志村 昌美

「SNSが怖い」小野花梨に「気にしない」見上愛が語るSNSとの向き合い方

2021.10.15
いまや私たちの生活と切っても切れないSNSですが、手軽に楽しめるいっぽうで、計り知れない怖さを感じている人もいるのでは? そんななか、オススメ映画としてご紹介するのは、SNSを使って社会に立ち向かおうとした女子高生たちを描いた注目作『プリテンダーズ』。今回はこちらの方々に、お話をうかがってきました。

小野花梨さん & 見上愛さん

【映画、ときどき私】 vol. 419

SNSとアイディアだけで世界を変えようと抗う女子高生を描いた本作で、引きこもりでひねくれ者の花田花梨を演じた小野さん(写真・左)と、花梨の唯一の理解者で親友の風子を演じた見上さん(右)。今後さらなる活躍が期待されている若手女優として注目されているおふたりに、撮影秘話やお互いの意外な一面、SNSとの付き合い方などについて語っていただきました。

―小野さんにとっては本作が長編映画初主演となりますが、これまでの現場と違いはありましたか?

小野さん いままでは「監督のやりたいことを形にするのが俳優」と考えていたので、監督から聞いたイメージを自分のなかに落とし込んで提示するという方法でずっとやってきました。ただ、今回は自分と役が近かったということもあり、監督に対して自分の意見をはっきりと伝える場面が多かったですね。

性格的に普段はあまりこういう主張はしないほうなので、私にとってはこれも初めての経験だったなと。生意気にも言いたいことを言わせていただきましたが、それは熊坂出監督が撮影の前に信頼関係を築いてくださったからこそ。いままで知らなかった新しいコミュニケーションの取り方を教えていただきました。

―見上さんは今回の撮影を通して、得たものはありましたか?

見上さん この仕事を始めてから1年も経っていないくらいの頃に撮影したので、右も左もわからない状態。しかも、これだけ長い時間同じ役を演じるのも初めてのことだったので、私にとってはすべてが発見でした。

現場では「こんなにも私の意見を取り入れてくれるのか」と驚きましたが、ほかの現場を経験してから、それが当たり前ではないことを知りました。未熟な私とあそこまで対等に話し合っていただいたこと、役について掘り下げる時間をきちんと取ってくださったことは、本当にありがたかったです。

つらすぎて、二度とやりたくないと思うこともあった

―劇中では、渋谷のスクランブル交差点で自分の思いを叫ぶシーンが非常に印象的でした。とはいえ、ゲリラ撮影でかなり大変だったと思いますが、舞台裏はどのような感じだったのでしょうか?

小野さん あれは、本当に大変だったよね……。

見上さん 絶対に1回で撮らなきゃいけないというプレッシャーと緊張感が撮影前にあって、それもすごかったよね。でも、結局は2日間に渡って3回も撮りました。

小野さん 正直言って、もう二度とやりたくないですね(笑)。それくらい本当に苦しくて、とにかくしんどかったです。

―それは役としてか、それとも撮影環境の厳しさか、どこからくるしんどさでしたか?

小野さん いままでの現場ではスタッフさんをはじめ、絶対的な味方のなかで撮影していたんだということに改めて気づかされました。なので、今回のように私たちに見向きもしない人たちに囲まれてお芝居することが、こんなにも苦しいものだとは知らなかったので、それがつらかったです。

見上さん でも、だからこそ、あのシーンにはうそがないんじゃないかなと。もちろん、街中で大きな声を出すのは嫌でしたけど、役としてただそこにいればいいという状況だったので、しんどそうにしていた花梨ちゃんとは逆で私はすごくやりやすいと感じていました。とはいえ、それは経験が少なく、いろいろなことがわからないからこその強さだったのかなといまは思います。

小野さん なるほど。愛ちゃんにとってはリアリティでしかなかったってことだよね。それはすごい。

見上さん それよりも、私は人のほうが怖かったかも。

渋谷でのゲリラ撮影は、貴重な経験になった

―その場にいた一般の方の反応は、どんな感じでしたか?

