志村 昌美

ミニスカートで伝説を生んだマリー・クワント…明かされる日本との深い関係【映画】

2022.11.25
いまや女性のファッションに欠かせないアイテムのひとつといえば、ミニスカート。とはいえ、1950年代頃まではタブー視されていた歴史を知らない人も多いのでは? そこで、ミニスカートを“武器”に世界を変えた伝説のデザイナーの真実に迫った注目ドキュメンタリーをご紹介します。

『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』

【映画、ときどき私】 vol. 535

第二次世界大戦後、戦争の爪痕と階級差別が残るロンドン。マリー・クワントは、オートクチュールによるフランスのファッションに窮屈さを感じていた。1955年には、自分が着たい服を作ったロンドン初のブティック「BAZAAR」をオープンさせて絶大な人気を獲得する。

そして、60年代初めに動きやすさと少女らしさを兼ね備えたミニスカートで世界中な大ブームを生み出す。マリーは夫と友人とともに、ビジネスの新機軸を打ち出し、ファッションから下着、メイク、インテリアなど、幅広い分野で革命を起こしていた。そんな彼女の知られざる素顔とは……。

1960年代に世界中の若者を熱狂させたロンドン発のカルチャームーブメント「スウィンギング・ロンドン」で、ビートルズやツイッギー、ローリング・ストーンズなどと一緒に伝説の中心にいたマリー・クワント。今回は、その魅力について、こちらの方にお話をうかがってきました。

サディ・フロスト監督

映画監督としてだけでなく、プロデューサー、俳優、ファッション・デザイナー、作家としても活躍しているフロスト監督。マリーから受けている影響や日本との関係、そして働く女性として大切にしていることなどについて、語っていただきました。

―まずは、この企画で監督をしたいと思ったのはなぜですか?

監督 もともと私は映画だけでなくファッション業界にも携わっていましたし、1960年代は子どもの頃に見てきた時代でもあったので、よく理解できるテーマであったのは大きかったと思います。そしてもうひとつは、このまま何もしなければマリー・クワントが若い人たちから忘れ去られてしまうかもしれないという危機感があったから。彼女は女性のためにたくさん尽くしてきた人物でもあるので、そのレガシーを残したいと考えました。

―監督自身も、マリー・クワントから影響を受けたことはありましたか?

監督 当時、私の母がマリー・クワントのような格好をしていたこともあり、私にもそういった服装をさせていたことはありました。ただ、私にとってファッションは自己表現でもあったので、15歳くらいの頃にはパンクの影響を受けて中性的な格好をしていたことも。16歳のときには2か月ほど日本に滞在していたこともあったので、そのときは日本のファッションに刺激を受けていたと思います。

―本作では、マリー・クワントと日本には非常に深い関係があることも描いていますが、彼女のファッションはなぜ日本にハマったのでしょうか。

監督 マリー・クワントの服は力強さがあって、メイクとの相性もよかったので、そういうところがよかったのかもしれませんね。あとは、やっぱり彼女のルックスやボブのヘアスタイル、そして楽しいだけではなくて地に足が付いている感じが日本には響くものがあったのではないかなと。そのいっぽうで、色の使い方などは、日本の文化からヨーロッパが影響を受けていた部分もあったと思います。

触発されたのは、つねに進化し続ける姿

―ちなみに、監督は日本でどういった活動をされていましたか?

監督 所属していたエージェントから、モデルとして日本での仕事のオファーをいただきました。当時の私はセクシーよりキュート系で、中性的なところがあったのですが、そこが日本の方々と共鳴するだろうと感じてもらえたのかもしれません。

私はイギリスでも飲料水や化粧品の広告に出演したり、俳優業を始めたりしていましたが、日本でもいろんなテレビコマーシャルに出させていただきました。あとは、京都や富士山で行われたキャンペーンに出演したことも。ほかにもいろんな場所を旅することができたので、本当にエキサイティングな時間でしたし、若くして世界を見ることができたいい機会となりました。

―日本に対しての印象についても、教えてください。

監督 まだ10代だったので、やはり文化の違いには圧倒されることもありましたね。そのほかに感じたのは、非常に男性中心の社会であるということ。もちろんファッション業界に女性はいましたが、ビジネスの場面においては男性のほうが重要とされているように見えました。でも、全体的にはいい思い出ばかりなので、また遊びに行けるのを楽しみにしています。

―劇中ではマリー・クワントのさまざまな名言も知ることができますが、監督のなかで印象に残っている言葉や同じアーティストとして刺激を受けた部分といえば?

