前代未聞の制作スタイル!? プロデューサーが明かす、『SPY×FAMILY』ができるまで

2022.5.21
映像美、アクション、笑い、人間ドラマ。究極のエンターテインメントがここに! プロデューサー対談で明かされる、アニメ『SPY×FAMILY』ができるまで。

アニメーションは、1つの作品は1つのアニメスタジオが手掛けるのが、一般的な制作スタイル。しかし今回は、『進撃の巨人Season1~3』で知られるWIT STUDIO、『Fate/Grand Order ‐絶対魔獣戦線バビロニア‐』を手掛けたCloverWorksという、日本を代表する実力派の2つのスタジオがタッグを組み制作するという、業界的に珍しい方法で作られている。それってどういうことなの? 一緒に作るメリットとは? そんなあれこれを、プロデューサーの福島祐一さんと中武哲也さんに、根掘り葉掘り聞きました。

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――お二人は原作のマンガにはどんな印象をお持ちでしたか?

福島祐一:僕は連載が少し進んだ頃から読み始めまして、アーニャがダミアンを殴る話あたりで“え、スパイものじゃないの?!”が最初の印象でした(笑)。学園ものなの?! って。

中武哲也:確かに読んでいくと、シリアスなスパイものではない。独特の温かみがある物語ですよね。

福島:でも、アニメにしたらすごく映えそうな作品だな、とも思いました。

中武:僕もそう思いました。原作の絵が魅力的な上、緻密すぎないので、アニメ化には抜群のポテンシャルがある作品だな、と。たぶんアニメ業界の人、みんなそう思ったと思いますが(笑)。

福島:確かに(笑)。

――そして、それぞれご自身のスタジオが手掛けることになったときには、どう思われました?

福島:“WIT STUDIOさんと一緒に作るんだ…”

中武:(笑)

福島:いや、というのは、弊社の場合、製作に親会社のアニプレックス(編集部注・『鬼滅の刃』などのアニメの企画製作を手掛ける企業)が入ることがほとんどなので、製作会社に東宝さんが入ることが珍しいですし、さらに他のアニメスタジオと組んで作品を作るなんて、前代未聞なんですよ。なので、こういう座組が実現するのか…というのが率直な感想でした。

中武:確かに、めったにないことですよね。“あの人と組んだらどんな作品になるかな”とか、“あの作品をあの人が作ったらどうなっただろう…”とか、妄想としてシミュレーションすることはあったとしても…。

福島:わかります。〈ベストイレブン〉的なことですよね?

中武:そうそう(笑)。でもそういうのは、なかなか実現しないじゃないですか、でも今回はそれがナチュラルに形になっちゃった。

――中武さん的に、CloverWorksさんの魅力とは?

中武:めっちゃくちゃ今、強い会社ですよね。アニメ界のビジュアリスト。先鋭的で、感性的な映像を作るのが本当に上手です。今エンタメとしてアニメを楽しむ人たちにも、またいわゆるアニメファンの文脈にも刺さるような、感度の高いものを作るスタジオです。

福島:世界的に大人気のWIT STUDIOさんに、そんなに褒めていただけるとは…! 自分としてはWIT STUDIOさんの人気に便乗させていただきながら、より認知してもらいたい、というのが正直なところです。

中武:なんですかそれ(笑)。

福島:すみません! 真面目に言いますと、WIT STUDIOさんは海外で評価が高い作品をたくさん作られていますし、僕はWIT STUDIOさんの作品に漂う、武骨さ、重厚感、濃厚な感じに憧れるんです。そこがこの作品の、“スパイ”的な要素とすごく合っている気がするんですよね。弊社のライトさと、WIT STUDIOさんの硬派な感じが組み合わさることで、新しい何かが生まれるのかもとは思っています。

中武:一緒にやってみると刺激的ですし、本当に面白い。物理的にスタッフの行き来もあるので、若い人たちがすごく活性化されているのも感じます。僕自身も福島さんの仕事ぶりを拝見し、“もっとアニメ好きにならなきゃ!”という焦りと圧をもらってます(笑)。

福島:でもなんですかね、お互いの強みを持ち寄れば、強いアニメができるのでは!? みたいな、発想はありますよね。

中武:会社の垣根を越えて協業できる未来を夢見てはいたけれど、夢じゃなくなるなんて、すごい。しかも、対象を面白がれる人と一緒にモノづくりをするほうが、絶対に楽しいじゃないですか。今回はまさにそんな感じですよ。

――監督とシリーズ構成は『機動戦士ガンダムUC』などを手掛けた古橋一浩さんです。起用の理由はどんなところに?

