志村 昌美

1週間で撮れるのはたった12秒分…大人気アニメ『ひつじのショーン』の制作裏話【映画】

2022.12.15
いよいよ本格的なクリスマスシーズンに突入し、当日まで待ちきれないという人も多いのでは? そこで、大人気のキャラクターと一緒に、クリスマス気分をひと足先に堪能できる話題作をご紹介します。

『ひつじのショーン スペシャル クリスマスがやってきた!』

【映画、ときどき私】 vol. 544

クリスマスイブを迎えたモッシーボトム牧場。仲間たちとクリスマスの準備をしていたショーンは、大きな靴下を手に入れるため、牧場主の家に忍び込んで大暴れしていた。そんななか、サンタを追っていたティミーがクリスマス・マーケットで迷子になってしまう。

ショーンたちは、ティミーを探しに町へと出かけるが、ティミーが隠れていたギフトボックスが地元のセレブである牧場主のベンの車に乗せられ、行方がわからなくなる。はたして、ショーンたちは消えたティミーを無事に助け出すことができるのか……。

テレビシリーズの放送開始以来、世界中で愛されている『ひつじのショーン』も今年でついに15周年。記念すべき年に期間限定で公開されるのは、約3年振りとなる新作映画と過去のクリスマス・セレクション3編です。そこで、こちらの方に見どころについてお話をうかがってきました。

スティーブ・コックス監督

本作で、英国アカデミー賞BAFTA「Chilldren & Young People Awards」の監督賞にノミネートされるなど、高く評価されているコックス監督。今回は、クレイ・アニメーションの舞台裏や制作時のこだわり、そして日本の好きなアニメなどについて語っていただきました。

―まずは、劇場版の最新作で監督を務めることになったいきさつと、決まったときのお気持ちから教えてください。

監督 僕はテレビシリーズの『ひつじのショーン』にも関わっているのですが、シリーズ6が終わったときに、プロデューサーから本作の監督として声をかけていただきました。スペシャル版の監督というだけでもうれしかったですが、題材がクリスマスと聞いてますますワクワクしたのを覚えています。

―ananwebでは、前作『映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!』のウィル・ベチャー監督にも取材をしていますが、毎晩ひつじの夢を見るほど大変だったとお話されていたので、監督も苦労が絶えなかったのではないかなと。

監督 そうですね。ウィルは僕の友人でもありますし、その作品には僕自身もアニメーターとして参加していたので、彼の大変さはよく知っています。なので、完成までの4年間は彼の頭のなかがひつじだらけだったというのもわかりますよ。僕の場合は2年間でしたが、同じように朝から晩までずっとひつじのことばかり考えていましたから(笑)。

制作の過程で細かい部分について考えたり、「こうしたらもっとおもしろくなるんじゃないかな」と撮影中に修正したり、つねにそういう作業の連続。今回は30分きっかりという時間制限があるなかで、いろんなアイディアやジョークを詰め込まなければいけなかったのがとにかく大変でした。とはいえ、すべての案を収めることはできないので、どうしても削らないといけない部分はありましたが、それでも自分たちのなかでベストなものだけを最終的に残して作れたと思っています。

ひつじたちにどう表現させるかに頭を悩ませている

―はっきりとしたセリフがないのに、誰にでもおもしろさがしっかりと伝わるのが『ひつじのショーン』のすごいところです。それらのユーモアを表現するために、どのような工夫をされていますか?

監督 これはとてもいい質問ですね。というのも、この作品を作るうえでそれこそがもっとも大きな課題であり、一番難しい点だからです。まずアイディアを思い浮かべたら、そのおもしろさを伝えられる表情やカラダの動きとは何か、そしてどんなふうにひつじたちに表現させるのがいいのかについて深く考えます。

おもしろいジョークやドラマチックな感情表現をセリフなしでいかに伝えるか、ということに対して簡単な解決策はありません。だからこそ、僕たちはいつも頭を悩ませているのです。本作も初めは大変でしたが、それでも結果的にはおもしろいものができたと思っています。

―前作では1日に撮影できるのは約15秒分だったとうかがっていますが、今回はどのくらいの制作時間をかけて作られているのでしょうか。

監督 1日でどのくらい撮れるかについては、クオリティにもよるので、テレビシリーズに比べると映画のほうが作業に時間がかかることが多いです。今回は約15人のアニメーターと一緒に作業を行ったので、チーム全体で考えると前作と同じくらいで、1日でだいたい15秒分くらいだったかなと思います。ちなみに、アニメーター単位で考えると、1週間で撮れる量というのは1人あたりわずか12秒ほどなんですよ。

劇中の隠しネタにも注目して見てほしい

―予想はしていましたが、それほどまでに時間がかかっているとは驚きです。そのなかでも、特に苦労したシーンはどこですか?

