志村 昌美

映画『ビューティフル・デイ』リン・ラムジー監督にインタビュー!

2018.5.30
5月にモヤモヤとした日々を過ごしていたという人にとっては、そろそろ新たな刺激が欲しいと感じているはず。そこで、衝撃が走ること間違いなしの話題作をご紹介します。それは……。

鮮烈なインパクトを放つ『ビューティフル・デイ』!

【映画、ときどき私】 vol. 167

元軍人のジョーは、人身売買や性犯罪の組織に囚われている少女たちを救うスペシャリスト。数々の危険な仕事をこなしながら、私生活では年老いた母親と2人で穏やかな生活を送っていた。

そんなある日、ジョーのもとに新たに舞い込んできたのは、政治家の娘ニーナを売春組織から救出して欲しいというもの。いつものように少女を父親に引き渡せば終わるはずだったが、ジョーとニーナを待ち受けていたのは、予想だにしない出来事だった。2人の運命はどうなってしまうのか……。

この作品は、昨年のカンヌ国際映画祭で男優賞と脚本賞の2冠に輝き、数々の映画祭をザワつかせた注目作。そこで今回は、本作のさらなる魅力に迫るべく、こちらの方にお話を聞いてきました。それは……。

監督・脚本・製作を務めたリン・ラムジー監督!

2011年の『少年は残酷な弓を射る』でもセンセーションを巻き起こした監督ですが、6年経ってもその力強さは変わることなく、本作では新たな挑戦もしています。

今回は短編小説が原作となっていますが、どのようなところに魅力を感じて映画化したのですか?

監督 映画化するにあたっては、原作とは内容をかなり変えたところもあるのだけれど、一番惹かれたのはやっぱりキャラクター。なかでも、ジョーが「ミッドライフ・クライシス」といわれる中年の危機を感じているところよ。そこを掘り下げていけば、レベルの高いおもしろいものができるんじゃないかというふうに感じたの。

あとは、原作にはないけれど、主人公の顔が少しずつ明かされていくオープニングシーンがいいなと思って作ったわ。ホアキン・フェニックスを見ようと思って来た人たちにとっては、大きなインパクトを感じられるはずよ。

そのホアキン・フェニックスは、これまで見たことのないようなビジュアルで登場し、とにかく圧倒的な存在感。セリフが多くない役どころにも関わらず、言葉以上のものを感じさせる表情や背中には思わず誰もが釘づけになってしまうもの。

ホアキンの役への理解や肉体改造にはかなりこだわりを感じましたが、一緒に仕事をしてみて受けた印象は?

監督 まるで野生の動物を見ているみたいだったわ、もちろんいい意味で(笑)。それから、彼はいつも物事に対して問いかけていて、それは監督としてはうれしいところだったわ。今回は「脚本通りに撮らなくてもいいよね」と事前に2人で話していたからこそ、現場で嘘っぽいと思うことがあったら、どうすればリアルにできるのか、どうすればもっとおもしろい表現ができるのか、というのを話し合いながら撮影することができたの。物作りのソウルメイトを見つけたような感じだったわ。

あと、ほかの俳優はそういうことはしないんだけど、撮影監督が作品に入るのと同じ撮影開始7週間前から現場に入ってくれたの。そんな俳優はいないわよね(笑)。だから、スタッフの1人でもあったわ。

では、ホアキンが作り上げたジョーは、監督にとっても思い描いた通りのものでしたか?

監督 確かに、自分が脚本に書いたキャラクターが物理的に目の前で形になっていく様を見て、感動したわ。ただ、コレというイメージよりも、ジョーのルックスに関しては私のなかでもオープンにするようにしていたの。とはいえ、腹筋がバキバキに割れていて、弱い者を助けるピカピカの甲冑を身に着けたナイトみたいな描き方だけは絶対に嫌だった。むしろ、その真逆をいきたかったくらいだったのよ。

それもあって、ホアキンはどんどん熊みたいになってしまったけど……(笑)。でも、それは感覚的に正しいと思うものだったわ。ヒゲに関しては、ホアキンの次回作の都合で伸ばさざるを得なかったんだけど、そのおかげで誰にも気づかれずにゲリラ撮影できたから結果的にはよかったわね。

