高倉 優子

かわいいイチゴ? 上品な桃? 女性4人の恋を描く『フルーツパーラーにはない果物』。 本棚ダイアリー♯2

2017.1.12
年間300冊以上の本を読むライターの高倉優子が、日々の出来事にからめ、心の本棚に並ぶおすすめの本を紹介する連載です。今回は、「これって、もしかして私のこと?」と思ってしまうリアルな連作短篇集を紹介します。いつだって女子は、隣にいるあの子のことがうらやましいもの……!? いまの自分に満足できないアラサ―女性たちの、不器用な恋愛と生き方に共感必至です!

「隣の芝は青い」ものだけど、やっぱり他人が気になる!

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高校時代、学校一、美人で優秀だったMちゃんから、こう言われたことがありました。

「優子ちゃんってかわいいし、みんなと仲よくできてうらやましいな」

は? いったい何を言っているの?
あまりにも思いがけない言葉に、私の頭はフリーズ状態……。

だって、Mちゃんのことを「あんなに美人だったら毎日が楽しいだろうな」と思っていたのは私のほうだし、難しい数学や化学の問題をスラスラ解いてしまう賢い彼女のことが、うらやましくて仕方なかったのも私だったから。

けれど、大人になった今だから、わかることがあります。

凡人であるがゆえ、話術を磨いて、人とコミュニケーションを取ろうとしていた私の「努力」の部分を、彼女はまぶしく見ていてくれたのかもしれないな、と。

あるいは、気高く近寄りがたい雰囲気を漂わせていた彼女にとって、誰にでも犬のようにじゃれつき、懐に飛び込んでいく私は、純粋に興味深い存在だったのかもしれません。

そしてそのとき実感したのです。
どんな人にとっても「隣の芝は青い」ものなのだ――と。

たったひとりに「一番好きだ!」と想われる幸せ

瀬那和章さんの連作短篇集『フルーツパーラーにはない果物』を読み終えたとき、この出来事を思い出して、懐かしさで胸がいっぱいになりました。

こちら、メーカーに勤務する同期4人のアラサ―女性が、お互いに憧れたり、うらやんだり、もがきながら「自分のよさ」や「居場所」を見つけていく連作短篇集です。

会社が休みになった創業記念日に、彼女たちがフルーツパーラーへ出かけるところで物語は幕を開けます。

流行に敏感で「これぞ女子」という甘い雰囲気を持つ、モテ女の真衣。
合コンでは幹事&盛り上げ役に徹する、ぽっちゃり体型のモリッチ。
美貌の持ち主ながら、これまで恋人を作ったことがない、お嬢様の玲奈。
親友同士の3人とは毛色が違う、天然理系女子の、桧野川(ひのかわ)。

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フルーツやスイーツを食べながら、スマホのアプリ「フルーツ占い」に興じる4人。名前と生年月日と3つの質問に答えるだけで、自分にぴったりの果物にたとえてくれるという、フルーツパーラーという空間に、おあつらえ向きのゲームです。

真衣は「かわいくて誰からも愛される」イチゴ、モリッチは「メインにはなれない果物」のレモン、桧野川は「分厚い皮を持つ、食べるのに苦労する(=変わり者)」のパイナップル、玲奈は「手をかけて育てられた高級品」の桃という結果に。

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それを受け、ひとりひとりが語り部となり、それぞれの果物をモチーフとした物語が展開していきます。

私が親近感を持った人物は、「パイナップル女子」の桧野川でした。

彼女は、ある出会いをきっかけに、自分を覆っていた外皮のようなものを脱ぎ去り、内側にある甘くておいしい実の存在(本当の自分)を認められるようになるのです。

たとえば100人の男性にアンケートを取ったら、彼女はきっと不人気でしょう。かわいい真衣や、美人の玲奈にはルックスで及ばないし、盛り上げ隊長のモリッチのような元気や明るさもない。

けれど恋愛において、大勢に愛されることは無意味だし、人気投票で1位になる必要なんてありません。
たったひとりでいい。

「パイナップルが一番好きだ!」と言ってくれる人がいたら最高だし、もし見つからなかったとしても、ありのままの自分を愛することができれば幸せな人生だと思うから。

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4人の恋を応援しながら、自分の恋愛観や人生観を見つめ直すことができる――。

そういう意味では、この小説も「フルーツ占い」のようにゲーム性があって、2倍楽しめる作品と言えるのかもしれません。

最後にもうひとつ、この作品を読む上での際の注意点を! 

読んでいる途中、あるいは読後、必ず果物が食べたくなります。冷蔵庫にストックがあるかどうか、チェックしてからページをめくってくださいね。

Information


『フルーツパーラーにはない果物』(文春文庫)¥788
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