一緒に動画を見てみるとか、そういうところから始めるのでまったく問題ないと思います。

―コロナ禍で10代からの妊娠相談が増えているそうですが、この現状に対してどうお考えですか?

シオリーヌさん 学校の友達と直接会う機会が減り、ひとりで家で過ごすことが増えたので、いまは人と意見交換をして価値観や視野を広げたり、自分の間違った知識を正したりすることができなくなっているのではないでしょうか。こういうときこそ、私のようにオンラインで発信している人たちがもっとがんばって適切な情報を届けるための努力をしなければいけないんですよね。

来月には10代の学生を集めて、「性教育CAMP」というイベントをオンラインで行う予定ですが、そこではお互いにディスカッションをしてもらおうと考えています。そんなふうに、お家にいてもいろいろな人と関われるような機会は積極的に作っていけたらいいなと思っているところです。

偏見や誤解が性教育の遅れに繋がっている

―日本の性教育の遅れは昔から言われていますが、どうしてここまで遅れていると思いますか?

シオリーヌさん 政治的な理由が大きい部分もありますが、教育のシステムを決めている大人のなかには、「子どもたちには性に関する情報を具体的に与えるべきではない」とか「それまで興味のなかった子を刺激してしまうのではないか」といった偏見や誤解を持っている方も多くいるのが現実です。そういった部分が日本の性教育の遅れにつながっているのではないかと思っています。

―“性教育YouTuber”として活動するなかで、どのような反響を感じていますか?

シオリーヌさん YouTubeを始めて、1年で登録者数が10万人を突破したので、それだけ多くの方が性に関する情報を求めていらっしゃったんだなというのはそのときにも実感しました。実際、「こういうことを学校で教えてほしかった」というコメントが多く見られたほど。みなさんの人生や生活の役に立っていると聞くとうれしいですね。

ただ、私が問題だと思っているのは、いまの子どもたちはすでにさまざまな情報に触れられる状況に置かれているにもかかわらず、何が適切で何か不適切なのか、というのを自分で判断しなければいけない必要に迫られていること。だからこそ、何か適切な情報なのかを見極めるリテラシーを育てるための教育を大人が届ける努力をしなければいけないと考えています。

―現在の日本では全体の人工中絶件数は減少傾向にあるそうですが、20歳未満で中絶をする件数についてはどのような状況ですか?

シオリーヌさん 令和元年度のデータで、人工妊娠中絶実施率(女子人口千対)は19歳以下では4.5。前年度の4.7から低下が見られていました。数字だけを見ると、件数としては減少していますが、10代で妊娠した方の過半数が中絶を選択しているという現状があるので、問題が軽くなっているわけではないと捉えています。

―未成年で妊娠する子たちが抱えているのは、どのような問題でしょうか?

シオリーヌさん いまの状況では、10代で子どもを育てるのは難しいと思います。たとえば、妊娠を継続するとなれば、女子生徒だけ学校を退学しなければいけないとか、そうするとそのあとに正規雇用の仕事に就きにくくなって結果的に貧困に陥ってしまうとか。

そういった連鎖を引き起こさないための社会制度や福祉の部分が十分ではないと思うので、学業と育児を両立できる制度や子育てをしながらキャリアを積めるサポートがきちんと充実していれば、もしかしたらもっと産みたいと思う方は増えるのかなと。ただ、10代で計画的に妊娠した子は多くないので、まずは予期しない妊娠を経験しないための性教育をしっかりすることが大事だと思います。

人生を楽しむ権利は誰にでもあるもの

―中絶をした女性は心身ともにダメージを受けると思いますが、アドバイスはありますか?

シオリーヌさん 中絶する方のなかには、自分の人生を守るためにどうしても必要な選択だったという場合もあります。ただ、中絶をしたことで自分を責めたり、世間から批判的な言葉を投げかけられたりすることもあるので、そのあとの人生を楽しんではいけないのではないか、という気持ちになる方が多いようです。でも、中絶を経験された方にも自分の人生を楽しむ権利も、前に進めていく権利もあるので、「幸せになってはいけないんだ」と思わないでほしいというのは伝えたいなと思います。

―今後の夢はありますか?

シオリーヌさん はるか先のことになるかもしれませんが、文部科学省の教育指導要領が変わり、世界的にスタンダードな性教育が日本でも当たり前にカリキュラム化されることが大きな目標です。そうなるために、世の中に訴えていくのが私の役割なので、これからも「性教育は必要なものだよね」と言ってくれる仲間を増やしていけたらいいなと。

本や歌を作ったりと、クリエイティブの力を使って性の話をすることにやりがいを感じているので、さまざまなツールを使って、関心がなかった方にも目に留めてもらえるような幅広い活動を心がけたいです。ゆくゆくは、私の仕事の必要性がなくなる社会になってくれるのが、一番の夢かもしれないですね(笑)。

―ananweb読者のなかには、仕事と育児の両立に対する不安や母親になる準備ができていないことに悩んでいる女性もいると思います。ぜひ、シオリーヌさんからメッセージをお願いします。

シオリーヌさん 私もいままさにそういう年代なので、実感を持ってみなさんに共感しています。妊活したほうがいいかなと考えるいっぽうで、仕事も好きなので難しいかなと思うこともありますが、自分が親になれると自信を持てる日なんて、もしかしたら来ないんじゃないかなと感じることもあるくらいです。

そのうえで思うことは、そんなにがんばらなくてもいいのではないかということ。なぜなら、子育てというのは、社会でするものだと思っているからです。私が児童思春期病棟で働いていたとき、子どもたちのことについて親御さんと一緒にたくさん悩みましたが、そんなふうに社会にいる大人がみんなで子どもを育てていけばいいんだといまは考えています。自分だけですべてを抱え込もうとせずに、頼れるところは全部頼っていいんですよ、というのはぜひみなさんにも伝えたいです。

インタビューを終えてみて……。

どんな質問にもわかりやすく、丁寧に答えてくださるシオリーヌさん。「この映画を通じてそういった問題に思いをはせてくれる人が増えればいい」など、明るく穏やかな口調のなかにも、性教育に対する熱い思いがひしひしと伝わってきて、改めてその大切さを実感しました。何から始めたらいいのかわからない人も多いと思いますが、まずはシオリーヌさんの動画で基礎から学び始めてみては?

社会が抱える問題を一緒に考える

17歳の少女たちの目を通して見える世界がつらいものから、美しいものへと変わっていくために、いまの社会と大人たちがすべきことは一体何かを突きつけられる必見の1本。多くを語ることなく立ち向かう彼女たちの姿は、多くの問いと気づきを私たちに与えてくれるはずです。


取材、文・志村昌美

ストーリー

ペンシルベニア州に住む17歳の女子高生オータムは、愛想がなく、友達も少なかった。ある日、オータムは予期しない妊娠をしてしまったことに気がつく。しかし、ペンシルベニア州では、未成年者は両親の同意がなければ中絶手術を受けることができない。

そんなオータムの異変に気がついたのは、いとこであり唯一の親友スカイラー。そこで、ふたりは自分たちだけで事態を解決するため、親に内緒で家を飛び出し、ニューヨークへと向かうことに……。

心に刺さる予告編はこちら!

作品情報

『17歳の瞳に映る世界』
7月16日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー
配給:ビターズ・エンド、パルコ
https://17hitomi-movie.jp/

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