猫を不吉な存在から人気者に変えた! 伝説の猫画家をカンバーバッチが熱演【映画】
『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』
【映画、ときどき私】 vol. 536
イギリスの上流階級に生まれたルイス・ウェインは、父を亡くした一家を支えるためにイラストレーターとして活動していた。そんななか、妹の家庭教師としてやってきたエミリーと恋におち、大反対する周囲の声を押し切って結婚する。ところが、しばらくしてエミリーは末期ガンを宣告されてしまう。
ある日、庭に迷い込んだ子ネコにピーターと名付けたルイスは、エミリーのためにネコの絵を描き始める。深い絆で結ばれた“3人”は、残された日々を慈しむように大切に過ごしてゆく。エミリーがこの世を去ると、ルイスはピーターを心の友としてネコの絵を猛然と描き続け、大成功を収める。次第に精神的に不安定となっていくルイスだったが、「どんなに悲しくても描き続けて」というエミリーの言葉の本当の意味を知ることに……。
イギリスの人気俳優ベネディクト・カンバーバッチの主演最新作としても、注目を集めている本作。今回は、こちらの方にお話をうかがってきました。
ウィル・シャープ監督
イギリス人の父と日本人の母のもとに生まれ、8歳まで日本で育った経験を持つシャープ監督。現在は、テレビシリーズや映画の監督・脚本で才能を発揮するだけでなく、Netflixオリジナルシリーズ『Giri / Haji』では俳優としても高く評価されています。そこで、ベネディクト・カンバーバッチとのエピソードやネコの魅力、そして日本から影響を受けていることなどについて語っていただきました。
―まずは、本作の監督をされた経緯からお聞かせください。
監督 もともとはベネディクトの製作会社からお話をいただいて監督をすることになりましたが、決め手になったのは、ルイス・ウェインという男の一生が勇気に溢れていて、インスピレーションを与えてくれるものだと感じたから。そして、そんな彼の物語を綴りたいという気持ちになったからです。あとは、ベネディクトをはじめとする才能のある方々と仕事ができるというのも大きかったと思います。
―実際、ベネディクトさんと一緒に仕事をしてみて、いかがでしたか?
監督 本作では、ルイスの若い頃から高齢になるまでの長い年月を描いているので、まずはそれをこなせる役者でなければいけないというのがありました。そういう意味でも優れた技術を持つベネディクトはまさに適役だったと思います。彼はドラマとユーモアのバランスをうまく取ることができるだけでなく、抱えているトラウマの部分をしっかりと表現できるので、一緒に仕事ができて楽しかったです。
ベネディクトは、兄であり、親としての先輩でもある
―演出面において、監督が意識されたことはありましたか?
監督 動き方などに関しては、撮影の最初の頃にベネディクトと2人でよく話し合いをしました。なぜなら、ルイスはちょっと変わったところのあるユニークなキャラクターで、社会におけるアウトサイダーでもあるので、それを動きで表現したいと思ったからです。
しかも、彼には無邪気で純真なところもあるので、そういった部分をどのようにして出せるのかが重要でした。ベネディクトは一人でもしっかりと表現できていましたが、妻役のクレア・フォイと一緒に演じることで、お互いにそういう部分をさらに引き出し合っていたので、それもすごくよかったです。
―日本にはベネディクトさんのファンも多いので、ぜひ監督が知っている素顔を教えてください。
監督 一緒にいて思ったのは、すごくユーモアがある人だということ。でも、これは別に隠されている部分ではなく、ファンのみなさんならすでにご存じですよね(笑)。本作では、主演だけでなくプロデューサーも兼ねていたので、そういう立場から僕を導いてくれることもありました。
そして、ちょうど僕の第一子が生まれる頃だったので、子育てに関するアドバイスもたくさんしてくれたので、僕にとっては兄のような存在であり、親としての先輩でもあります。彼は自分の思いを100%込めることができる人なので、俳優としても感服するようなことばかりでした。
ネコの魅力は、ありのままの自分でいるところ
―また、もう一人の主役といえば、劇中に数多く登場するネコたち。今回はCGを一切使わずにリアルなネコの姿を映し出していますが、撮影は大変だったのではないでしょうか。
監督 まずこの作品でCGを使わずに表現したいと思った理由は、CGを使ってネコを描いてしまうと、ファンタジーっぽい雰囲気が出てしまうと考えたからです。それよりも、僕はこの物語をヒューマンドラマとして描きたかったので、そういう判断に至りました。
ただ、みなさんもご存じのようにネコというのは自分の考えがある生き物ですから、ネコを撮影するときに意識していたのは、その場にいる全員が“キャットモード”になること。まずはネコをリスペクトし、急に動いたり大きな声を出したりしないように心がけました。
とても静かな現場だったので、不思議な空気感に包まれてまるで禅のような雰囲気でしたね(笑)。言うことを聞いてくれなくて大変だったこともありましたが、ネコらしい瞬間が撮れた映像に関してはエンドロールでも使っているので、ぜひそのあたりも見ていただきたいです。
―ネコ好きは必見ですね。いっぽうで19世紀末頃はネコが不吉な存在として恐れられていたのは驚きでしたが、監督はネコのどのようなところが好きですか?