監督 大変だったのは、雪のなかでのチェイスシーン。スキーやそりに乗って追いかけていくところは、非常に大がかりでした。なかでも、セットを組み立てるのが一苦労。少し滑らせては毎回セットを組み直す、という連続だったので、最初から最後まで時間がかかりました。

あとは、クリスマス・マーケットのシーンも、農場と比べるとセットのサイズ感がかなり大きかったですし、キャラクターがたくさんいるのでとにかく大変。奥にいるキャラクターを動かすだけでも、セットの上を歩いていかないといけなくらい大規模でした。しかも、コロナ禍ということもあり、現場には2人しか入れなかったり、マスクや手袋をして作業したりという制限もあったので、作業がなかなか進まず遅れるということもありました。

―このシリーズは、毎回細部にまでいろんなこだわりが見られますが、本作で注目してほしいポイントがあれば教えてください。

監督 今回、僕が入れた唯一の隠しネタは、『ウォレスとグルミット チーズ・ホリデー』という初期の作品に象徴的なものとして出てくるオレンジ色のロケットを登場させているところ。ぜひ、そこは注意して見ていただきたいです。

また、さまざまなクリスマスの名作も参考に取り入れようかと考えましたが、パロディになってしまうのは避けたいなと。そこで、具体的に何かを引用するのではなく、『ホーム・アローン』や『エルフ 〜サンタの国からやってきた〜』をはじめとするクリスマスをテーマにした作品を感じさせるような演出というのを意識しました。

こだわったのは、クリスマスならではの魔法の瞬間

―ちなみに、ご自身のクリスマスの思い出などを入れているところもあるのでしょうか。

監督 具体的に反映したものはないですが、クリスマスらしい雰囲気という意味では影響しているところもあるかもしれません。今回、事前にプロデューサーに伝えていたのは、いつものドタバタコメディだけではなく、ほんわかするようなハートウォーミングさとクリスマスならではの魔法の瞬間を描くような作品にしたいということ。実際、この作品ではその通りにできたと思っています。

―いつも大変な作業に取り組まれていると思いますが、創作活動のモチベーションを支えているものとは?

監督 どんなアーティストでも「最高のものを作りたい!」という執念みたいなものがあると思うので、どんなに大変なことがあってもその気持ちはつねにあります。また、最近ではテレビや映画で素晴らしい作品が数多く出ているので、そういったところからたくさん刺激を受けることも。ここ数年のなかでは『スパイダーマン:スパイダーバース』が画期的で、見たこともないような新鮮さがある作品だと感じました。

日本のアニメはキャラクターの描き方が素晴らしい

―日本についてもおうかがいしますが、日本に関するエピソードがあればお聞かせください。

監督 僕は『ピングー』のプロジェクトにも携わっていたので、2004年に大阪で行われた『ピングー』の大きな展覧会の際に、日本を訪れました。そのときに、京都と東京にも行きましたが、イギリスとはまったく違うのでカルチャーショックを受けたことも覚えています。本当に、どれも素晴らしい経験となりました。

なかでも日本の好きなところは、すべてがグラフィックで表現されているところ。これは『ピングー』にも『ひつじのショーン』にも言えることですが、イラストやキャラクターをうまく自分たちの文化に取り入れているところがいいなと感じました。

―もし、日本のアニメで好きな作品やアニメーターがいればお聞かせください。

監督 宮崎駿監督をはじめとするスタジオジブリの作品はもちろん好きですが、最近だと日本で制作している『スター・ウォーズ: ビジョンズ』を観たばかりです。そのほかに日本のアニメというと、僕が子どもの頃は英語吹替版がアメリカ経由でイギリスに入ってきていて、よく観ていたのは1972年に制作された『科学忍者隊ガッチャマン』。キャラクターの描き方が素晴らしくて、本当に大好きでした。

―それでは最後に、『ひつじのショーン』のファンに向けてメッセージをお願いします。

今回、クリスマスをテーマにした本作を日本の方々にも観ていただけるということで、とてもうれしい気持ちでいっぱいです。集まった家族たちから醸し出される温かさは、しっかり出せたと思っているので、温かい気持ちになっていただけたらと思います。ぜひ、みなさんもクリスマスの季節を楽しんでください。

みんなで一緒に、メェ~リークリスマス!

ハプニングの連続にドキドキしながらも、ショーンたちのかわいさに誰もが思わず笑顔になってしまう本作。楽しいのはもちろん、家族や仲間の絆にも心がほっこりするのを感じながら最高のクリスマスを過ごしてみては?


取材、文・志村昌美

心が躍る予告編はこちら!

作品情報

『ひつじのショーン スペシャル クリスマスがやってきた!』
12月16日(金)より新宿ピカデリーほか全国の映画館で2週間限定公開!
配給:東北新社
https://www.aardman-jp.com/shaun/shaun-christmas/
️©Aardman Animations Ltd 2021