志村 昌美

宮沢氷魚、大泉洋の素顔は「まじめすぎる方。営業妨害かな(笑)」

2021.3.30
この春も話題作が目白押しですが、そのなかでも公開延期となっていた『騙し絵の牙』がついに公開を迎えました。主演の大泉洋さんをはじめ、豪華な顔ぶれが揃っていることでも注目を集めている本作で、今回はこちらの方にお話をうかがってきました。

宮沢氷魚さん

【映画、ときどき私】 vol. 370

大手出版社を舞台にした権力争いや編集部間で勃発した対立を描き、“仁義なき騙し合いバトル”を繰り広げている本作。宮沢さんは、物語においてキーパーソンとなる新人小説家の矢代聖を演じています。そこで、現場の裏側や共演者とのエピソードなどについて語っていただきました。

―まずは、脚本を読まれたときの印象から教えてください。

宮沢さん 最初に脚本を読んだときに、こんなにも頭からハラハラドキドキする作品はあまりないんじゃないかなと感じました。先がどうなるかまったく読めないうえに、自分が想像した物語とはまったく違う方向に物事が進んでいって、しかも最後はこういう結末になるのかと。あっという間に読み終わってしまいましたし、本当に驚きの連続でいろいろな要素が盛りだくさんな作品というのが第一印象です。

―そのなかでご自分の役に対する演技プランは、どのように立てていきましたか?

宮沢さん 矢代はこの物語においてかなり重要な人物なので、自分の役割をつねに頭の片隅に置くようにしました。ただ、インパクトを残しすぎようとすると空回りしてしまうと思ったので、あくまでも意識していたのはミステリアスな青年であること。そのあたりをイメージしながら役作りをしていきました。

―主演を務められた大泉さんとご一緒されてみて、いかがでしたか?

宮沢さん 大泉さんは座長としての意識がすごく高い方で、先頭に立って僕たちを引っ張ってくださいました。現場でのそういう立ち振る舞いを見ていたからこそ、みんなも大泉さんのためにがんばろうと思えたんじゃないかなと。そのうえで、それぞれが自分のことに集中できる空気を大泉さんが作ってくださっていたんだなと感じました。

いつものようにふざけておもしろいことをおっしゃっていたときもありましたが、撮影が始まる直前には大泉さんも役に入っていたので、テレビで見るのとはまた違う一面が見れたのは、僕にとってもプラスになったことです。

若手が演じやすい環境を整えてもらえた

―撮影以外でも印象に残っていることがあれば、教えてください。

宮沢さん 大泉さんと松岡さんとのシーンを都内のホテルで撮影していたときのこと。何とも言えない緊張感があったんですが、それに気がついた大泉さんがお昼休憩のときに「中華食べに行くぞ!」と僕たちを誘ってくださったんです。

大泉さんにはその前から優しくしていただいてはいましたが、そんなふうに僕たちのような若手が演じやすい現場の環境を整えてくださったので、本当に気を遣っていただいたと思います。そのときも現場ではできないような話をしながら、緊張をほぐしてくださったのでありがたかったですし、普段僕が行かないような高級なお店だったのもうれしかったです(笑)。

―ちなみに、大泉さんに騙されるようなことはありませんでしたか?

宮沢さん 劇中では、周りを騙す役どころでしたが、カメラが回っていないときはすごく正直で、まじめすぎるくらいの方だなと。あんまり言うと、大泉さんの営業妨害になっちゃうかな(笑)? でも、尊敬できる本当にステキな先輩だと感じました。

―そのほかにも、個性豊かなキャストがたくさん出演されていますが、現場で印象に残っていることはありますか?

宮沢さん みなさんステキな方々ばかりでしたが、すごくエネルギッシュだなと思ったのは木村佳乃さん。記者会見のシーンを撮っていたとき、ターニングポイントとなる重要な場面でもあるので、現場にはずっと緊張感が漂っていたんです。しかも朝から晩まで続いていたので、そういう意味でもけっこう大変で。

でも、そんななかでも木村さんは疲れを一切見せずに明るく振る舞ってくださっていたので、それにみんな助けられましたし、がんばろうと気合が入りました。自分のことでいっぱいいっぱいのときもありましたが、木村さんのエネルギーと笑顔には何度も救われたので、僕もそういうところを見習っていきたいです。

すごい方々のなかでお芝居できてうれしかった

―ちなみに、松岡さんは「同世代といえば宮沢氷魚くんと池田エライザちゃんくらいなので、子羊3匹は震えておりました(笑)」といったコメントもされているようですが……。

宮沢さん いやいや、そんなことはまったくなくて、松岡さんは堂々としていましたよ!

