ラグビー女子日本代表・山本実、加藤幸子、古田真菜、海外で役立った“意外な英語のひと言”とは?

2022.10.2
ラグビー女子日本代表のカナダ出身、レスリー・マッケンジーHC(ヘッドコーチ)就任後は海外遠征が増え、海を渡って修業に出る選手も急増中。海外チームで過ごした経験のある選手3人に、言葉の壁の乗り越え方を聞きました。
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【山本 実選手】言葉なしには務まらないポジション。使える単語を最短で学びました。

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昨年イングランドのチームに誘われて、プレーの機会を得た山本実選手。

「渡英当初の語学力は挨拶程度。私のポジションはいわばチームの司令塔だったのですが、英語だと細かい指示ができず、それがストレスでした」

そんな状況を変えたいと始めたのが、オンラインでの英会話レッスン。

「とにかくすぐ使えそうな言葉から教えてもらって。なかでも『イギリスではコレさえ覚えておけば大丈夫』と教わった、『紅茶淹れようか?』というひと言はとても役に立ちました(笑)」

語学力は徐々に上達し、それとともにラグビーのプレー精度もアップ。帰国直前には会心の試合を経験した。

「HCの言うことも、今は英語のほうが、ニュアンスがよく分かります」

やまもと・みのり 1996年生まれ、神奈川県出身。MIEPEARLS所属。2017年W杯代表。’21年にイングランドのウスター・ウォリアーズに期限付きで移籍。スタンドオフ(SO)やセンター(CTB)など、複数のポジションをこなすマルチプレーヤー。

【加藤幸子選手】話せずとも親しみを持って共にいることが、信頼につながるのだと思います。

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2020年から、イングランドのチームで2シーズンを過ごした加藤幸子選手。英語が苦手、元来シャイな性格ということもあって、チームメイトと気軽に話せない日々が数か月続いた。

「でも、みんなは気にせず食事に誘ってくれる。チームの仲間として、言葉は分からなくてもできるだけ一緒にいようと思いました。するとある時、自然と会話が聞き取れるようになって」

心理的なバリアーが外れたことで、ラグビーのプレーにも変化が。

「以前は試合中、仲間がトライした時も遠目に見ているだけでしたが、今は必ずひと声かけに行くようになりました。自分も同じことをされれば嬉しいし、ちょっとした行動が信頼を生む。そういうことも学んだ滞在でした」

かとう・さちこ 2000年生まれ、愛知県出身。早稲田大学在籍中の’20年からイングランドのエクセター・チーフスに所属。プロップ(PR)を担当。力強いタックルに定評あり。祖母からの言葉「努力に遠慮するな」が座右の銘。

【古田真菜選手】言葉が合っているか周囲にまめに聞く。あとは勢いで乗り切る、です!

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自身で編集したプロモーションビデオをオーストラリアのチームに送り、オファーを勝ち取った古田真菜選手。

「勢いで行きましたが、英語はダメで。『Is it correct?(これ合ってる?)』のフレーズを覚えて、とにかく周囲に聞くようにしました」

繰り返すうちに、まわりも古田選手の英語のクセに気づき、いろいろなアドバイスをくれるようになった。

「私の英語力が伸びたのは、順応力が高いチームメイトのおかげです(笑)」

かくして短期間で仲間たちと良い関係を作り、当地のリーグ戦でのスタメン入りも果たした古田さん。

「日本のチームにも外国人選手を招聘する時があるかもしれない。そうしたら、今度は私が助けてあげたいです」

ふるた・まな 1997年生まれ、福岡県出身。東京山九フェニックス所属。今年1月から5月まで、オーストラリアのブランビーズでプレー。ポジションはCTB。目指すは世界一のハードタックラー。ジャッカルも得意。

言葉の壁を越えて躍進! ラグビー女子日本代表がワールドカップに挑む!

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ラグビーワールドカップ(女子)がいま面白い!

1991年に始まり、今年で9回目となる女子ラグビーW杯。「女子ラグビーはいま、世界的に黎明期。7人制が主流だった日本でも、15人制の強化に乗り出しています」とは、ラグビージャーナリストの村上晃一さん。

「個々の力を掛け算して戦力を高められるのが15人制の醍醐味。また、パワー一辺倒ではなく、攻守で粘り強いプレーが見られるところが女子ラグビーの魅力です」

プレーヤーが身近な存在であることも、共感ポイントのひとつ。

「普通の会社員や学生が、地域や家族に支えられ、自国のジャージーを着て大舞台で果敢に体をぶつけ合う。女子は仲間意識も強く、まさに“ラグビーらしいラグビー”。観ていて胸が熱くなります」

日本チームのここを見て!

「体が小さい分、とにかく走り回ることがカギ。相手のディフェンスに潰される前にどんどんパスを回していく、スピード感と連帯力に注目したいですね。意表をついて相手の後ろにボールを蹴り出す作戦も多く見られるかもしれません」(村上さん)

タックルも見どころのひとつ。

「効果的なタイミングと角度で当たれば、相手がどんなに大きくても倒せる。日本の小さな選手が海外の大型選手をタックルで仰向けに倒すと、観客は拍手喝采です」

相手との体重差があり、一見不利に思われるスクラムは、

「高い技術でカバー。最前列の3選手が、後ろの選手の力を効率的に伝える姿勢を緻密に習得しています。全員がかちっとはまって、相手をぐいぐい押す姿は壮観」

ラグビーはルールが複雑、という声もあるけれど、

「細かいことは気にせず観ましょう。攻守が入れ替わる“ターンオーバー”が見どころのひとつなのでそこは押さえておき、あとはプレーのひとつひとつを楽しんで」

強豪を相手に独自の戦法を駆使する日本チーム、応援したい!

注目の選手をピックアップ!

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阿部 恵 選手
147cm53kgの小柄な体で走り回り、テンポの良いパスで相手チームを攪乱するスクラムハーフ(SH)。疲労が溜まる後半もタフに動き、チームを鼓舞する。倍はあろうかという体格の海外選手に臆せずタックルする姿にも感動!

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南 早紀 選手
キャプテンとしてチームをまとめる、サクラフィフティーンの要的存在。丁寧に言葉を選びながらインタビューに答える姿からも誠実な人柄が伝わる。ポジションはPR。ひたむきに練習をこなすスクラム職人。

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大塚朱紗(あやさ) 選手
チームの司令塔、SO。広い視野とひらめき、正確で力強いキックでチームを引っ張る。空いたスペースがあれば走り込んで即座にトライにも挑む、マルチプレーヤー。父、2人の兄もSOという、SO一家に育つ。

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松田凜日(りんか) 選手
チーム随一のフィジカルとスピードを持つ、注目のフルバック(FB)。8月に行われたアイルランド戦ではワイルドなランで2トライを挙げ、観客を魅了。父はラグビー界の“レジェンド”松田努さん。

村上晃一さん ラグビージャーナリスト。『ラグビーマガジン』の編集長を経て、フリーのコラムニスト、編集者として活躍する。「J SPORTS」ではラグビー解説も担当。

写真提供:(公財)日本ラグビーフットボール協会

※『anan』2022年10月5日号より。写真・内田紘倫(The VOICE) 取材、文・新田草子

(by anan編集部)