というのも、いまのニューヨークではすぐにやじ馬が集まってきちゃって撮影できないんだけど、今回はセキュリティなしでも撮影することができたわ。そのくらい別人みたいだったのよ。

今回は、暴力描写を直接的に見せないという手法も取り入れていましたが、そこに込めた意図を教えてください。

監督 まずはいままで撮られていないような形のアクションシーンにすることと、いかにワクワクしたものにできるか、というのを追い求めていたの。そのうえで、心理をどれだけ反映できるかということと、そぎ落として作っていくということを意識していたわ。

アクションシーンに関しては、すべてきちんとパズルのように決め込んで挑むようにしていたの。とはいえ、そこは脚本の段階からあったものもあれば、現場でひらめいたものもあったわね。とにかく、これまでみなさんが映画やテレビで何度も見たことのあるようなマンガチックなアクションではなくて、オリジナルな表現方法はないかとみんなで模索した結果だといえるわ。

あとは見せない暴力表現のほうが逆に変なインパクトがあると思って、それを意識したところもあるわね。だって、暴力シーンを見せなくても、そのあとを見れば何が起きたかというのは、わかるでしょ? 私にとっても、アクションは初めてだったから今回はチャレンジでもあった。だから、ホアキンと2人で学びながら、発見しながら作っていったという感じよ。

その言葉通り、必要以上の説明や暴力描写を排除することにより、観客は想像力を刺激され、さらに主人公たちが感じる精神的な痛みと肉体的な痛みをまるで自分のもののようにも感じてしまうはず。

人が感じる “痛み” というものを意識して演出しているところはありますか?

監督 私はリアルさというものを追求していくしかないと思っているんだけど、これまでのアクションや痛みを表現している作品ではSFXなどのエフェクトに頼っていたり、大掛かりな暴力シーンを多用したりしているわよね。

でも、この作品ではそれを逆にどこまで取り除いていけるかということを大切にしていたの。私自身も、自分に痛みが刺さる作品が好きなんだけど、自分が実現できているかは正直わからないわ。

そんな監督は役を理解するために、現場では役者と一緒に水風呂に入ってみたり、凶器であるハンマーを持ち上げたり、銃を手にしたりしていたという。

その珍しい演出方法にホアキンも驚いたそうですが、監督が映画作りで大切にしていることを教えてください。

監督 私は小さい頃から絵を描くときも、映画を観るときも、その世界のなかに没頭してしまって周りのことが見えなくなってしまうタイプ。以前、別の作品を撮ったときに、メイキング映像をあとで見てみたら、私がモニターのところで主人公がしているのと同じ動きをしていたことがあったの(笑)。でも、それを見るまで気がつかないくらい、自覚がないのよね。

とはいえ、それは「キャラクターの世界に飛び込みたい!」という衝動からきているんだと思うの。役者がカメラの前に立つときには、自分のもろい部分をさらけださないといけないし、暴かれるような心理状態でもあると思うから、私もそれをちゃんと理解したいという気持ちがあるのよ。

だから今回も、ホアキンにやって欲しいとお願いしたときに「これは全然意味ないよ」といわれたら、自分でやってみて、「確かに成立してないね」と感じることもしょっちゅうあったの。そうやってキャラクターのことを理解したり、共感したりしようすることは映画作家にとってはすごく重要なことだと私は思っているわ。

痛みと美しさに身もだえる!

監督の映画への情熱とホアキンの役者魂とがぶつかりあって生まれた傑作。研ぎ澄まされた美しい映像と音楽、そして心をえぐるようなストーリーには、ハンマーで殴られるかのような衝撃が残るはず。唯一無二の映画体験を求めているのなら必見です。

狂気が漂う予告編はこちら!

作品情報

『ビューティフル・デイ』
6月1日(金)新宿バルト 9 ほか全国ロードショー
配給:クロックワークス
Copyright ©Why Not Productions, Channel Four Television Corporation, and The British Film Institute 2017. All Rights Reserved. ©Alison Cohen Rosa / Why Not Productions
http://beautifulday-movie.com/



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