―さすがですね。現場でも同世代の3人で一緒に時間を過ごすことが多かったですか?

宮沢さん そうですね。松岡さんは同い年で、僕が役者デビューしたときの作品でご一緒させていただいたときからお世話になっていますが、今回は約2年ぶりの共演。何の経験もなかった僕の姿も知っているし、何作か経たいまの僕も知ってくれているんですよね。

エライザさんも僕が初めて出演した映画で共演しているので、そういう意味ではよく知っている2人とご一緒できたことで、そこまで気を遣わずにお芝居できたように思います。

―若手のみなさんは、主役級のベテラン勢が集結する様子をどのように見ていましたか?

宮沢さん 「こんなオールスターみたいなチームに僕たちもいていいのかな?」みたいな話はしていました。冷静に考えると、こんなにすごい方々のなかでお芝居できていることが恐れ多いなと。でも、もちろんうれしかったです。

ただ残念だったのは、佐藤浩市さんとのシーンがなくて、一緒にお芝居させていただけなかったこと。1回だけ現場でご挨拶させていただくことはできたんですが、そのときのオーラといい意味で圧倒される存在感がすごかったです。また機会があれば、佐藤さんとお芝居させていただきたいなと思いました。

嘘がすぐバレるので、騙すよりも騙されるタイプ

―では、吉田大八監督からはどのような演出があったのか教えてください。

宮沢さん 監督とは衣装合わせのときに、「最初から最後まで、矢代は何を考えているかわからない人物のほうがおもしろいよね」という話をしていました。僕の勝手なイメージですが、小説家の方は独特な雰囲気や考え方を持っている人が多いと思うので、そこで僕の想像力を見せられたらいいかなと。

監督からはミリ単位で立ち位置を指示されたことが、印象に残っています。実際、芝居がよくても立ち位置が違うと言ってやり直したことも。でも、完成した作品を観たときに「なるほどな」と納得できたので、それを現場ですべてイメージしていらっしゃった監督は、本当に頭のいい方なんだなと思いました。

あと、終わってから監督に「矢代を氷魚くんにしてよかった。氷魚くん以外に考えられないよね」と言っていただいたときは、めちゃくちゃうれしかったです。その言葉だけで、自分は間違っていなかったんだなと確認できましたし、やってよかったなと思いました。

―劇中では、見事な騙し合い合戦が見どころですが、ご自身は騙すほうが得意? それとも騙されやすいほうですか?

宮沢さん どちらもよくはないですが、人の言うことを信じやすいところがあるので、タイプ的に僕は騙されるほうだと思います。それに、騙すのはすぐにバレちゃう気がするので。実際、優しい嘘とか自分を守る嘘とかをついたときは、顔に出ているのかすぐにバレてしまいます(笑)。

―わかりやすいほうなんですね。癖のあるキャラクターが次々と出てきましたが、矢代以外にも演じてみたいと思った役を挙げるとすれば誰ですか?

宮沢さん 選ぶのは難しいですけど、興味があるのは、中村倫也さんが演じた出版社の社長の息子である伊庭惟高。最後に強烈なインパクトを残す“ダークホース”みたいなところがあっておもしろそうなので、演じてみたいなと思いました。

ずっとやっていた野球に関わる作品に出てみたい

―原作は大泉さんを宛書にした小説ですが、もし自身を宛書にした小説を作ってもらえるとしたら、どんな物語がいいですか?

宮沢さん 僕は野球を18年間やっていたので、野球に関係する作品に出てみたいですね。特に、野球と感動のストーリーが合わさったようなものに興味があるので、ぜひそういう作品ができるといいなと思います。

―今回、小説家の役を演じたことで、ご自身も執筆業に興味を持たれたようなことはなかったですか?

