志村 昌美

余命数か月を愛の力で乗り越えた! 感動の実話『ブレス しあわせの呼吸』

2018.9.5
つらいことに直面すると、「どうして自分がこんな目に……」とネガティブに考えてしまいがちですが、その試練には必ず意味があるもの。そこで今回は、ある逆境を独自の方法で乗り越えた夫婦の物語をご紹介します。それは……。

奇跡の実話を映画化した『ブレス しあわせの呼吸』!

【映画、ときどき私】 vol. 185

美しく知的なダイアナは数々の求愛を断り、知り合ったばかりで財産もない “運命の人” ロビンと結婚することを決意する。その後、最高に幸せな日々を送っていたが、出張先のナイロビで突如ロビンが病に襲われてしまう。

ポリオウィルスに感染し、首から下が全身マヒとなってしまったロビンは、人工呼吸器なしでは息ができず、2分と生きられない体となる。一度は余命数か月を宣告されるものの、医師の反対を押し切って、ダイアナはある決断をすることに……。

本作は、実在のロビン・カヴェンディッシュとその妻ダイアナが、いかにして不可能を可能にしたのかという36年にわたる半生を描いた作品ですが、製作を手掛けたのは、『ブリジット・ジョーンズの日記』などを手がける名プロデューサーにして、彼らの息子であるジョナサン・カヴェンディッシュ(写真・右)。そこで、息子から見た両親の姿やこの作品に込めた思いを教えてもらいました。

苦悩を見せずに人生を謳歌することが大事

―本当に素晴らしいご両親だと思いますが、どんな困難にもあきらめることなく挑戦し続けたおふたりの生き方を間近でご覧になって、学んだことや影響を受けている部分を教えてください。

ジョナサン ふたりに育ててもらったことはとても光栄なことだと思います。つらそうなところを表面上は見せていなかったけれど、水面下ではものすごく苦しみがあったということは後になって気がつきました。

だから、両親から学んだのは、人は苦労したり苦悩したりするものだけれど、そういうのは見せずに、人生を楽しんで謳歌し、人間関係を大事にしていくということ。そして、それを周りに見せるべきであるということを両親から学ぶことができました。

―本作をつくるにあたっては、改めてお父さんのことを振り返ったと思いますが、ロビンさんとの思い出で一番忘れられない出来事を教えてください。

ジョナサン 父との思い出は数え切れないほどありますが、映画のなかで起るすべてのことは実際にあったことで、僕の記憶をひとつひとつ再現したものなんです。もちろん、情景描写がより映画的になっている部分はありますよ。

例えば、スペインの崖っぷちで人工呼吸器が故障して立ち往生してしまうシーン。地元の人たちが集まって、食事をくれたり、ギターを弾いてくれたりということは実際にあったけれど、実はバルセロナの街中にある交差点で起こったことなんです。

―とはいえ、とても素敵なシーンのひとつでしたが、当時は大変だったこともあったのではないですか?

ジョナサン あのとき僕は10歳だったのですが、母に「このポンプをずっと押し続けるのよ。居眠りしたらお父さんを殺すことになるからね!」と言われたのを覚えています。すごく大変で疲れたけど、楽しかったですね。父が地中海を見たことがないから見たいということでビーチに行ったんですが、僕がアルコールを初めて口にしたのはあのときでした(笑)。

―映画の最後には実際のご家族の様子も映し出されていますが、どのような経緯で入れたのでしょうか?

ジョナサン エンドクレジットで実際の父の姿が流れますが、これは叔父が撮ったものなんです。映画が完成したあたりでちょうど見つかったので、入れることにしました。海沿いで父を子どもが引っ張っている映像がありますが、あれは僕と僕の子どもと妻、それから母と毎年訪れるビーチで、家族にとって思い出深い場所なんです。

ひとりの男性を愛し続けた強さが生んだ奇跡

―これだけの境遇を乗り越えてきたお母さんを支えていたものは何だと思いますか?

ジョナサン 母の支えになったのは、何よりも父を愛していたということ。母は父にゾッコンだったので、最後まで添い遂げて、最後の最後まで愛し続けたというのが源だったと思います。だから、努力が必要というよりも、「愛しているから」ということですね。

ちなみに、映画の脚本を書いてくれたウィリアム・ニコルソンが母に「一度でもロビンと別れようと思ったことはあるのか?」という質問をしたとき、母は目を見張って「なんてことを聞くの!」というような顔をして「そんな考えは毛頭なかった」と答えたそうです。

あとは、友だちの支えも大きかったと思います。最初こそ父も「死にたい」などと言っていたわけですが、それを克服して退院してからは、楽しい人生を謳歌したと思います。最後はいよいよ苦しくなってきて父がある決断をすることになるのですが、母はそれに対して少し疑念はあったものの、最終的には納得し受け入れたようです。

―脚本を作り上げる過程で苦労した点はありましたか?

ジョナサン ウィリアムは、僕や母、それから周りの人たちの話を聞きながら脚本を書いてくれました。だから、この映画に登場するほとんどのダイアログは僕の記憶から来ているんです。たとえば、母が「ロビンを生かしているのは友だちのためじゃない」と言いますが、これも僕が記憶している母の言葉。ということで、脚本はかなり綿密なリサーチをしたうえで書かれています。

愛の力があれば何でもできることを感じて欲しい

―逃げることなくすべてに立ち向かう姿が描かれており、ダイアナさん自身が持つ芯の強さとロビンさんに対する愛の強さを感じることができました。

ジョナサン 当時は戦争もあって、物資の配給も限られていたような時代だったので、「この人と一緒になろう」と一度思ったら添い遂げるという感覚だったのかもしれません。ただ、この映画が訴えかけていることは、愛が成せる力。運よく相手と一緒になることができるのであれば、愛の力で何でもできるんだということだと思います。

あとは、ユーモアの感覚もとても大事で、あまり深刻にならずに軽やかに生きていくことが必要だということも訴えているので、そこはみなさんにも感じて欲しいです。

―逆境に見舞われている人たちにとっては勇気と感動をもらえる作品なので、日本の観客に向けて伝えたい思いがあれば、メッセージをお願いします!

ジョナサン 父と母はとてもいいパートナーシップを築き、そこから出てきた喜び、愛、お互いを思いやる心、そして周りを含めた人間関係をエンジョイすることができました。そういうふたりの人生はものすごく豊かなものであったと思います。

名を馳せて世に羽ばたいていくことが良いとされているのが現代ですが、そういう人たちに引けを取らないぐらい豊かな人生を歩んでいったふたりだと思うので、そんな両親を誇りに思う気持ちを伝えたいです。

それからもうひとつ、みなさんに感じ取って欲しいのは、そういうふうに生きた夫婦がいたんだなということに加えて、「ロビンにこれだけの人生を送ることができたなら、私には何ができるんだろう」と考えるきっかけにして欲しいということ。だから、日本のみなさんも泣くことになるとは思いますが、ぜひこの映画を楽しんで、堪能してもらいたいと思います!

笑顔と涙が止まらない!

どんな逆境でも、それを改善へと切り開く方法は必ずあるもの。落ち込んでばかりいて過ごす時間も、前向きにとらえて過ごす時間も同じなら、ロビンとダイアナのように笑顔に包まれて生きていきたいと感じるはず。夫婦、親子、友人との間にある愛こそが、どんなときも人生を輝かせてくれる “最良の薬” なのです。

勇気をくれる予告編はこちら!

作品情報

『ブレス しあわせの呼吸』
9月7日(金)角川シネマ有楽町他全国ロードショー
配給:KADOKAWA
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http://breath-movie.jp/