志村 昌美

尾上松也「いろいろな方から勘違いされることもあった」払拭したいイメージに言及

2022.10.6
この秋も、幅広いジャンルの話題作が国内外からそろっていますが、そんななかアメリカで大ヒットした注目のアニメ『バッドガイズ』がいよいよ日本にも上陸。そこで、日本語吹替版で主演を務めたこちらの方にお話をうかがってきました。

尾上松也さん

【映画、ときどき私】 vol. 523

劇中で松也さんが演じているのは、華麗なテクニックで財宝を奪う怪盗集団<バッドガイズ>のカリスマ的リーダーであるウルフ。クールに見えて、ほめられるとお茶目な一面が顔を出してしまう愛すべき主人公です。今回は、本作に共感した点や払拭したい自身のイメージ、そしていいリーダーになるために心がけていることなどについて、語っていただきました。

―今回のご自身の役どころについては、どのような印象を受けましたか? 

松也さん ウルフはとてもまっすぐで、物事や仲間に対しても熱い思いがある、愛情深いキャラクターだと感じました。バッドガイズのリーダーとしていままで悪いことばかりしてきましたが、自分のなかにある善の心に目覚めていくところが見どころだと思います。

―以前、声優を務めた際、声優と歌舞伎では演じ方に似ているところもあると感じたそうですが、今回はいかがでしたか?

松也さん 歌舞伎というよりは、舞台全般の技術や表現方法が僕のなかでは活かされているような気がしています。とにかく、あまり小さくなりすぎないように、というのは意識しました。

ほめられたり、感謝されたりすると気持ちがいい

―ちなみに、松也さんとウルフとの共通点は、ほめられて伸びるタイプだとか。

松也さん そうですね、やはりほめられたほうがうれしいですから。いいことをして感謝されたり、喜ばれたりすると、気持ちがいいものですよね。おそらくそれば僕だけではなくて、みなさんも同じだと思いますが、本作ではそういう感情をウルフが体現してくれています。

―最近ほめられてうれしかったことはありましたか?

松也さん いやー、最近は全然ほめられてないので、ほめられたいですね! チヤホヤしてほしいです(笑)。

―とはいえ、やはりお客さんからの反応は喜びなのでは?

松也さん もちろんそうですね。特に、舞台ですとその場でダイレクトに伝わってきますので、舞台がやみつきになるのは、そういうところだと思います。最近は映像のお仕事が続いていましたが、根本は舞台人ですので、そういった刺激はつねに求めています。

ですが、何をしても万人に受けるというのは難しいことですので、批判する方もいれば、絶賛する方もいるのが当たり前の世界。いい声だけをキャッチしていればいいですけど、よくない声を聞くとやっぱり落ち込むことはありますね。

いままでに、いろいろな方から勘違いされることもあった

―そんなときは、どのように対処しているのか教えてください。

松也さん と言いつつも、実はあまりほめられるのもよくないかなと思っている部分もあるんです。特に、舞台のときに「あのセリフがよかったよね」と言われるとうれしいですけど、その翌日に同じシーンを演じるときに意識してしまいますから。「ここでがんばらなきゃ!」みたいな。そうするとうまく表現ができなかったりするので、いまは「ほめていただきたいけど、千秋楽が終わってから聞かせてほしい」という感じです(笑)。

―わかる気がします。また、バッドガイズたちといえば、本当はそうではないのに、外見や環境だけで判断されてしまう部分もありますが、ご自身にもそういった経験はありますか?

松也さん バッドガイズのみんなは周りから決めつけられて生きてきたけれど、蓋を開けてみたら実は真逆の精神を持っていたというのがこの作品の肝ですが、僕にも似たようなことはありました。僕の職業は歌舞伎が主軸ですので、特殊といえば特殊な環境です。歌舞伎界自体が勘違いされてしまうところがありますが、僕もいままでにいろいろな方から勘違いされてきた経験がありました。

リーダーとしての心がけは、みんなを楽しませること

―たとえば、どんなことがあったのでしょうか。

松也さん コンビニに行った話をすると、「コンビニ行くの!?」と言われたことも。「行くに決まってるでしょ!」と(笑)。スーパーで買い物もしますし、もちろん洗濯も自分でしているのですが、不思議なほどに高尚なイメージが付いてしまっているのは苦手ですね。

―おそらくそれは、松也さんが20歳で一門を率いる立場となったことも大きかったのではないかなと。主演として周りを引っ張っていく役割を果たすことも多いと思いますが、リーダーとして意識していることはありますか?

