志村 昌美

フランスの鬼才が開いた禁断の扉とは? 世界を揺るがした衝撃作を語る!

2017.5.10
誰もがうちに秘めているであろう「別人になりたい」という欲望。なかでも、「高級なドレスやアクセサリーを身に着けているセレブになれたら……」なんて思っている人も多いのでは? そこで、ファッショナブルでサスペンスフルな注目の映画をご紹介します。その作品とは……。

センセーションを巻き起こしている話題作『パーソナル・ショッパー』!

【映画、ときどき私】 vol. 91

忙しいセレブの代わりに服やアクセサリーを買い付ける “パーソナル・ショッパー” として働きながら、パリに暮らすモウリーン。持ち前のセンスと信頼度の高さで完璧に仕事をこなしていたが、最愛の双子の兄を亡くした悲しみから立ち直れない日々を送っていた。

そんなある日、携帯電話に奇妙なメッセージが突然届き始める

まるで自分を監視しているかのような内容に心をかき乱され、いつの間にか送り主の命令に従わざるを得なくなったモウリーンは、隠していた欲望を抑えられなくなってしまうのだった。そして、徐々に不可解な出来事が起きはじめ、ついに殺人事件へと発展することに。“禁断の扉” の先にモウリーンが見たものとは……?

次々と押し寄せる緊張の波に、飲み込まれそうになりながらも、驚きのラストまで一瞬たりとも目が離せないストーリー展開。気になるポイントもいろいろと散りばめられているので、今回はある方にお話をうかがいたいと思います。そこで……。

“フランスの鬼才” オリヴィエ・アサイヤス監督に直撃!

物議を醸しながらも、本作で2016年カンヌ国際映画祭の監督賞を受賞するなど、世界でも評価が高いアサイヤス監督ですが、この作品に込めた思いや見どころについて語ってもらいました。

日本ではあまりなじみがありませんが、主人公をパーソナル・ショッパーにした理由は?

監督 最初はスタイリストというのも思いついたんだけど、ファッション業界のなかでも、基本的であまり派手ではない仕事にしようという考えたときに、業界のなかにありながら切り離された仕事として、セレブのために買い物に行くアシスタント的な職業はどうだろうと思ったんだよ。

この映画で描きたかったのは、僕たちが生きている世界のリアリティと、自分たちのイマジネーションを繋ぐこと。そのために、モウリーンをファッション業界という物質主義的な世界に身を置いているにも関わらず、個人としてはものすごいイマジネーションを持った女性にしたかったというものあるね。

ちなみに、フランスでもパーソナル・ショッパーはそんなに知られている仕事というわけではないけれども、セレブやアナウンサーのように見られている職業でつねに新しい洋服が必要な人というのは、けっこう雇っているんですよ。

では、スリラーの手法を取り入れたのはなぜですか?

監督 実は僕はスリラーとは思っていなくて、ひとりの女性が大人になる映画だと思っているんだよ。というのも、モウリーンは兄という大切な存在を亡くし、人生の大きな瞬間を迎えているんだけど、「自分自身を再生しなければいけない」とか「アイデンティティーとは何なのか」というのをふたたび見極めなければいけない状況にいて、その道のりを描いているからね。

じゃあ、どうして幽霊やサスペンス的な要素を持ち込んだかというと、彼女の苦しみや不安、恐れといった暴力的な感情というものを表現するためであり、それを観客に体感させるためでもあるんだ。つまり、モウリーンが感じていることを観客が表面的ではなく、グッと肉体的に感じられるものであって欲しかったから。そういう意味ではジャンルを使った手法というのは、とても役に立ったと思うよ。例えて言うなら、画家が色彩のひとつとしてそういう要素を使ったという感じかな。

今回、モウリーンを演じているのは、「トワイライト」シリーズで知られている人気女優のクリステン・スチュワート。アサイヤス監督作には2作続けての出演ですが、それらがきっかけとなり、いまやアイドル女優から実力派女優といわれるまでに。本作でも地味な役どころにも関わらず、瞬間瞬間でさすがの存在感を見せているのが印象的。

監督から見たクリステンの魅力とは?

監督 まず、僕のおかげで実力派になったということでは全然なくて、もともと彼女の持っていた才能があったからだよ。ただ、彼女が自分の才能に向き合ったとき、幸運にも僕はその場にいたから、そう言われているんじゃないかなとは思うよ。それに、アメリカでは、出すことができなかった部分というのをちょうど見せたいという気持ちになっていたときでもあったんだろうね。

というのも、アメリカ映画というのは、とてもコントロールがされている映画作りをしているから、役者もあんまりアドリブや自然発生的なことができなくて、自分らしくいられる余地があまりないんだよ。でも、ヨーロッパの映画はそもそも役者が持っている資質というのをうまくストーリーのなかに巻き込んでいくところがあるから、「好きなようにやっていいよ」と言ってくれる監督が彼女には必要だったのかもしれないね。そういう意味ではアメリカ人だけど、とてもヨーロッパ的な感性を持った女優だと僕は思っているよ。

彼女は、すごく複雑で、豊かで、独特な才能があるんだけど、映画を2本一緒に作っても、どこまで行けるのかという境界線を僕はまだ見極められていないので、もしかしたらそれを知るために3本目を一緒に作らないといけないのかもね(笑)。

そんなクリステンの美しさをさらに引き立てるのは、『シャネル』をはじめ、『カルティエ』や『クリスチャン・ルブタン』といったラグジュアリーブランドの数々であり、女子にとっては見逃せないところ。

ファッションを描くのに、監督がこだわったところは?

監督 パリに住んでいると、ファッション業界というのは身近な存在だけど、観客にとってもリアリティがあって、信ぴょう性を持って観てもらえるような背景や舞台にしているつもりだよ。

ただ今回は、どちらかというと物質主義的なファッション業界の姿や主人公がフラストレーションを感じているように描いてしまっているけれど、僕のお母さんがファッションデザイナーであったこともあって、ファッション業界とは近い環境のなかで育ってきているからすごく思い入れもあるんだ。

インタビューを終えてみて……。

とても穏やかな雰囲気のアサイヤス監督が、どのようにしてこんなストーリーを生み出したのかと思うと、頭の中をもっと覗いてみたいような気持ちにもなりました。そして、前作『アクトレス ~女たちの舞台~』に引き続き、クリステンの魅力を限界まで引き出せるのは、やっぱりアサイヤス監督だと思っているところです。ファンのひとりとしては、3度目のタッグを期待したいところですし、今回その可能性が聞けただけでも大きな収穫でした!

最初から最後まで引き込まれっぱなし!

ミステリーでもあり、サスペンスでもあり、スリラーでもありといったように、さまざまな側面を見せる本作。まるで線路の見えないジェットコースターにでも乗っているかのような先の読めない展開の連続に、思わず息をするのを忘れてしまいそうなほど。

そんなドキドキ感と女心をくすぐるような豪華なファッションアイテムへのワクワク感に、あなたの秘めた欲望もかき乱されるかも!?  

思わずゾクゾクする予告編はこちら!

作品情報

『パーソナル・ショッパー』
5月12日(金)、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
©2016 CG Cinema – VORTEX SUTRA – DETAILFILM – SIRENA FILM – ARTE France CINEMA – ARTE Deutschland / WDR

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