動画のトレンドは? TikTokなどの「縦位置」×「数十秒の短い」動画がまだ熱い

2021.9.8
ホーム画面のアイコンをタップすれば、いつでもどこでも物語世界の中に入れて、知らない人の生活を覗くこともできる。数年前には考えられなかったサービス、作品に囲まれて、映像愛は増すばかり。さらなる感動にいざなう、映像カルチャーの最前線を紹介します!

3人の識者に聞く。映像界隈の最前線。

Entame

ここ数年、サービスの進化は凄まじく、映像の作り方や見方も大きく変化。日本の映像業界を追う3人の識者が、それぞれの視点で最新事情を分析!

劇場体験と、ながら視聴の二極化。視聴者を飽きさせない工夫が随所に。

――北村匡平さん(映画研究者/批評家、東京工業大学准教授)

視聴者を引き付ける映像作品には、今どんな手法が取り入れられているのか。映画研究者で、映像文化論などを専門とする北村匡平さんによると、

「被写体とカメラ、どちらも頻繁に“動いている”のが特徴です。例えば映画やドラマのアクションシーンで、被写体の周りをカメラが旋回するなど。また、編集面ではワンショットの長さが年々短くなり、素早くダイナミックなカット割りが顕著。こうした背景にあるのが、映像関連の技術革新。フィルムで撮影されていた20世紀から、今はデジタルの時代に。画像の処理や編集作業がパソコンで簡単にできるうえ、カメラは小型・軽量化。より躍動的な映像表現へと転換しています」

この動向は、見る側にもフィット。

「YouTubeやTikTokなどの短尺動画に慣れている世代の人たちが、3時間のゆったりした映画を観るかというと、なかなか厳しいと思います。そんな中、過剰に動きを取り入れた刺激的な映像作品が支持されるのは、必然なのではないでしょうか」

映像作品を見る環境については、スマホやタブレットといったデバイス類と並んで、一つの施設の中に複数の劇場を持つ「シネコン」の人気も維持。

「シネコンの盛り上がりの要因は、応援上映や爆音上映、映像と音響にこだわり抜いたIMAXシアターなど、体験型の上映スタイルの普及にあると思います。今はモノを買うよりも、その場でしか体験できない“コト消費”が重視される時代です。一方で、映像作品をデバイス類で視聴するのも日常化。ただ、映画やドラマを注視するには画面が小さく、何かしながらの“ながら見”や、移動中に再生するなど、画面から目を離しがちに。そんな中、とくに日本の映像作品は、説明セリフなど音声の情報を多用する傾向へ。画面をずっと見ていなくても、内容を把握できるのです。コンテンツや視聴環境などさまざまな選択肢がある今、いかに視聴者を飽きさせないかが焦点に」

「共感」と「驚き」を呼ぶ短尺動画で、予測不能な拡散を起こす。

――金丸雄一さん(N.D.Promotion CEO)

SNSなどネット上で誰もが気軽に動画のアップや視聴が可能なプラットフォームの数々。その最前線についてZ世代のマーケティングなどを行う「N.D.Promotion」代表取締役の金丸雄一さんに伺うと、「Instagram、Twitter、TikTok、YouTubeが変わらず強い」としながらも、今注目されているのは“縦型短尺動画”とのこと。

「縦位置で撮影された数十秒の短い動画で、代表格はTikTok。他社にも同様の機能が続々登場し、昨年はInstagramが『リール』を、今年7月にはYouTubeが『YouTube ショート』を追加しました。縦型動画が伸びている理由は、そもそもスマホが縦型で、縦に持っていたほうが片手で操作しやすいため。Z世代はこれらのプラットフォームを、『この動画はリールに上げるとバズりそう』など、感覚的に使い分けています」

流行の移り変わりが早いネット動画だけれど、話題となるには王道のパターンがあるという。

「例えばYouTubeでは、出かける準備をアップする『GRWM(Get Ready With Me)』など、人気のフォーマットにまずは乗ること。そこで反応がよかったら、次のコンテンツを考えるというパターンです。また、最近TikTokに『テキスト読み上げ』機能が付きましたが、機械的な声で動画につけた文字を読み上げるのがシュールで面白いと多用されています。もともと目の不自由な人に向けて追加された機能が、こうした柔軟な活用法で意外なバズりを生むことも」

とはいえ、そのベースとして共通しているのは、見た人が「共感」や「驚き」を得られること。

「例えば企業アカウントの中でもドミノ・ピザのTikTokは、斬新なアレンジレシピの提案や、ものすごくチーズが伸びるピザの動画で話題に。共感や驚きで思わず拡散したくなる。そんな動画が、人気の条件です」

配信サービスビジネスは混戦状態。劇場では、邦画が復権の模様。

――今 祥枝さん(映画・海外ドラマ著述業)

映画やドラマを観るツールとして、すっかり身近な存在となった定額動画配信サービス。NetflixやAmazonプライム・ビデオがその筆頭だが、映画・海外ドラマライターの今祥枝さん曰く、なかでも注目が集まっているプラットフォームがあるという。

「それは、Disney+です。『アベンジャーズ』シリーズをはじめ、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)作品が観られるのはもちろん、今年上半期には一連の映画にも繋がる『ワンダヴィジョン』などドラマ3作品を独占配信。さらにDisney+は、『スター・ウォーズ』シリーズやピクサー作品なども擁しています。現在、多くのプラットフォームで視聴ランキングのトップに入っているのは、『鬼滅の刃』など同一のタイトル。そんな中、Disney+のように、そこでしか観られない強力なIP(知的財産)を持っているのは、他との差別化においてかなりのアドバンテージ。これからの時代、配信サービスに最も必要なのは、このIPといえます」

ディズニーは21世紀フォクスを買収するなどしてIPを強化してきたが、独自路線に注力する動きは他も同様。

「今年5月には、Amazonが大手映画会社のMGMを買収すると発表。『007』シリーズなどの大量のヒット作がプライム会員特典向けに提供されることに。また、IPではまだ弱いところがあるものの、U‐NEXTは『セックス・アンド・ザ・シティ』など良質なドラマで知られるHBOを独占配信しているのが強みです」

配信サービスは群雄割拠の時代へ。一方、劇場では『花束みたいな恋をした』など、邦画のヒットが相次ぐ。

「坂元裕二脚本であったり、『新聞記者』や『パンケーキを毒見する』など社会派の作品で注目されている映画製作会社のスターサンズであったり、ある種のブランド力が集客に繋がっている様相も。IP然り、他にないオリジナリティが今求められているのでは」

きたむら・きょうへい 専門は映像文化論、メディア論、表象文化論。著書に『24フレームの映画学』(晃洋書房)、『美と破壊の女優 京マチ子』(筑摩書房)など。『文學界』にて「椎名林檎論」連載中。

かなまる・ゆういち 2012年、N.D.Promotionを設立。Z世代のインフルエンサーのマネジメントや、マーケティング、TikTokセミナー講師、コンテンツ開発など多角的に行う。

いま・さちえ 編集者、アメリカTV業界ウォッチャー。『日経エンタテインメント!』『小説すばる』『BAILA』『シネマトゥデイ』ほか各種媒体で連載多数。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP)。

※『anan』2021年9月15日号より。イラスト・高橋由季 取材、文・保手濱奈美

(by anan編集部)