中武:この作品が持つ“あったかみ”の要素が、古橋監督の作る世界に合うのでは、というところですね。あとは、スケジュールに関する絶対的な信頼感。テレビアニメって、安定した速度で、基準を満たした品質を作り続けなくてはいけないので、本当にスケジュールが大切なんです。特に今作は、2つのスタジオが動くので関わる人数が多い。なので、作家性と職人性のいずれもが高い古橋監督にお願いをしました。

――キャラクターデザインは、『約束のネバーランド』のキャラクターデザイン・総作画監督を手掛けられている、嶋田和晃さんです。嶋田さんの抜擢理由は?

福島:総作画監督はすべての話数の絵を統一する仕事で、嶋田さんの描く絵は、原作の絵に寄せながら、アニメとしてのデザインの良さも出してくれる絵だと思います。仕事を拝見していると、色々なものに対応してくれていて、とても器用な方だなという印象もあります。嶋田さんが描いた絵を遠藤達哉先生(原作の作者)にお見せしたら、気に入ってくださったので、本作のキャラクターデザイン・総作画監督をお願いすることになりました。嶋田さんが描くアーニャが可愛くて素敵です。

――それにしても、これだけ人気のマンガをアニメ化するというのは、プレッシャーはないですか?

中武:読者の人が好きな原作の世界を、アニメという器に置き換えるにあたって、一番大事なのは、原作へのリスペクトですよね。

福島:はい。それは人気のマンガかどうかは関係なく、すべてのアニメ化に対してそう思っています。マンガは自分のペースで読めるエンタメなので、読んだ人の数だけ〈その人が想像する『SPY×FAMILY』〉があり、人気作品だとその数が多いことになるので、そういう意味で、ハードルは高いと思います。でも、2つのスタジオでいろんな議論をする中で、みんなで「ここが『SPY×FAMILY』の大事なところ」というのを寄せ合って、一つの形にたどり着ければと。

中武:はい。安定したクオリティの作品を継続的に視聴者に届けられるよう、日々頑張っているので、楽しみにしてほしいです。今の世の中、人に話して理解してもらいたいけれど、本当のことが言えない、そんな悩みを抱えている人も多いと思うんです。そういった意味でも、きっと本作は共感してもらえると思うので。

福島:一方で、ほのぼの家族ものとしても楽しめる作品ですので、どうぞよろしくお願いします。

ふくしま・ゆういち アニメスタジオ「CloverWorks」プロデューサー。手掛けた作品は、TVアニメ『四月は君の嘘』『ダーリン・イン・ザ・フランキス』『Fate/Grand Order ‐絶対魔獣戦線バビロニア‐』など。

なかたけ・てつや アニメスタジオ「WIT STUDIO」プロデューサー。手掛けた作品は、TVアニメ『甲鉄城のカバネリ』など。『進撃の巨人』はTVアニメSeason1~3、劇場版のいずれも制作。

『SPY×FAMILY』 原作は、マンガアプリ「少年ジャンプ+」で連載中の、遠藤達哉氏の同名コミックス。現在9巻まで発売中。凄腕スパイの〈黄昏(たそがれ)〉は、よりよき世界のため、日々諜報活動にあたっていた。ある日突如言い渡された任務のため、仮初めの家族を作ることに。しかしその家族のメンバーが、娘は超能力者、妻が殺し屋って!? アニメは毎週土曜23:00~23:30、テレビ東京ほかにて放送中。各プラットフォームにて配信も。
©遠藤達哉/集英社・SPY×FAMILY製作委員会

※『anan』2022年5月25日号より。

(by anan編集部)