志村 昌美

女優ジャンヌ・バリバールが語る元夫マチュー・アマルリック監督の魅力

2018.11.15
今年、日本では「平成の歌姫」の引退によって、ひとつの時代が終わりを告げましたが、 どの国にも時代を象徴する伝説的な歌姫の存在はいるもの。今回ご紹介する映画は、1950年代から「シャンソン界の女王」と呼ばれていたフランスの国民的歌手バルバラの人生を描いた『バルバラ~セーヌの黒いバラ~』です。そこで、本作の裏側について、こちらの方に語っていただきました。それは……。

フランス人女優ジャンヌ・バリバール!

【映画、ときどき私】 vol. 198

女優としても歌手としても活躍しているジャンヌさんですが、本作ではかつて実生活でパートナーだったフランスを代表する俳優であるマチュー・アマルリック監督の作品に主演し、バルバラを見事に演じています。そんななか、映画にかける思いや人生観などについてお話いただきました。

―このバルバラという役は、これまでも映画や芝居で何度もオファーがあったそうですが、そららはすべて断ってきたとおうかがいしました。そのなかで、今回出演を決めた理由はなぜですか?

ジャンヌ それは監督ね。なぜなら、私にとって一番大切なのは、テーマではなくて監督であり、その監督が題材をどうとらえているかという視点がとても重要なことだからよ。

マチュー・アマルリック監督とは強い信頼関係がある

―では、ジャンヌさんからご覧になったマチュー・アマルリック監督とは、どんな方ですか?

ジャンヌ 彼はいつもすごく深みがあるとてもオリジナルな作品を作る監督。だからこそ、今回も単なる伝記映画ではなくて、独創的なものを作ってくれるだろうという確信が私のなかにあったの。特に今回の主人公はバルバラということもあり、なおさらそういうものを作る必要があったのよ。

というのも、バルバラという人は私たちフランス人にとってもミステリアスな人だったから、伝記映画といいつつも、ミステリアスな部分を残すということが私にとっても彼にとっても大事なことだったと言えるわね。

―それだけ有名な人物を演じることに対しては、どのようなお気持ちでしたか?

ジャンヌ とても興奮していたわ。なぜなら、バルバラというシンガーは、私が若い頃にとても重要な存在だったのよ。彼女の歌には、人間としての生き方だけでなく、「自由であるためにはどうすればいいか?」ということが透けて見えるところがあったの。

誰にとっても自由に生きることはとても大変なことではあるけれど、とりわけ女性にとっては難しいこと。でも、バルバラのおかげで、たとえ完璧な自由というものがなくても、できるだけ自由であろうという気持ちになったのよ。

映画よりも人生のほうが難しいことでいっぱい

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―今回、劇中ではブリジットという女優の役を演じながら、ブリジットが演じるバルバラを表現するという難しい役どころだったと思います。女優としても、チャレンジだったことはありましたか?

ジャンヌ 何も難しいことはなかったわね。だって、実際の人生のほうがよっぽど難題が多いのよ(笑)。それもあって、映画のなかでは難しさを感じることはなかったし、むしろ映画を作れることに幸せを感じていたわ。

―映画の現場では、大変なことがあっても、幸せな気持ちのほうがより強いということですか?

ジャンヌ もちろんそうよ。だから、ダメ出しばっかりするような監督とは一緒に仕事したくないの(笑)。

―だからこそ、最初にお話されていたように、作品選びでは監督が一番大切だということにつながっているのですね。

ジャンヌ そういうことになるわね。ちなみに、私にとってマチューとの仕事が合う理由は、極めて楽だから。というのも、私たちは若いときに映画作りを一緒に始めて、映画を作ることの楽しさを一緒に発見したという経緯があるからなの。

だから、私たちはすごく強い信頼関係で結ばれているのよ。今回の映画では、歌手としてのバルバラを生きると同時に、私たちが若かったころに彼女の曲を聞きながら自分がどんな青春を送ってきたのかというのをもう一度思い出し、追体験するような部分もあったわね。

歌手と女優で違うこととは?

―撮影を進めるなかで、これまでご自身が抱いていたバルバラ像に変化はありましたか? 

ジャンヌ 確かに違いはあったわね。発見したのは、彼女のなかにはすごくやさしい部分とすごく不愛想な部分が共存しているということ。

あと、今回はピアノでの弾き語りをしないといけなかったので、過去の映像もたくさん見たんだけれど、そのときに気がついたのは、彼女はいつもどこを見ているのかわからないような視線をしているということなの。そこで私は、「彼女はきっとその視線を自分の内側に向けているのではないか」思うようになったわ。

―では、実際に演じてみてどう感じましたか?