小野さん 私たちがセリフを言い始めたら、「気持ち悪っ」とか「邪魔」といった声が聞こえてきましたし、その場を離れる人もけっこういましたね。でも、発見だったのは、意外と誰もこっちを見ないんですよ。

見上さん そうそう。背中で感じてはいるけど実際には見ないよね。今回はカメラマンさんが遠くにいたこともあり、おそらく撮影だということに気づいてもらえていなかったから余計にそうなったのかなとは思いますが……。

小野さん おかしな2人が意味のわからないことしだしたから、“見ちゃいけないもの”みたいな扱いになってたのかもしれないですね(笑)。

見上さん そうかもね。ただ、貴重な経験にはなりました。

小野さん それは間違いないね。

―直接は目も向けないけど、ネットだったら遠慮なく叩くというのがいまの社会なんでしょうね。おふたりは物心ついたときからネット社会とともに育っていると思いますが、SNSとの付き合い方など、気をつけていることはありますか?

小野さん 実は、私はプライベートでも仕事でも、SNSを一切やっていません。それはSNSに便利であるがゆえの大きなリスクを感じているからです。匿名で相手を叩く人に対しては疑問を覚えていることもあり、たとえポジティブな内容であったとしても自分の言葉や情報を提示することへの恐怖があるんだと思います。人の気持ちや心の傷のように目には見えないものを伝えるのは、すごく難しいことですから。

ただ、プラスの感情を届けられる方もいるので、人それぞれだとは思いますが、いまの私にはまだその勇気がないので、「距離を置く」という選択をしました。ですが、見る側として情報を得ているところもあるので、矛盾していると感じる部分はありますね。何年か先に自信がついたら挑戦するかもしれないですが、いまの段階では「SNSは怖いもの」と思ってしまっているほうが大きいです。

自分のSNSで元気になる人が1人でもいればいい

―見上さんはSNSを活用されていますが、意識していることはありますか?

見上さん 私はお仕事を始めてからすぐにInstagramを開設して、最近はTwitterも始めました。そのなかでいいコメントもあれば、ときには傷つくようなものもありますが、私はあまり気にしていません。ただ、私のSNSが何かプラスのことに使われていればいいなとは思っています。

ただ、自分が発信する言葉で誰かが嫌な思いをしていないかなとか、言葉選びには気をつけています。とはいえ、伝えたいことや載せたいものは、わりと自由にしているほうかなと。SNSでは芸能活動している自分と普段の自分に距離はない状態なので、そういう意味では私は向いているのかもしれないです。

―本作でいうところの「Pretend」、つまり何かのフリをしたり、違う自分を演じたりするようなこともないと?

見上さん まったくないですね。なので、あまり気負うことなく、楽しく使えているんじゃないかなと。もちろん、私のSNSを見て自分とは合わないと思う人もいるかもしれませんが、元気になってくれる人が1人でもいれば、それでいいと考えています。

愛ちゃんとの出会いは、私にとって奇跡的だった

―今回の撮影を通じて感じたお互いの印象について、教えてください。

見上さん そもそも私たちって、違いすぎるくらい正反対だよね?
 
小野さん うん、そうだね。

見上さん でも、だからこそ一緒にいて、すべてがおもしろいというか、何を話していても興味深いんです。全部が発見でもあるので、花梨ちゃんとの出会いは、私にとってはすごく大きいものになりました。正反対なのに、つながれる不思議があった気がします。

小野さん それは私も同じで、本当に奇跡的な出会いだったなと。愛ちゃんみたいな人はなかなかいないですからね。ちなみに、雰囲気的に私のほうが強く見られがちなんですけど、実は愛ちゃんのほうが強いんですよ。私がもう無理となっていても、愛ちゃんはケロっとしていて、飄々とやってのけてしまうくらい。「世間のみなさんが思っているよりも、見上愛はめちゃくちゃ強いんだぞ」というのは言いたいですね(笑)。

見上さん あはは! でも、確かに私のほうが強いかもね。私はメンタルが強いおかげか、自分から出る言葉自体はあまり強くないと感じています。何とも戦っていないので、強い言葉を使う必要がないというか……。

小野さん それ、すごくよくわかる。言葉が強い人って本当に強いんじゃなくて、自分を守ろうとする意識が働くから強い言葉を使っているだけだと思うので。たとえば、私は傷つきやすいほうなので、自分を守るために言葉のなかに“刃物”をちらつかせてしまうところがあるんですけど、愛ちゃんはそれがないんですよ。そういう意味でも、私たちって正反対なんだろうね。

見上さん でも、花梨ちゃんは自分だけじゃなくて、周りの人も守ってくれて、その人たちのために一緒に戦ってくれる人。それは私にはできないことなので、本当に素敵だなと今回すごく感じました。私もそういう優しさを身に着けたいと思っています。

小野さん 私は痛みを感じやすいほうなので、「もし誰かがその痛みを伴っているならなんとかしたい」というそれだけです。

私も花梨ちゃんのような優しい人間になりたい

―本作の主人公たちは、「社会や自分を変えたい」という思いに突き動かされていますが、おふたりもご自身のなかで変えたいことはありますか?

見上さん いまの話につながりますが、もっと優しい人間になりたいですね。私はあまり生きづらさみたいなものを感じたことがないので、ちゃんと人に寄り添えていないんじゃないかと考えることがあるからです。痛みを知っている人は、上辺だけでなくきちんと人の痛みを理解できると思うのですが、私の場合はまだ「感覚的にわかる」くらいのレベルなんじゃないかなと。なので、本当の意味で優しい人になりたいと思っています。

小野さん 正直に言うと、私はいま変えたいと思うことはないかもしれません。といっても、「いまの自分最高だぜー!」という意味ではないですよ(笑)。そうではなくて、何かを変えたいとわざわざ考えなくても、自分がよりよくなるように変わりゆくものだと思っているからです。実際、1年前の自分も2年前の自分も、いまとは全然違いますから。そんなふうに、状況に応じて日々よくなっていくように心がけているので、あえてこれを変えたいと思っていることがないというのが正しい答えです。ただ、そのためにはすべてに対して真摯に向き合う必要がありますし、毎日を一生懸命生きていかなきゃいけないな、というのはあります。

―それでは最後に、観客へのメッセージをお願いします。

小野さん 私が演じた花田花梨に対しては賛否両論あるかもしれませんが、私自身はこの作品にすごく救われました。「こんなにがんばってるのに誰もわかってくれない」みたいな絶望や生きづらさを抱えていたのは自分だけじゃなかったんだなと。ただ、受け止め方については観る方の自由なので、それぞれの“正解”を見つけながら観ていただけたらと思います。

見上さん この作品では、いままで向き合わなくてよかったことにも向き合わされる嫌悪感を抱く人もいるかもしれません。でも、そこに少しでも向き合えた瞬間、世界がすごく広がると私は思っています。自分が見ている世界だけが世界じゃないし、違う視点から見る世界もあると知れるのは大きなことですから。そうすれば、みんながお互いにもう少し寄り添い合えるんじゃないかなという期待もあります。人によって感想が全然違うので、そういったおもしろさも感じていただきたいです。

インタビューを終えてみて……。

性格やタイプは正反対ではあるものの、だからこそお互いを補い合ってステキな関係を築けている小野さんと見上さん。劇中の花梨と風子の関係性は、この組み合わせでしか体現できないものだったというのもうなずけます。全力で挑んだゲリラ撮影のシーンを含め、おふたりが見せる体当たりの演技は必見です。

ブラックなのに、ハートフルな異色作!

誰もが“Pretend”しながら過ごす現代で抱えている葛藤や違和感に迫り、あらゆる感情を呼び起こさせる本作。日々変化し続けるネット社会に加え、日常も常識も一変させたコロナ禍で生きるいまだからこそ観るべき1本です。


写真・北尾渉(小野花梨・見上愛) 取材、文・志村昌美 

ストーリー

「前にならえ」「空気を読め」を美徳とするニッポン社会に反抗する17歳の花田花梨。父と妹と暮らしながら、半ば引きこもりの生活をしていた。そんななか、父との言い争いをきっかけに家を飛び出した花梨は、海外赴任の両親と離れて一人暮らしをする親友・風子のアパートへ転がり込むことに。

ある日、電車内で病人に席を譲った花梨は、得も言われぬ感覚を味わったことをきっかけに、型破りなドッキリで“世直し”することを思いつく。そこで、「プリテンダーズ」を結成し、動画を次々とアップするのだが、ふたりを待ち受けていたのは社会からの“しっぺ返し”だった……。

胸がざわつく予告編はこちら!

作品情報

『プリテンダーズ』
10 月 16 日(土)ユーロスペースほか全国順次公開
配給:gaie
https://pretenders-film.jp/ 
©2021「プリテンダーズ」製作委員会