志村 昌美

“暴露系YouTuber”ムロツヨシ、吉田恵輔監督から「心の闇の匂いを感じる」

2022.6.22
いまや多くの人の生活に大きな影響を与えているYouTubeですが、そのなかで交錯する男女を描いた話題作『神は見返りを求める』がいよいよ公開となります。そこで、こちらの方々にお話をうかがってきました。

ムロツヨシさん & 吉田恵輔監督

【映画、ときどき私】 vol. 495

ムロさんが演じるのは、イベント会社に勤める主人公の田母神。合コンで知り合った底辺YouTuber・ゆりちゃんに対して見返りを求めることなく“神”のように手伝い、徐々に距離を近づけていきますが、あることをきっかけに2人の関係が豹変していくさまを描いています。今回は、本作を手掛けた吉田恵輔監督とともに、撮影の裏側やSNSとの向き合い方、そしてお互いに暴露したいことなどについて語っていただきました。

―まずは、「見返りを求める男と恩を仇で返す女」という設定はどこからきましたか?

監督 2018 年くらいに、プロデューサーと何かしようという話になり、そのときに取り上げたいと思ったのが承認欲求と自己顕示欲について。それから、このテーマを描くなら男と女がいいんじゃないかと思うようになったのが最初です。

ムロさん そういった言葉については、すでにその時期にはいろいろと言われてましたからね。

―そこで、舞台をYouTubeという設定にしたのはなぜですか?

監督 たとえば、これが売れない役者と監督とか、ミュージシャンとプロデューサーだと世界が狭くなってしまいますよね。でも、YouTubeだと2人の痴話げんかを世界に発信できるというのが広くておもしろいと思ったんです。

ムロさん まあ、途中から痴話げんかの域を超えてますけどね(笑)。

監督 あとは、正直に言うと、お金を集めやすいかもしれないというのもありました。なぜなら、YouTubeっていままであまり映画の題材にはなっていなかったので。しかも、ここまでアカウントの作り方から消し方までちゃんと入れている作品もなかなかないと思います。

まさにドンピシャの時代が来て驚いた

―とはいえ、先が読めない題材でもあるのでリスクもあったのではないかなと。

ムロさん そうなんですよ。僕が脚本を読ませてもらったのは、3年前ですけど、そのときに「公開される3年後にはどうなっているかわからないな」と思いました。いまの世の中は、良くも悪くもどうなるかわからないというか、すごいスピードで変化する可能性もありますから。特に、YouTubeや承認欲求の行く先なんてどんどん変わっていくものですからね。しかも、人がここまで“承認のモンスター”みたいになってしまうことがあるのかと思っていたら、まさかドンピシャの時代が来るとは……。

監督 むしろ、ちょっと弱かったかも? 僕としては、もっと厳しくなって逆にBANされると思ってたんですよ。でも、もっとすごいやつが出てきましたからね。

ムロさん いや、だから監督は見抜いていたんだなと感じました。

―まさに、いまの時代を象徴していてすごいです。ムロさんは「演じている自分にここまで腹が立ったことはない」とコメントされていますが、演じる苦労などもあったのでしょうか。

ムロさん いつもは役のどこかに自分がいることがありますが、途中からだんだん田母神にイライラしてきて、ものすごく自分を客観視し始めるようになりました。劇中で、ゆりちゃんに対して嫌な感じで「すごいね」と言うシーンがありますが、あのときのトーンなんて、これまでの自分のなかにあるトーンではないですが、自然と出てきちゃったんですよ。

監督 本当に、役に入ってる感じでしたよね。

ムロさん 完成した作品を観たときも、上映が終わってすぐに「監督、すごいです!」と言ってしまったほど。それくらい感謝しました。

“美女と野獣”の物語にキュンとしてしまう

―監督にとっては、久しぶりにキュンとする作品を作ったという認識のようですが、いっぽうで心温まりづらいラブストーリーでもあると。監督が思う“キュン”とはどのようなものですか?

監督 僕は、昔から“美女と野獣”みたいなものが好きなんですよね。でも、そこで裏切ってくれる女性じゃないとダメなんです。たとえば、「やっぱり毛むくじゃらの人は嫌だった」とか「私、野獣アレルギーでした」みたいな(笑)。

ムロさん そこがキュンポイントなの?