松也さん 僕の場合、舞台でもドラマでも自分が中心としてお仕事をさせていただくときに心がけているのは、作品の内容がシリアスでもコメディでも全員が楽しくお仕事をできること。それを一番にしています。そのうえで全員がチームであるという感覚を持っていただけたらいいなと考えています。

いまではそう言えるようになりましたが、昔はリーダーというのは先頭を切って走っていかなければいけないと思っていたんです。ですが、ただ突っ走っているだけですと周りもついていくのに必死になってしまい、混乱が起きてしまうことを学びました。それを経験してからは、最初だけ先に走って、あとはゆっくりと後ろに下がっていくイメージです(笑)。

自分ひとりだったら、とっくに辞めていた

―なるほど。それは、過去の経験があったからこそ得た教訓ですね。

松也さん そうですね、実際に何度も失敗したことがありました。特に、初めは自分のやりたいことを貫いて突っ走っていけばみんなついてくると思っていましたし、「それが男だ!」みたいなときもありました(笑)。

ですが、その考えですと「報告」「連絡」「相談」のほうれんそうが成り立たないですし、何をしたいのかが伝わらず、結局は独りよがりになってしまう。もちろん、それでうまく引っ張っていける方もいるとは思いますが、僕はそういうタイプはないということに気がつきました。

―それこそ、昔は何度も辞めたいと思ったこともあったそうですが、それを続けてこられたのは何が支えになっていたのでしょうか。

松也さん 僕は自分のなかに「こうありたい」とか「こういうことがしたい」といった目標がたくさんありましたので、まずはそれを達成したいという思いがありました。あとは、歌舞伎の自主公演で客席があまり埋まっていなかった時期でも、少なからず見に来てくださるお客さまがいて、それを支えてくれるスタッフがいましたので、それは大きかったかなと。

心が折れそうになっていたときは、周りの方たちのためにいろいろなことを自分に課すようにしていました。もし自分ひとりのことでしたら、とっくに終わっていた気がします。あとは、自分が成功したときのことをつねに思い描いて、ポジティブなほうに何とか自分を持っていく。毎回その繰り返しでしたね。

つらいときは、好きなことをして周りに甘えてもいい

―そんななかで、大切なのは息抜きすること。松也さんといえば、キャンドルやスニーカーをはじめ、いろんな趣味をお持ちですが、いまハマっていることはありますか?

松也さん 最近は、ボードゲームと古着です。ボードゲームは前から興味がありましたので、いくつかは持っていましたが、どんどん買い集めるようになったのは、ボードゲームに詳しい宮下草薙の宮下くんと仲良くなってから。定期的にボードゲーム会も開いているほどです。

古着も前から気になっていましたので、あるときロケで古着屋さんに行ったのですが、そこですっかりハマってしまいまして、収録の翌日にもプライベートで同じお店に行きました。もともとハマりやすい性格というか、満足するまで揃えたくなってしまう性分なんです。終わりが見えるものならいいのですが、ボードゲームも古着もキャンドルもスニーカーも、永遠に出続けますから……。きりがないので、逆に終えてほしいくらいです(笑)。

―それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いいたします。

松也さん 仕事や恋愛に悩んでいる方がいらしたら、明るい気分になれる映画ですので、ぜひ『バッドガイズ』を観ていただきたいです。そして、辛いときは自分が好きなことするのはもちろん、周りに甘えてしまってもいいのではないでしょうか。

人にとってよくないことは心が暗くなることと思っておりますので、落ち込んでいると感じるときは、休むなり、多少の暴飲暴食するなり、翌日のお仕事のことなんて考えないで楽しみに行ったりしてください。ときには、そういう割り切り方をしてもいいと僕は思っています。

インタビューを終えてみて……。

遊び心があるやりとりで、終始楽しませてくださった松也さん。笑いが溢れるなかでも、歌舞伎の話になると真剣な眼差しを見せ、歌舞伎への愛の深さを感じました。本作では、ウルフの魅力を最大限に引き出している松也さんにしか出せない声色を存分に堪能してください。

エキサイティングな怪盗ドリームチームに心も躍る!

息もつかせない予想外の展開と華麗なワルっぷりで、観客のハートまで盗んでしまうバッドガイズたち。アニメーションならではの映像を楽しめるだけではなく、仲間の大切さから「善と悪とは何か?」まで、見どころ満載の必見作です。


写真・北尾渉(尾上松也) 取材、文・志村昌美
ヘアメイク・岡田泰宜(PATIONN) スタイリスト・椎名宣光
ジャケット¥49,800、パンツ¥30,800(ともにルームサーティーン)、シューズ¥49,500(ファクトタム/シアン PR 03-6662-5525)、その他スタイリスト私物

ストーリー

「ワルをやるなら思いきり」を合言葉に、数々の盗みを成功させてきた怪盗集団<バッドガイズ>。メンバーは、“天才的スリ”にしてカリスマ的リーダーのウルフをはじめ、“金庫破り”のスネーク、“変装の達人”シャーク、“肉体派”ピラニア、そして“天才ハッカーの毒舌ガール”タランチュラ。お尋ね者の5人組が次に狙うのは、伝説のお宝《黄金のイルカ》だった。

ところが、あと一歩のところで大失敗し、逮捕されてしまう。そして、彼らは街の名士マーマレード教授の更生プログラムを受けることになる。ノったフリしてウラをかき、史上最大の犯罪をもくろんでいた彼らだったが、背後ではさらなる巨悪が密かに動き始めていた……。

華麗でクールな予告編はこちら!

作品情報

『バッドガイズ』
10月7日(金)TOHOシネマズ 日比谷他 全国ロードショー
配給:東宝東和、ギャガ 
https://gaga.ne.jp/badguys/
️© 2021 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED.