”アスペ” という差別用語。軽々しく使うことが当事者を苦しめる

文・七海 — 2017.3.7
“アスペ” という単語。これは、アスペルガー症候群の人を差別し、その語を短縮して使われている用語です。何かしら不思議な行動を取った人、また、不快に感じる行動を取った人、そういった人に対して使われている差別用語でもあるでしょう。あなたは、軽々しく使っていませんか?

精神疾患をもとにした差別用語について

「お前アスペだろ」「アスペかよ」−。そんな言葉が聞こえるときがあります。”アスペ” という単語は、”手軽に” 人を傷つけることが可能な言葉。けんか腰になって ”アスペ” という単語を使う人も見かけます。もちろん冗談交じりに使う人もいます。でも、その ”アスペ” という単語がそれを発した相手以外も傷つけてしまっていると考えたことがありますか?

精神疾患をもとにした差別用語はいくつかあります。”ボーダー”、”糖質” …。ボーダーは、境界性人格障害がもとになっており、この疾患はボーダーライン障害ともいわれています。感情や思考を制御するのが難しく、衝動的な破壊行為に出てしまうこともあります。糖質は、統合失調症を省略し、当て字にした俗語です。感情や思考がまとまりにくく、幻覚や妄想を発症する恐れもあります。どちらも症状が多様で一概には言えないのですが、”健常者” にとっては ”厄介” なのでしょう。そこから、”厄介” な人を揶揄する言葉として広まったのだと思っています。

“アスペ” も同様に、アスペルガー症候群の人の ”厄介さ” を、そうではない人までをも揶揄するために使われているのだと感じます。精神疾患をもとにした差別用語はさまざまですが、私自身がアスペルガー症候群なので、”アスペ” という単語にフォーカスして、その言葉が軽々しく使われていることに対する苦しみを吐露しようと思います。

”アスペ” だと揶揄している場面を見たときの当事者の気持ち

アスペルガー症候群は、いわゆる発達障害。持って生まれた性質であり、マジョリティとは異なる特性を持っています。マジョリティの声が強いこの世界では、マイノリティであるアスペルガー症候群は迫害されがちです。私たちがどんなに声を上げようと、マジョリティには届かないことがしばしば。虚しい思いもたくさんしてきました。

私はアスペルガー症候群だけど、マイノリティだけど、それでも頑張って生きていこう。そう思っています。マジョリティ世界で、マイノリティとして生きていくしかないのです。

そんななか、”アスペ” という単語が飛び交う場面に出くわしたら。私はとても悲しい気持ちになります。アスペルガー症候群なのかどうかを問わず、不思議な人、不快に感じた人に ”アスペ” という単語を吐きかけて、その人を追いつめるのです。でも、追いつめられているのはその言葉を吐きかけられた人だけではありません。アスペルガー症候群当事者である私はどうしたら良いのでしょうか? 私はマイノリティに生まれたいわけではなかった。だって、ここはマジョリティの声が強い世界だから。だけど、マイノリティに生まれてしまった。私は、あなたと同様に、生まれ方を選べなかったのです。

“アスペ” という差別用語が飛び交うとき、当事者はどんな顔でその光景を見ていれば良いのでしょうか。私が ”アスペ” だからいけないの? 私が ”アスペ” だからこの人は ”アスペ” と罵られているの? その元凶に私がある気がして、つらい気持ちになるのです。差別用語の裏には、そのために苦しんでいる人間がいるということを忘れてほしくない。そういった思いでいっぱいになります。

軽々しく使うことで、さまざまな人を苦しめるということを認識して

“アスペ” という言葉は、簡単に使える言葉だと思います。それを使うだけで、相手を傷つけることができる。相手を傷つけたいがために使っているのだから、使っている当人にすれば非常に手軽な単語でしょう。

しかし、”アスペ” と揶揄された人はもちろん、アスペルガー症候群当事者はどうすれば良いのですか? アスペルガー症候群当事者がいなくなれば、”アスペ” と揶揄されて傷つく人がいなくなるのですか? 私は生きていてはいけない人間なのでしょうか? そんな思いが交錯します。

手軽に使える罵り言葉だからこそ、そのぶん当事者は傷つくのです。アスペルガー症候群に生まれた私を全否定されているようで−。私はマイノリティだけど、それでも生きていこうと決意しました。この考えに行き着くまでには相当な覚悟がいりました。だからこそ、軽々しく否定しないでほしい。それが私の思いです。

”健常者” にとって、精神疾患者は確かに ”厄介” なのかもしれません。それでも、生きているのです。あなたと同じく、生きているのです。”異質” だからと排除しないでください。私にも生きる資格をください。尊厳をください。あなたのその軽いひと言で、傷つく人がたくさんいるんだということを忘れないで−。


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