監督 というか、オジサンと女の子が大したことないことにキャッキャしたり、一生懸命になったりする姿が美しく見える瞬間があって、そこにキュンですね。それが美男美女だと「まあ素敵ですわー」と思うだけでキュンはしないです。おそらく、僕はみなさんとは違うのではないかなと(笑)。

―ムロさんは、監督の感覚も理解できますか?

ムロさん もし、これが一緒に仕事をする最初の作品だったら「この人、何言ってるんだろう?」で終わっていたかもしれないです。でも、2作目なので理解はできました。脚本を読んだときは、人が変わってしまう恐ろしさとか、愚かでかわいそうな人たちの距離が縮まっていくところを描きたいんだろうなと。そういうのが好きなんだろうなというのは感じました。

監督 あと、今回で言うと、僕は岸井ゆきのという女優が好きなんですよね。途中からは好きを超えてしまって、「ゆきのになりたい」と言ってたくらいですから(笑)。

ムロさん これ本当ですからね。あと、「ムロさんには申し訳ないけど、ゆきのが主演の映画みたいじゃない?」と撮影中にカメラマンと話してたことがあると監督から聞いたときは、びっくりしましたよ。でも、そのあとに「編集してつなげてみたら、ムロさんが主演だったわ」と。こっちはちゃんと演じているんですからね!

監督 すみません、忘れていました(笑)。

ムロさん でも、ゆきのちゃんの豹変ぶりがすごかったおかげで、僕も引き出されてあんなことになりました。

作り手としてYouTubeの大変さがよくわかった

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―劇中では、ムロさんが覆面の暴露系YouTuberへと変わっていくさまも引き込まれましたが、お互いの素顔で暴露したいことがあれば、教えてください。

ムロさん 吉田監督は、ほぼ全部出しちゃっているので、暴露することがないんです(笑)。もちろん、監督にも裏はあると思いますが、現場とかでも言わなくていいようなプライベートなことを自ら教えにくるんですよ。

監督 確かに、僕は全部見せて歩いている感じですから。これは暴露ではないですけど、ムロさんはハッピーエンドにこだわっているタイプなのに、実はそこに蓋をしていて、開けるとものすごいバッドエンドが出てきそうだなとは思っています。

ムロさん あははは! でも、まさにそうなのよ。たとえば、家族の闇を描いている映画とか観たときに、「これを作っている人は、もしかしたら本当の苦しみを知らない人なのかなぁ」と思ったりしますから(笑)。

監督 その“心の闇”の匂いみたいなのはありますよね。

―では、ご自身がやってみたいYouTubeチャンネルはありますか?

ムロさん 僕はデジタルに弱い人間なので、あまりYouTubeも見てこなかったんですが、この脚本を読んでから少しずつ見始めるようになりました。そのときに、登録者数や再生回数が多い方というのは、本当に考えて作り込んでいるんだなと。僕も舞台を作る側にいるので、すごくよくわかるんです。これを毎日やっているのかと思ったらめちゃめちゃ大変なことだとわかりました。なので、見れば見るほど、絶対に手を出せないものだと感じています。

人に発信することは楽しいものだと気づかされた

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―監督が作るとしたら、どんなことをしたいですか?

監督 僕は「今年やる100のこと」というリストを毎年作っているんですけど、それを人にやらせるかもしれないですね。ちなみに、いまやりたいことのひとつは、自分の切手を作ることです。

ムロさん やりたいことの100に「切手を作る」を入れてる人なんて、そういないですから(笑)。気になってしょうがないですよ。

―ムロさんがリサーチとして見ていたなかで、ハマった動画などはありましたか?