監督 ルイスはネコがいつか人間と同じように言葉を話すと本気で信じていてましたが、僕もネコを2匹飼っているので、そこまでではないものの、彼がどう思っていたのかを理解することはできます。実際、僕はネコに向かってけっこう長い会話をすることがよくあり、答えてくれている感じがするので(笑)。あと、僕が好きなのは、彼らが誰に謝ることなく、ありのままの自分でいるところです。
日本のお笑いから影響を受けている
―ネコに対する世の中のイメージを一気に変えることができたのも、そういったネコの魅力をルイスが見事に捉えて描いたからですよね。
監督 ルイスがネコに魅了された理由のひとつとして考えられるのは、自分自身の置かれている立場と重なるものがあったからのようにも感じました。当時、世間ではネコが誤解され、ネコのありがたみについて誰も認識していませんでしたが、その様子が自分のように思えたから、ルイスはネコたちの気持ちが理解できたのかもしれません。
―なるほど。では、監督ご自身についてもお伺いしますが、8歳まで日本にいらっしゃったとか。いまでも日本から影響を受けていると感じることはありますか?
監督 大人になってから好きになったのは是枝裕和監督の作品ですが、子どもの頃は日本のお笑いをよく見ていました。なかでも好きだったのは、とんねるずやダウンタウン、志村けんのバカ殿様、ウッチャンナンチャン。イギリスに移ったときには、彼らと同じようなコメディアンがイギリスにもいないか探したほどです(笑)。なので、日本のお笑いから影響を受けている部分はあると思います。
また、僕はハーフなので、日本にいると外国人のようで、イギリスにいると日本人のような感覚を味わってきました。ただ、そういう経験をしているからこそ、物語を描くうえでアウトサイダーの視点を持てるのだと思いますし、社会においてアウトサイダーなキャラクターに惹かれるのかもしれません。
自分にとって、日本は童心に帰れる特別な場所
―ドラマ『Giri / Haji』では、日本の俳優と共演もされましたが、今後日本でも仕事してみたいというお気持ちは?
監督 はい、ぜひやりたいです! 以前、野田秀樹さんの英語劇『表に出ろいっ!English version”One Green Bottle”』で英語翻案に関わっていたこともありますが、もっと日本のいろいろな方々と仕事をしたいと思っています。というのも、日本のみなさんはとてもプロフェッショナルで、仕事に対して労を惜しまず、寛大な心の持ち主であるところに感銘を受けたからです。
『Giri / Haji』では平岳大さんや窪塚洋介さんのような素晴らしい日本の俳優たちと楽しい時間を共有することもできましたし、同世代の日本人と仕事をするのは初めてだったのでそれだけでも興味深かったです。演技面においても、欧米とは何かが違う手法が日本の俳優さんたちにはあるので、そういった部分も含めてもっといろいろと掘り下げていけたらいいなと。日本が好きなのはもちろんですが、僕にとって日本というのは童心に帰るような特別な場所でもあるので、日本で仕事ができたらいいですね。
―楽しみにしています。本作ではルイスとエミリーが繰り広げるラブストーリーも見どころだと思うので、ananweb読者に注目してほしいポイントなどがあればメッセージをお願いします。
監督 彼らは少しだけ変わったキャラクターではありますが、お互いを見つけたことでありのままの自分でいることができましたし、自分のもろさもさらけ出せるような関係も築くことができました。エミリーを失ったあとのルイスは、悲しみに満ちた生涯を送りますが、その悲しみこそが彼にとっては愛のカタチでもあります。葛藤や痛みもあるものの、ぜひ希望のある物語として感じていただきたいです。
すべての物語は愛することから始まった
伝説のネコ画家ルイス・ウェインがいかにして誕生したのか、その奇跡を目の当たりにする本作。運命の出会いを果たす妻エミリー、そしてネコたちとの間に生まれる深くて優しい愛に心が温かくなるのを感じるはずです。
取材、文・志村昌美
美しさに満ちた予告編はこちら!
作品情報
『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』
12月1日(木)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
https://louis-wain.jp/
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