ジャンヌ だから、私も同じようにしてみようと思って演技していたら、ちょうどカメラのレンズに映る自分を見つけたんだけど、そのときに「もしかしたらバルバラは、内側だけでなく、歌いながら自分の姿を見ていたのかも」と感じるようになったの。それはとても興味深いことだったわね。

なぜなら、女優は演じている自分の姿を見ながら演技なんてできないもの。そこが女優と歌手との違いだとも感じたわ。

変わっている部分も含めて自分を受け入れている

―そのなかで、同じ表現者として影響を受けたり、共感したりしたことはありましたか?

ジャンヌ もちろんあったわ。たとえば、私もちょっと変わっている部分があるんだけど、彼女と同様にそれを受け入れているということね(笑)。

あと、共感するところで言えば、自分だけの世界で生きるのではなく、人道的な関わり合いを持って世界を見ているというところかしら。彼女は不幸な状況にいる人たちを何とか助けられないかという思いで歌っていたと思うんだけど、私も同じ思いで女優をやっているのよ。

オンとオフはボタンを押すように切り替える

―今回はバルバラという役にどんどんと引き込まれていくブリジットという女優の姿も演じていましたが、ご自身も役に引きずられるようなことはありますか?

ジャンヌ 私はそういうことはないわね。でも、私とブリジットが全然違うタイプの女優だからこそ、この作品ではおもしろいものが撮れたと思うわ。

―ということは、ご自身は仕事とプライベートのオンオフは、うまく切り替えられるタイプということですか?

ジャンヌ そうね。私はまるでボタンを押すようにすぐに変えられるの(笑)。特に何か意識してはいないけど、自然にできるのよね。

―だからこそ、楽しみながらお仕事を続けられるのだと思いますが、モチベーションになっているものは何ですか?

ジャンヌ  ほかのことは何もできないし、演技をしている瞬間が私は大好きなの。もちろん、それ以外のことでうんざりすることもあるけれど、舞台やカメラの前で演技するのがとにかく楽しいのよ。

女性の人生はやることがいっぱいだから疲れすぎてはダメ

―ジャンヌさんのように自分らしく人生を謳歌しているフランス人女性に憧れている日本の女性は多いので、ぜひananweb読者にもメッセージをお願いします!

ジャンヌ 人と同じでいなきゃいけないという思いに疲れるときもあると思うけど、女性として人生でやることはいっぱいあるわよね? だから、疲れすぎないで、ちゃんとエネルギーを残しておかなきゃダメなのよ!

あと、この映画から感じて欲しいのは、バルバラのように自分の恐怖や不安というものをうまく使えるようになって欲しいということね。彼女は父親からの虐待やユダヤ人であったことでつらい時期も経験しているし、下積みも長かったから強い不安をつねに抱いていた女性。でも、だからこそそれをうまく使って、周りの人たちに感動するものを差し出したことができたんだと思うから、そういう部分をぜひ見てもらいたいわね。

インタビューを終えてみて……。

チャーミングな笑顔とクールな大人の女性の表情とのギャップに、思わずドキッとさせられてしまうほど魅力的なジャンヌさん。独特な空気感とオーラには、終始引き込まれっぱなしになりました。バルバラ同様に芯の強さを持つジャンヌさんのような女性には、ただただ憧れるばかりです。

女の生き方は、十人十色!

歌手のバルバラと、それを演じる女優のブリジットという2人の女性たちの人生が交錯して描かれている本作。波乱に満ちた彼女たちとともに、まるで一緒に旅をしているかのような感覚を味わえるだけでなく、魂の歌声にも心を揺さぶられるはずです。

ストーリー

パリにある撮影スタジオでは、フランスを代表するシャンソン歌手であるバルバラを描く映画の撮影準備が行われていた。主演を務めるブリジットは、役作りのために映画のセットさながらの部屋に暮らすこととなる。しかし、いつしかブリジットはバルバラにとりつかれたようになってしまうのだった。世界を熱狂させた“孤高の歌手”バルバラの本当の姿とは?

美しさに引き込まれる予告編はこちら!

作品情報

『バルバラ ~セーヌの黒いバラ~』
11月16日(金)、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開
配給:ブロードメディア・スタジオ
© 2017 - WAITING FOR CINEMA - GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA – ALICELEO
http://barbara-movie.com/