魂の全てが込められた“自画像”としての風景画。佐伯祐三の画家人生を辿る展覧会

2023.1.24
東京ステーションギャラリーで開催される「佐伯祐三 ―自画像としての風景」展をご紹介します。

速く、熱く駆け抜けた夭折の画家が掴んだオリジナリティ。

約100年前のパリ。華やかな通りを外れた路地裏で、何の変哲もない建物の壁や、剥がれかけたポスターを一心に描く日本人画家がいた。

「佐伯祐三はパリの有名な場所をほとんど描いていません。それより裏町のさびれたようなところがモチーフとして面白かったのでしょう。そういう場所を求め、パリ中を歩き回ったのだと思います」

と、東京ステーションギャラリー館長の冨田章さん。

佐伯が描くパリの風景は、これまで多くの人を魅了してきた。しかし実は本格的な画家としての活動期間は5年に満たず、その間に一時帰国をはさんで2度渡仏し、パリに暮らした。本展ではあまり注目されることのなかった大阪、東京の一時帰国中に描いた風景作品と、パリ時代の作品を併せて公開する。画家人生の全てを俯瞰する試みだ。

厚く絵の具を塗り重ね、その上に速書きの線というスタイルは、日本から戻った第2のパリ時代に完成したとされる。ポスターの文字に見る、油絵の具で描いたとは思えないキレのよいカリグラフィーに書道を連想する人もいるかもしれない。

「こうした線描写が、重厚な画面に生き生きとした活気を与えています。一時帰国中は電信柱や電線、船の帆柱など、線のモチーフを繰り返し描いていますが、このときの探究が晩年のスタイルに働きかけたと考えられています」

パリに着いたばかりの頃、フォービスムの巨匠ヴラマンクに絵を見せたところ「アカデミック!」と一喝されたという有名なエピソードがある。同じ頃に描かれた自画像の顔の部分は消され、未完のままだ。その後は突き動かされるように、雨の中でさえ絵を描き続けた。

「佐伯はパリで自分の全てを注ぎ込んだ絵を描きました。一枚の絵を本当に苦しみながら描いているのが感じられて、見ていると切なくなるほどです。そしてそれが佐伯の絵の魅力なのだと思います」

一枚一枚に魂の全てを込めた。佐伯にとって風景画こそ「自画像」だったのかもしれない。

壁・文字・線のパリ。

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「晩年の絵の線の描写をぜひ見ていただきたい」。塀を覆うポスターを躍動的な文字が覆う。こうした線描を佐伯は非常に速いスピードで描いた。1日に何枚も絵を仕上げることもあったとか。
佐伯祐三《ガス灯と広告》1927年 東京国立近代美術館

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住んでいたアパートの近所にあった靴屋は、幾度も描いた愛着ある場所。「壁」も佐伯の重要なモチーフの一つだった。「重厚な石造りの壁を表現しようと試みた作品です」
佐伯祐三《コルドヌリ(靴屋)》1925年 石橋財団アーティゾン美術館

一時帰国:大阪と東京。

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自宅兼アトリエのあった東京・下落合の風景を描いた作品。電信柱と空を横切る電線など、風景の中の「線」の描き方を研究していた。大阪では港に停泊している帆船をよく描いた。
佐伯祐三《下落合風景》1926年頃 和歌山県立近代美術館

絶筆となった3作品も。

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亡くなる半年ほど前、郵便配達夫にモデルを頼んで描き上げた。そのほか絶筆の2作品も展示。「結核に侵されながら、絵が輝いているよう。絵の神様に描かされたような絵だと思います」
佐伯祐三《郵便配達夫》1928年 大阪中之島美術館

かきとられた自画像。

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「パリに行って間もなくヴラマンクに会い『アカデミック』と言われ、なんとか脱却しようと苦労しているときに描いたもの」。顔の部分はおそらくうまくいかずに消してそのままに。
佐伯祐三《立てる自画像》1924年 大阪中之島美術館

「佐伯祐三 ―自画像としての風景」 東京ステーションギャラリー 東京都千代田区丸の内1‐9‐1 JR東京駅 丸の内北口 改札前 1月21日(土)~4月2日(日)10時~18時(金曜は~20時。入館は閉館の30分前まで) 月曜(3/27は開館)休 一般1400円ほか TEL:03・3212・2485

※『anan』2023年1月25日号より。取材、文・松本あかね

(by anan編集部)