ムロさん 火をつけるところから消えるところまでを流しているたき火の動画あるんですけど、それがおもしろくて、お酒を飲みながらずっと見てました。あとは、高速道路を走っているドライブレコーダーをただ流している動画。ほかの人があれだけ工夫しているなか、何の編集もしていなくて、ある意味すごい勇気のある人だなと。でも、懐かしい道路とかが見れて、僕はハマってしまいました。

―YouTubeだけでなく、この2年でSNSの在り方も大きく変わっていると思いますが、ご自身は向き合い方で気をつけていることなどもあるのでしょうか。

ムロさん 僕は、SNSに助けられたというか利用したかなと思っています。特にコロナ禍になったときに、何もできませんでしたが、Instagramやライブ配信があったおかげで、何かしようという気になれたので。そうしないと、僕はお酒を飲んで不平不満を言いながら堕落していくタイプなので、みなさんのコメントを見ながら人前で話すことができたのはよかったです。僕みたいな仕事をしていない方にとっても、人に発信することは楽しいものだと気づかされた2年でした。

監督 ここ最近だと、映画界で起きているいろんな問題について書かれているのを読むことが多いです。なかには納得いかない意見もありますが、そういうときは逆に「この人が褒めていることは何だろう?」と探すようにしています。そうすると、「確かにここの部分に関しては、あなたが言っていることが正しいし、そのほうがみんなハッピーになれるよね」と思うところがあるんですよ。そしたら、じゃあ僕もそれを取り入れてみようかなと。そんなふうに、「気づかせてくれてありがとう」と考えるようにしています。

見返りを求めない自分がかっこいい(笑)

―ちなみに、おふたりは見返りを求めるタイプ? それとも、尽くすことに喜びを感じるタイプですか?

ムロさん 両方ですね。尽くす喜びもありますが、「ありがとう」の言葉とか、「あれしたからいつか助けてもらおうかな」みたいに考えることはやっぱりありますから。

監督 僕はいつも後輩におごるんですが、そのときに「たまに返してくれなくてもいいし、俺に感謝する必要も一切ない。ただ、俺がおごったぶんだけ自分の後輩におごれよ!」と伝えるんですよ。で、「そう言ってる俺ってかっこいいだろ?」と内心思ってます(笑)。

ムロさん あははは! めちゃめちゃわかる!! 見返りというか、自分の気持ちよさですよね。

監督 「あー、俺ってなんて大人なんだろう」と思って喜んでます。

―わかる気がします。それでは最後に、ananweb読者に見どころなどがあれば、メッセージをお願いします。

ムロさん おそらくみなさんと同世代くらいだと思いますが、劇中に梅川というキャラクターが登場します。悪意がないからこそしてしまう行動に対しての恐怖というか、彼の存在もひとつのホラーではないかなと。「こういう人っているよね」みたいに、みなさんも共感すると思うので、そのあたりにも注目していただきたいです。

インタビューを終えてみて……。

気心の知れたおふたりだけに、絶妙なやりとりで終始笑いが止まらず、ときには書けない話に脱線することもある楽しい取材となりました。そんな“最強タッグ”が繰り広げる衝撃をぜひ劇場で体感してください。

俳優陣の豹変ぶりも見逃せない!

ラブコメとしての要素もありながら、狂気をはらんだ予測不能な展開で引き込んでいく愛憎劇。人間のなかにわき上がるあらゆる感情を描きつつ、天国と地獄が隣り合わせと言われるYouTubeの裏側にも迫ったまさにいまの時代とリンクした1本です。


写真・北尾渉(ムロツヨシ、吉田恵輔) 取材、文・志村昌美
スタイリスト・森川雅代 ヘアメイク・池田真希

ストーリー

イベント会社に勤める田母神は、合コンで底辺YouTuberのゆりちゃんに出会う。再生回数に悩む彼女を不憫に思った田母神は、見返りを求めることなく、神のようにゆりちゃんのYouTubeチャンネルを手伝うようになる。

人気が出ないながらも力を合わせて前向きに頑張り、お互い良きパートナーになっていく。ところが、ゆりちゃんが突然バズってしまったことで、徐々に2人の関係が変わっていくのだった。そして、ついに田母神が暴露系YouTuberに豹変してしまうことに……。

釘付けになる予告編はこちら!

作品情報

『神は見返りを求める』
6月24日(金)TOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイント他 全国公開!
出演:ムロツヨシ 岸井ゆきの
若葉竜也 吉村界人 淡梨 栁俊太郎
田村健太郎 中山求一郎 廣瀬祐樹 下川恭平 前原滉
監督・脚本:吉田恵輔
配給:パルコ
https://kami-mikaeri.com/
©2022「神は見返りを求める」製作委員会
※吉田恵輔監督の吉は、士の部分が土になります。