監督 いろいろありますが、「Be yourself. Free yourself.」というのは、自分らしくいることと、自分自身を解放させる大切さを教えてくれる言葉だと思いました。あとは、「洋服というのは暖を取るためのものではなくて、表現の手段である」という言葉も時代を超えて響くものだと感じています。

そのほかに触発されたのは、決してギブアップすることなくつねに進化している彼女の姿。クリエイティブであると同時に遊び心やユーモアがあり、フェミニズムも大事にしていて非常に共感できました。知れば知るほど好きになってしまうのが、彼女の魅力だと思います。

大事なのは、自分を好きなように表現すること

―彼女の仕事に対する考え方や交渉術というのは、いまの働く女性たちにとっても見習うべきところが多いようにも感じました。

監督 そうですね。マリー・クワントは息が詰まるような生き方を強いられてきた1950年代の女性たちにズボンを履かせ、厳しい状況に立ち向かうための変化を起こした人物。それまでは男性と女性の間に主従関係のようなものがありましたが、そこを覆すきっかけのひとつとなったのが彼女です。この映画では、いかにして変わっていったのかを知ることができるので、いろんな気づきも得られると思います。

―では、彼女のように新しい道を切り拓いていくために必要なものとは何だとお考えですか?

監督 一番大事なのは、やはり自分を好きなように表現することではないでしょうか。どこかに自分を合わせなければいけないとか、他人が決めた自分にならなければいけないとか、そういったことに縛られることなく自分自身を愛し、そして自分らしさをしっかりと持つことが大切だと思います。

私自身も仕事をするうえで重きを置いているのは、自分に正直であること。ときには人を喜ばせようと思ってした善意が相手の機嫌を損ねるようなこともあるかもしれません。でも、人生においては、自分自身の気持ちに素直であることが基本的には大事だと考えています。

―とはいえ、日本は他人の目を気にしすぎる文化があり、ファッションでも同様の傾向がありますが、殻を破るためのアドバイスがあればお願いします。

監督 おそらく自分が思っているほど失うものは何もないので、まずはやってみることですね。という私も、ファッションに関しては現状に満足しがちですが、友人であるモデルのケイト・モスやデザイナーのステラ・マッカートニーは、外出すると決めたらヒールを履き、しっかりとドレスアップするので、私もときにはそういうことをする楽しみを覚えました。そんなふうに、普段はしない格好をしてみるのもいいことですよ。

あとは、他人から貼られたレッテルを裏切ってみること。周りの人たちは「あなたはこういう人だ」みたいに言うかもしれませんが、何かに挑戦して変わらないとあっという間に10年、20年、30年と過ぎてしまいますから。自分で自分を覆すようなことをあえてするというのは必要だと思います。私自身も、新しいことをするときは怖いですし、いっぱいいっぱいになることもありますが、チャレンジをしなければいつまでも同じまま。つねに自分を変えるきっかけを探すようにしています。

フェミニンでセクシーなエネルギーを感じてほしい

―実際、監督業だけでなく、ジャンルを超えた活躍をされていますが、仕事のバランスで意識をしていることはありますか?

監督 私はすごく飽きっぽい性格なので、いろんな仕事をするほうが向いているんですよ。あとは、シングルマザーとして4人の子どもを育ててきたこともあり、つねに騒がしい状況にいることに慣れているので、私の場合は忙しいほうがバランスを取れているのかなと。

朝は4時か5時くらいから起きて機械のように働いていますが、意識しているのはシンプルであること。現実社会に向き合うと同時に、自然のなかにいる時間を大切にしているので、ヨガや瞑想で健康を保つように心がけています。監督業以外の仕事もいくつか抱えているので忙しいですが、チャンスがあれば積極的にやっていきたいですし、それによって得られる相乗効果も感じているところです。

―それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いします。

監督 この作品は構成が少し複雑なところもありますが、まずは楽しんでもらいたいですし、フェミニンでセクシーなところや放たれるエネルギーを感じていただきたいと思っています。「ドキュメンタリーはこうあるべき」みたいなルールもありますが、それよりも私はビジュアルの美しさとクリエイティブな部分にこだわりました。そのあたりをぜひ見ていただけたらうれしいです。

自分を解放して生きる喜びを知る!

ファッションの歴史をたどるだけでなく、成功の裏側を垣間見ることで働く女性としての生き方も学ぶことができる本作。マリー・クワントの精神を体現しているミニスカートを履き、大胆で自由で自分らしい人生を歩き出してみては?


取材、文・志村昌美

革命の瞬間に触れられる予告編はこちら!

作品情報

『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』
11月26日(土)、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー!
配給:アット エンタテインメント
https://www.quantmoviejp.com/
️©2021 MQD FILM LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.️Courtesy Terence Pepper Collection