志村 昌美

小関裕太「人との関わりでは弱音を吐くことも大事」他人を頼れるようになった理由

2023.3.16
大ヒットシリーズ『シュレック』から誕生した人気キャラクターの1人と言えば、長ぐつをはいたネコのプス。主人公を務める最新作『長ぐつをはいたネコと9つの命』では、キレキレでモフモフなかわいらしさをふたたびスクリーンで堪能することができます。そこで、シリーズ初参加となるこちらの方にお話をうかがってきました。

小関裕太さん

【映画、ときどき私】 vol. 559

日本語吹替版キャストに抜擢され、本格声優初挑戦となった小関さん。本作では、9つあった命が残り1つになって怖くなったプスと一緒に、どんな願いも叶う「願い星」を探す旅へと出るネコに変装したイヌのワンコの声を担当しています。そこで、声優の現場で驚いたことや役作りの苦労、そして恐怖を感じる瞬間などについて語っていただきました。

―以前から声優には興味と憧れがあったそうですが、何かきっかけはありましたか?

小関さん 声優さんと一緒にお仕事をさせていただくことがあり、そのなかで刺激を受けていたというのが一番大きいかもしれません。特に、同じように役作りやお芝居をしているのに、どうしてこんなにも違うんだろうかと感じるので。そこに興味があったので、声優をすることで新しい自分を知ってみたいと思うようになりました。

―今回、準備段階でどなたかに相談したこともあったのでしょうか。

小関さん 出演が決まってからブースに入るまであまり時間がなかったので、具体的な話はできませんでしたが、舞台『キングダム』で共演した声優の梶裕貴さんと石川由依さんにはアニメーションで声優に初挑戦することはお話しました。

あとは、小さい頃からお付き合いのある戸田恵子さん。僕にとってはお姉さんのようなお母さんのような存在ですが、この作品を楽しみにしてくれています。今回のような日本語吹き替えとアンパンマンのようにゼロから作る場合とでは仕事の仕方も違うようなので、それぞれの大変さについても教えていただきました。まだ初心者ですが、この作品のおかげで声優の方と共通言語が生まれたように感じています。

声優というジャンルで、違う自分を発見したい

―声優の現場で、驚いたことなどはありましたか?

小関さん 録音しているときに、レコーディング現場にいる方々のテンポが早すぎてついていけないことはありました。たとえば、映像の現場だったら、「もう一度やり直したいです」と言ったとき、「わかりました。メイク入ります! 衣装入ります! 各所よろしいですか? それでは行きます、よーい!」くらい時間があるんです。 

でも、レコーディングでは「もう1回撮り直してもいいですか?」と聞くと、「わかりました。はい、どうぞ」くらい早くて(笑)。台本のページを戻すこともできなければ、心の準備も整っていないということがありました。

―そういう勝手の違いもあるんですね。ただ、声優として得た経験は、俳優業にも影響を与えることになるのでは?

小関さん ワンコの声が完成したとき、「自分ってこういう声も持っているのか」と驚きがあったので、それは今後も生きてくると思っています。あと、僕は普段から山本耕史さんのミュージカルをよく拝見しているのですが、プス役の山本さんが歌っているシーンがめちゃくちゃカッコよかったので、僕も歌う声優にチャレンジしてみたいです。これを皮切りに、声優というジャンルにどんどん挑戦して、違う自分を発見したいなと考えています。

―役作りでこだわったところや難しかったのはどのようなところですか?

小関さん ワンコはセラピードッグになることを目指しているだけあって、発するひと言ひと言がけっこう刺さるものが多い。それを理解するために、ワンコの育った環境だけでなく、親や友達との関係はどうだったのかということまで想像しました。あと、大変だったのはワンちゃんの息遣い。小さいワンちゃんの呼吸は早いので、もう少しで過呼吸になりそうでした(笑)。

ワンちゃんにしていたのは、恋の相談

―小関さんは実家でワンちゃんを2匹飼われていたこともあるそうなので、初の声優作品がワンちゃん役というのも運命的だったのでは?

