「自己責任論で片付けてほしくない」…伝説的女性“戦場ジャーナリスト”の映画

2019.9.14
オネエ系映画ライター・よしひろまさみちさんの映画評。今回は『プライベート・ウォー』です。

真実を見極める目を持ちましょうよ、マジで。

movie1

悲しいことに、いつの世も戦争ってなくならないわよね…。たとえ、自分が暮らしている国が平和だったとしても、世界のどこかでは戦争が起きていて、兵士たちはもちろん、戦争に全く関係のない一般市民が犠牲に。誰が始めて、誰が得して、終わりがどこにあるのかも分からないって状況がいつもどこかにあるってことは、さまざまな報道でご存じよね? その報道の最前線にいるのが、戦場ジャーナリスト。『プライベート・ウォー』は、戦場ジャーナリストとして伝説的な存在だったメリー・コルヴィンという女性を描いた超骨太社会派作品なの。

イギリスの新聞で特派員を務めるアメリカ人ジャーナリストのメリーは、数々の戦地に赴き、どこも報じない特ダネをゲット。他のジャーナリストが避ける極悪危険地帯にも乗り込んで、そこにいる市井の人々の苦しみを報じてきたの。’01年のスリランカ内戦取材で砲撃に巻きこまれて左目を失明してからは、眼帯をして戦場報道に復帰。とにかく紛争地にいる市民に寄り添い、権力者の欺瞞を暴くために奔走するの。ワンダーウーマンばりの活躍をしていた彼女だけど、やはり戦地で実際目にした悲惨な光景は忘れられず、PTSDに苦しみ、悪夢上等。お酒とタバコは欠かせない毎日だったのよね…。こんな女性が本当にいたなんて! という驚きとともに、戦場ジャーナリストの現実をまざまざと見せつけられてズーンと心に響く傑作。監督がもともと社会派のドキュメンタリー監督だから、戦地での爆撃映像や、本物の難民をエキストラで使ったシーンのすごみったらないわよ。これ、ガチでは? と思うシーン、めちゃたくさんあるんだから~!

これを観て考えてほしいのは、戦争報道の必要性。文字通り命がけの取材で戦場を渡り歩いているジャーナリストは大勢いるし、その人たちのおかげで、世界のゆがみを知ることができるのよね。だから、たとえ彼らが戦地で捕虜になっても、自己責任論で片付けてほしくないのよ。だって、自分が平和だったらそれで片付かないのが、令和の世の中だもの。明日は我が身、じゃないけど、自分が戦争に巻きこまれたとき、自己責任で片付けられたらたまったもんじゃないでしょ? 日本では戦場ジャーナリストのことを自己責任で片付けようとする人多いけど、それって絶対間違ってるってことに、この映画で気づかされるわよ。

じつはメリーさん、シリア内戦で亡くなっているんだけど、今年2月にそれは彼女を狙った政府軍の攻撃だったことを米裁判所が認定して、シリア政府に損害賠償を命じているの。それってなぜかっていったら、当時政府側を味方する報道が多かった中、そのウソを暴いた彼女が邪魔だったから。権力側が発信する情報を鵜呑みにしてた報道は全部ウソだったってことよ。現場を見て、多くの声を聞いて精査して、真実を報じることの難しさを、この作品では見事に描いているの。これって、戦争に限らず言えることだけど、後の世で明らかに~、ってこと多いじゃない? でも情報社会の今、真実は即時に一般市民のあたしらが知って、正しい方向に進むべきだと思うわけよ。この作品でちょっとでもそれを考えるきっかけになればうれしいわ。

movie2

『プライベート・ウォー』 監督/マシュー・ハイネマン 出演/ロザムンド・パイク、ジェイミー・ドーナン、トム・ホランダー、スタンリー・トゥッチほか 9月13日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー。©2018 APW Film, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

※『anan』2019年9月18日号より。文・よしひろ まさみち(オネエ系映画ライター)

(by anan編集部)

エンタメ-記事をもっと読む-_バナー

山下、新垣、戸田『劇場版コード・ブルー』 萌え場面はアソコ!?