宮沢さん それはないですね……。というのも、何もないところから物語を作るというのは、とてつもなく難しいことだと感じているからです。いつも、本や脚本を読むたびに、0から1にすることができる作家さんや脚本家さんのことを尊敬しています。それは自分にはなかなかできないことなので。いつか気持ちが変わるかもしれないですが、いまのところは読むほうが楽しいです。

―お好きな小説があれば、教えてください。

宮沢さん 僕はミステリーが好きなので、いろいろな作品を読んできましたが、そのなかでも初めて読んだミステリー作品は、『ハーディー・ボーイズ』シリーズ。いろいろな事件に巻き込まれる男の子たちが、事件を解決していく様子が描かれていて、日本でいう『名探偵コナン』みたいな作品です。子どものころはそんなふうになりたいと思っていましたが、子どもが毎日事件に巻き込まれるって、いま考えると恐ろしいですね(笑)。でも、憧れていたので、シリーズを何作も読んでいました。

―こういう社会的状況のなかで、エンタメの力を感じることもあると思いますが、宮沢さんが元気になれるオススメの作品はありますか?

宮沢さん 僕がいまハマっているのは、海外ドラマの『THIS IS US』。とにかくおもしろいです。いろいろな障害を抱えるなかで、いかに強く生きていくかが描かれていて、現代とリンクする部分もたくさんあるので、その作品から勇気やパワーをもらっています。ぜひ、みなさんにもオススメしたいです。

与えられた仕事をひとつひとつ大切にこなしていきたい

―忙しい生活のなかで、気分転換になっているものは何ですか?

宮沢さん 最近は、家具や家電を買い替えることでストレスを発散しています。ひとり暮らしをはじめたときは、生活ができればいいやというレベルのものをそろえていたんですけど、いまは家にいる時間も増えたので、重きを置いているのは、いかに家を生活しやすい環境にできるか、ということ。

電子レンジを買い替えてみたり、ウォーターサーバーを設置してみたり、自分の生活エリアを充実させることでストレスを溜めないように心がけています。そういうところにこだわり始めたら、家の掃除も楽しくなってきたので、キレイな状態を保てるように意識しているところです。

―では、最後にこれからどのように過ごしていきたいかについて、教えてください。

宮沢さん この作品も公開が延期になりましたが、いまは何が起こるかわからないので、その日に与えられている仕事をひとつひとつ大切にこなしていきたいと感じています。毎日仕事があることも当たり前ではないので、そのあたりの重みも再認識して今後も過ごしていきたいと考えているところです。

あとは、去年末に立ち上げた自分のオフィシャルサイトを使って、もっとファンのみなさんともつながりたいですし、おもしろいコンテンツをどんどん届けられたらいいなと。いまはやりたいこともたくさんあるので、いろいろなことに挑戦していきたいなと思っています。

インタビューを終えてみて……。

朝早い取材でも、周囲への気遣いを忘れない優しい宮沢さん。透明感のある柔らかなオーラには誰もが虜になってしまいますが、劇中ではそれとはまた違ったミステリアスな表情も見せており、そのあたりにも注目です。ぜひ、そんな宮沢さんに思いっきり騙されてみてください。

スリリングな展開に気持ちよく振り回される!

二転三転どころか、四転五転以上の逆転劇を見せる本作。クセのあるキャラクターたちが繰り広げる圧巻の騙し合いにどっぷりとハマりつつ、驚きのラストには爽快感も味わえるはず。「これぞまさにエンターテインメント!」と大興奮すること間違いなしの1本です。


写真・大内香織(宮沢氷魚) 取材、文・志村昌美 スタイリスト:秋山貴紀 ヘアメイク:阿部孝介(traffic)

ストーリー

創業一族の社長が急逝し、次期社長の座をめぐって権力争いが勃発した大手出版社の「薫風社」。専務の東松が大革命を進めるなか、速水は廃刊の危機にあった雑誌『トリニティ』の編集長に任命される。

速水は新人編集者である高野とともに、イケメン新人小説家の矢代や人気モデルの城島、大御所作家の二階堂などを手玉にとり、斬新な企画を次々と手掛けていく。さまざまな陰謀が渦巻くなか、生き残りをかけた速水の“奇策”とは?

予測不能な予告編はこちら!

作品情報

『騙し絵の牙』
全国ロードショー公開中
配給:松⽵
https://movies.shochiku.co.jp/damashienokiba/

©2020「騙し絵の牙」製作委員会