小関さん 人間ではない役で大変でしたけど、ネコちゃんよりはワンちゃんでよかったですね。というのも、小さいころからワンちゃんらしさみたいなものは何かわかっていましたし、作らなくても自分から出る部分はあったので。昔はワンちゃんと一緒にひなたぼっこして庭に寝転んだり、人生相談したりしていたので、ワンちゃんは僕の心のよりどころになっていたと思います。

―ちなみに、どのようなことを相談していたのですか?

小関さん 恋の相談ですね。「年上の女性になかなか話しかけられないんだけどどうしたらいい?」とか。といっても、小学生のときですが(笑)。あとは、学校の先生の理不尽さについても話したりしていました。

―もし、いまワンコのようなセラピードッグがいたら相談したいことは?

小関さん 最近はあまり悩みがないですね。というか、「悩んでいてもしょうがないから、とりあえず前に進まなきゃ!」という日々なので、悩んでいる時間がないです(笑)。ただ、子どもの頃から悩んでいる時間がもったいないという意識はあったほうだと思います。それでも悔んだり悩んだりしてましたが、その切り替えが年々短くなってきて、いまではないに等しくなってきました。

―そういうときの気分転換にしていることがあれば、教えてください。

小関さん それは、いいスピーカーを使うことです。いま音楽番組の司会をしているのですが、そのお仕事が決まったときに、ここにお金をかけてもいいのではないかと思って、自分が好きなアーティストさんが実際に使っているというスピーカーを買いました。

最初はご本人と同じ感覚を味わえてうれしいだけでしたが、音楽や映画の時間がより良質なものになり、それがだんだんリラックス方法や癒しになっていったのかなと。いいものを使うと自分のテンションも上がって、アイデアもより膨らんでいくので、仕事の効率も上がったように感じています。

刺さった言葉は、「君ならできる」

―なるほど。先ほど、ワンコのセリフにはいい言葉もあるっておっしゃってましたが、小関さん自身に刺さった言葉はありましたか?

小関さん シンプルな言葉ですけど、「君ならできる」です。突っぱねられているときに、そういう言葉が出てくるなんて「なんて純粋でまっすぐなんだろう」と感動しました。

―ワンコはつらいことがあってもあまり表に出さない強いところがありますが、ご自身も顔に出さないタイプ?

小関さん 最近はがんばって頼るようになってきましたけど、もともとはあまり頼れないほうですね。

―意識的に頼るようになったのは、そちらのほうがいいと経験で学んだからでしょうか。

小関さん そうですね。以前は、「つらいとか苦しいと言わないほうがかっこいい」とか「がんばっていれば人に伝わるだろう」と思っていました。でも、やっぱり人のことは人のことなので、あまり伝わらないんだなと。それなら「これは嫌だ」と言ったほうが人間関係のためにはいいと考えるようになりました。自分のためでもありますが、他人と関わりを持つなかで弱音を吐くことも大事なんだと感じています。

―ほかにも実はワンコと同じように毒舌な一面があるとか、似ているところがあれば、教えてください。

小関さん 僕は言葉が丁寧なほうなので、毒舌になろうとしていた時期はありました。たとえば、もともとの一人称は「僕」なのに「俺」にしてみたり、「めっちゃ」とか「ぶっちゃけ」みたいに抵抗感があった現代語を使ってみたり(笑)。

その理由としては、役を演じるときに言い慣れてないと呂律が回らないですし、聞き手の方に違和感を与えてしまうと思ったからです。日常で使うことでカラダに馴染ませたいと考えて始めたことでしたが、いまではもともとの自分らしさに加えて、台本から得る他人らしさみたいなものを自分のなかで両立できるようになりました。

生きていれば、楽しいこともつらいことも多い

―役者魂ですね。本作には、どんな願いも叶えてくれる「願い星」が登場しますが、もし小関さんが1つだけ願いを叶えられるとしたら?

小関さん カラダをぐにゃんぐにゃんにしたいです(笑)。というのも、舞台をするなかで筋肉について考えることが多いんですが、柔軟性が高いとできるジャンルの幅が広がるので、苦労せずに股関節周りをパッと柔らかくしたいですね。

―また、タイトルにある9つの命についてですが、小関さんもプスのように9つ命があったらいいなと思いますか? 

