志村 昌美

若手の注目株・円井わん「ひたすら忍耐と辛抱でした」竹林亮監督に明かす過去

2022.10.17
楽しい週末を過ごしたあとにやってくるものといえば、憂うつな月曜日。誰もが同じ思いに毎週襲われていると思いますが、地獄の1週間を繰り返してしまうという新感覚のタイムループを味わえると話題の映画が『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』です。そこで、こちらの方々にお話をうかがってきました。

円井わんさん & 竹林亮監督

【映画、ときどき私】 vol. 527

ドラマ『ANIMALS-アニマルズ-』や映画『貞子DX』など、話題作への出演が続き、個性的な存在感で注目を集めている主演の円井さんと、CMからYouTubeコンテンツ、リモート演劇、映画まで幅広いジャンルで才能を発揮している竹林監督。今回は、現場の舞台裏や実生活でループしていると感じた瞬間、そして仕事をする際のこだわりなどについて語っていただきました。

―本作では、小さなオフィスのなかで繰り返される1週間から抜け出そうと悪戦苦闘する人々の姿を描いていますが、タイムループものにしようと思ったきっかけから教えてください。

監督 以前、YouTubeの短編映画でタイムループを扱ったことがあり、そのときからもっと入り組んだものを作りたいという思いがありました。ただ、いきなり長編にするのは怖いので短編から作ろうという話になって、まずは30分のタイムループものを目指すことに。とはいえ、1週間のタイムループとなるとかなり膨大で、だんだんボリュームが増えてしまい、「50分。いや、70分」と言っているうちに80分超えの長編になってしまった感じです(笑)。

日を追うごとに、みんなの団結力も強くなった

―期せずして長編となったとは驚きですが、円井さんは脚本を読まれたときにどういう印象を受けられましたか?

円井さん ストーリーの流れはわかっても、どうなるのかがまったく想像できませんでした。普段だと、「こんな感じかな?」と思い浮かびますが、いままでにないほど「これはどうなるんだろう」と。とにかく現場でお芝居してみるしかないと思って行きましたが、それでもわからなかったので、完成したときには思わず拍手をしてしまいました(笑)。

―しかも、あれだけ何度も同じ日をループしていると現場も混乱しそうですが、どのように撮影していたのでしょうか。

監督 曜日ごとにまとめて一気に撮っていますが、話の流れもあったので、曜日のなかでもさらに3つのパートにわけて撮りました。それでもかなりハードだったんじゃないかなと思います。

円井さん すごく混乱しましたね。記録を担当しているスタッフさんまで「何でしたっけ?」となっていたほど。記録さんがそんなことを言うなんて、通常ではないことなので相当だったのかなと(笑)。だからこそみんなで助け合いながらできましたし、すごく楽しかったです。ただ、撮影自体も同じことを繰り返していたので、「本当に終わるのかな?」みたいな感じはありました。

監督 そうですね(笑)。しかも、密室でしたから。

円井さん でも、みなさん本当に自由な人ばかりだったので、ずっと笑っていた気がします。日を追うごとに団結力も強くなりましたし、撮影している状況自体が映画になりそうだなと思いました。

もう後戻りできないと、緊張することもあった

―そのなかでも、驚いたことなどはありましたか?

監督 マキタ(スポーツ)さんはすごかったですね。最初にいろんなアドリブをされていたのですが、それにオッケーを出したら、不規則な動きなのに毎回それを正確に繰り返していました(笑)。

円井さん 確かに、マキタさんはめちゃくちゃアドリブされていましたよね。

―さすがです。円井さんから見て、監督の演出で印象に残っていることはありましたか?

円井さん 基本はかなり任せていただきましたが、ものすごくこだわっていて驚いたのは、ある合図として何度も登場する手で鳩の形を作るポーズ。手の角度とか、机を叩くときの音とか、相当細かくおっしゃっていたのを覚えています。

監督 「この人、鳩のことだけ言うな」とみんなに思われていたかもしれないですね(笑)。でも、役作りはしてきていても、鳩の形だけは誰も考えてきていないんじゃないかなと思ったので。しかも、1度決めたらそれをずっと繰り返さないといけないので、鳩の形を決めるときは、緊張しました。これでもう後戻りはできないなと……。

円井さん (笑)。そう言われると、かなり重要ですよね。

―そこまでこだわっていらっしゃったとは。ちなみに、鳩にした意図とは?

監督 鳩が窓にぶつかるというのを合図にした理由は、あの部屋では外部との接触が窓しかないので、外との関わりを出すものとして思いつきました。白い鳩にしたのには、ちょっとした記号的な意味も込めています。

円井さん いまやこの映画といえば鳩のイメージですよね。

オープンな現場で、勉強になることが多かった

―では、監督から見た円井さんの魅力についてお聞かせください。

監督 円井さんとは、コロナ禍に立ち上げた「劇団テレワーク」でリモート演劇を一緒にさせていただきましたが、そのときから必要なことをナチュラルに定着させてくれる印象がありました。それでいて、どんなふうに演じてもお茶目な魅力が必ずそこに残っているんですよ。

今回の作品のように主人公が成長する様子を描く作品では、そのキャラクターが最初に嫌われてしまうと観客が見続けるのが苦痛になってしまうもの。でも、円井さんだったらトゲトゲした感じを自然に出しつつ、憎めない部分も残してくれるだろうなと。実際、思っていた通りに演じていただいて、本当に助かりました。

円井さん それが聞けて、すごくうれしいです。

―ほかにも、円井さんから監督に聞いてみたいことはありますか?

円井さん たくさんありますが、本当のところ監督から見て今回の現場はどうだったのかは聞きたいですね。

監督 この脚本は、夏生さえりさんとキャッチボールをしながら書きましたが、僕があまり脚本を書き慣れていないこともあって、僕の書いたセリフが役者の方々から「言いづらい」といじられることはよくあったなと(笑)。「やっぱりダメだよね?」と言いながら、内心では「勉強になるな」と思いながら、みなさんと接していました。

円井さん いじってすみませんでした!

監督 いやいや、それだけオープンにしてくださったみなさんは素晴らしいし、そういう現場になってうれしかったです。

円井さん 本当ですか?

監督 しかも、朝から晩まで修行みたいな撮影で、翌日のセリフを覚える時間もないくらいの現場だったので、そのなかで誰一人として嫌にならないでいてくれて助かりました。

円井さん 大変でしたが、私もすごく楽しかったです。

退屈な日常がループしていると感じてつらいときもあった

―仕事をしていると、ループから抜け出せなくなるような感覚は誰もが味わったことがあると思いますが、おふたりにもそういう経験はありますか?

円井さん 撮影中はひとつずつミッションをこなしているような感じなので、ループしている感覚はないですね。それよりも、中学生のときのほうが、毎日同じ日常がループしているようでつらかったです。

―そのときはどう乗り越えましたか?

円井さん 何も為す術がなくて抜け出せなかったので、ひたすら辛抱と忍耐でした。12歳くらいのときには、トイレのなかで「このまま15歳になってくれ!」と願ったこともあったほど(笑)。よくドラマで「3年後―」みたいに飛ぶことがありますが、現実でもそんな感じになってほしいと思っていました。

監督 確かに、それくらいの時期に退屈を感じることってありましたよね。

―ということは、中学を卒業した瞬間に解放されたと。

円井さん すごかったですね。裸で走りたくなるくらい「サイコー!」みたいな感じで(笑)。そこからはループしているような感覚はなくなりました。

監督 僕は数年に1回、ループしているように感じることがあります。20代からCMとかいろんなものを撮ってきましたが、周りから「これは面白いから当たるぞ!」と言われるたびに「これが完成したら俺はどうなっちゃうんだろう。すごい出世しちゃうんじゃない?」と期待するものの、何も変わらない。そのあと、また別の山が来て「次こそは絶対に!」となるんですけど、また何も変わらない。そんな感じでループしてますね。

円井さん それはすごくわかる気がします。

大事な仲間と一緒に、上に登っていきたい

―ということは、映画の全国公開を控えているまさにいまもその状況なのでは。

監督 これまでループしすぎたこともあって、怖いのであまり考えないようにしています。期待したらフラグが立ってしまうような気がするので(笑)。かと言って、別に諦めることが大事と悟ったわけではなくて、地道に積み上げてきた結果がいい方向に行きそうでも、意識しすぎないようにしています。

―逆に、この1週間だったら何度でもループしたいと思うような思い出はありますか?

円井さん そういうのはないですね。というのも、そのときが幸せで楽しければ、それでいいかなと思うので。

監督 なくなるとわかるから美しく見えたりしますし、飽きちゃうのも怖いですからね。

円井さん どんなに楽しくても、ループしたらしんどくなりそうです(笑)。

―本作では仕事に対する向き合い方などについても考えさせられますが、おふたりが仕事をするうえで大切にしていることがあれば、教えてください。

監督 僕がずっと心がけているのは、仲間を大事にして、みんなで一緒に上に登っていきたいという感覚。意思疎通の取れる素敵な仲間を見つけたら、彼らとチームとして仕事をしていきたいと思っています。

円井さん 私は、まずはちゃんと話し合うこと。それは監督でも共演者に対してでも言えることですが、とにかくいろんな人と話すようにして、チームとしてコミュニケーションを取るように意識しています。

「自分だけじゃない」と背中を押してもらえるはず

―それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。

監督 みなさんも日々忙しくされていて、「これが終われば!」みたいな感じでずっとがんばっていらっしゃると思いますが、もしその毎日が繰り返されたらどう思うか。いまの忙しい生活のなかで、本当にやり残したことはないか、というのを考えてみてもらえたらうれしいです。この作品を観たあとに、1日を噛みしめてみたり、まだできることを探してみたりしていただいて、ちょっと立ち止まってみるきっかけになったらいいなと思っています。

円井さん 本作は、周りの人を大切にしようとか、支えられていることに気づかされるところがある映画となっています。自分だけがつらい思いを抱えていると感じている人は多いかもしれませんが、「そうじゃないよ」とちょっと背中を押してもらえるはずなので、ぜひみなさんにも観ていただきたいです。

インタビューを終えてみて……。

大変な現場を一緒に乗り越えてきたこともあり、お互いを信頼し合っているのがわかる円井さんと竹林監督。楽しそうに撮影を振り返っている様子からも、いかに充実した現場だったのかが伝わってきました。見事なチームワークがあったからこそ生まれたコミカルなノリとテンポの良さにも、ぜひ注目してください。

人生に抜け出せないループはない!

先が読めない秀逸な展開で、観客までタイムループの渦に引き込んでしまう本作。働く人なら誰でも、「あるある!」とエンドレスな共感も止まらないはず。日々の忙しさで忘れがちな仕事への情熱と仲間の大切さをもう一度思い出してみては?


写真・安田光優(円井わん、竹林亮監督) 取材、文・志村昌美
円井わんスタイリスト・飯間千裕 ヘアメイク:MARI(SPIELEN)

ストーリー

小さな広告代理店に務めながら、憧れている大手広告代理店への転職を目指していた吉川朱海。月曜日の朝、プレゼン資料の準備で忙しいなか、後輩2人組から「僕たち、同じ一週間を繰り返しています!」と報告を受ける。

なんと、社員全員でタイムループしているという。ひとり、またひとりと、タイムループに閉じ込められているのを確信していくなかで、それぞれの思惑が交錯しながら繰り返される地獄の1週間。脱出の鍵を握っている部長に気づかせるため、社員たちはある作戦を立てるのだが……。

何度もループしたくなる予告編はこちら!

作品情報

『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』
10月14日(金)より 東京・渋谷シネクイント、大阪・TOHO シネマズ梅田、名古屋・センチュリーシネマ 先行公開
10月28日(金)より全国にて順次公開
配給:PARCO
https://mondays-cinema.com/
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