小関さん 僕は、1つで十分かな。生きていれば楽しいこともたくさんありますが、大変なことも多いですから。1つの命が100年だとして、900年も生きたらそれだけ苦労もするので、ちょっと嫌かもしれないです(笑)。

―確かに、それなら1つの命を濃く生きるほうがいいかもしれないですね。とはいえ、もし9つ命があったらしてみたいことは?

小関さん やっぱり危険なことはいろいろしてみたいですね。以前、ニューヨークに行ったときに、キレイな景色が見れるところにたまたま行ったんですが、帰国してからその話をしたら「そこは命の危険があるエリアだよ。よく生きてたね」と言われたんです。何も知らなかったとはいえ、けっこう怖い経験をしていたんだなと。でも僕は旅行が好きなので、命があればそういうこともできて、見れる景色も広がるのかなとは思います。

ただ、スカイダイビングのように、高いところから落ちる系はなるべく避けたいですね(笑)。それ以外だったら、何でも飛び込んでいきたいです。

みなさんにパワーを渡せるような人になりたい

―本作では、命を失う恐怖についても描かれていますが、小関さんが恐怖を感じるのはどんなときですか?

小関さん 舞台上に出るときは、怖いですね。たとえば、「もしいま自分がここでセリフを止めたらどうなるんだろう」とか「歌えなくなったらどうしよう」みたいなことを考えてしまうことがあって、演じながら自分が分離してしまうような感覚になることがあるからです。

そういうことを考えすぎて怖くなってしまった時期もありましたが、チャレンジを続けるなかで少しずつ自信を積み重ねてきたので、いまはだいぶ克服してきたかなと。ただ、これは役者だけでなく、どんな業界で働く方でも、失敗が怖くて職場に行きたくないみたいなことは感じていることだと思います。

―それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。

小関さん 僕は何かにもがいてがんばっていたり、自分の殻を破ろうとしていたりする人の姿にいつも心を動かされて勇気づけられています。実際、僕の周りにはそういう方がたくさんいて、いつも活力をもらっているのですが、それが自分にとってはがんばる起爆剤です。

僕自身もみなさんにパワーをお渡しできるようになりたいと思っていますが、逆に悩みを乗り越えたみなさんの姿に僕が力をもらえたりもするので、これからも一緒にがんばりましょう!

インタビューを終えてみて……。

この連載にご登場いただくのは、1年振り4回目となる小関さん。相変わらずお茶目でしたが、お会いするたびに凛々しさが増しているのは、さまざまな仕事をするなかでいろんな悩みを乗り越え、経験と自信を積み重ねているからだということが今回の取材でわかりました。声優としての才能も開花させている本作をきっかけに、今後さらなる活躍が楽しみです。

“ネコ旋風”がふたたび巻き起こる!

映像の美しさと没入感、そして圧倒的な迫力にドキドキとワクワクが止まらない本作。ユーモアを織り交ぜつつ命の重みや愛情についても描いており、誰もがその大切さについて考えさせられるはず。レジェンドネコたちと一緒に、大冒険に繰り出してみては?


写真・幸喜ひかり(小関裕太) 取材、文・志村昌美
スタイリスト・吉本知嗣 ヘアメイク・エミー(スリーゲート)
ジャケット¥268,400、シャツ¥80,300、パンツ¥125,400(全て マルニ/マルニ ジャパン クライアントサービス 0800-080-4502)

ストーリー

数々の冒険を経験した長ぐつをはいたネコのプスは、今日もスリルを楽しんでいた。ところが、9つあった命は、気がつけばラスト1つに。急に怖くなったプスは、レジェンドの看板を下ろして家ネコになることにした。

そんなとき、どんな願い事も叶う「願い星」の存在を聞いて再奮起。命のストックを求める旅へと出る途中、ネコに変装したイヌ・ワンコと気まずい元カノ・キティと出会うのだった。お尋ね者のプスを狙う賞金稼ぎや「願い星」の噂を聞きつけた手強い奴らも追いかけてくるなか、プスを待ち受ける運命とは……。

パワーアップした予告編はこちら!

作品情報

『長ぐつをはいたネコと9つの命』
3月17日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
配給:東宝東和、ギャガ
https://gaga.ne.jp/nagagutsuneko/
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