志村 昌美

他人のスマホ見る?見ない?この問題を『おとなの事情』の監督が斬る!

2017.3.14
いまや、誰の生活にも欠かせないものといえばスマホですが、それが問題の種になることもしばしば。「自分のは見せたくないけど、彼氏のは見たい」なんて人も多いのでは? そこで、このテーマに切り込んだ話題作をご紹介します。その作品とは……。

本国イタリアでも空前の大ヒット『おとなの事情』!

【映画、ときどき私】 vol. 81

ある満月の夜、エヴァとロッコの夫婦が夕食に招待したのは、2組の夫婦と1人の男。長年の親友でもある彼らは、おいしい食事とお酒、そして会話を楽しんでいた。そんなとき、エヴァがある提案をすることに。それは……。

「私たちが本当に親友で信用できるなら、スマホを見せ合わない?」

そこで、各自のスマホをテーブルの上に置き、食事中に受けた着信やメールを全員でチェックするという前代未聞の危険なゲームをすることになる。次々と明らかになる秘密を前に夫婦や親友の絆はどうなってしまうのか……?

本作はイタリアのみならず、世界の映画祭で多くの賞に輝くなど、とにかくその巧みな脚本が評価されていますが、一体どのようにして作り上げられていったのか、その裏側を探ってきました。そこで……。

監督・脚本を務めたパオロ・ジェノヴェーゼ監督に直撃!

ワンシチュエーションで登場人物も7人しかいないにも関わらず、大人たちが繰り広げる心理戦にはとにかくハラハラドキドキですが、スマホをもとにした展開は、いまのこの時代だからこそ生み出されたもの。

どのようにしてこのアイディアを思いつきましたか?

監督 もともとは、数年前にガルシア・マルケスという作家にインタビューをしたときにあるんですが、「私たちには誰でも公的な生活とプライベートな生活とそれから秘密の生活があるんだ」ということを彼が言っていたからなんですよ。それから、そのことについて考えるようになり、映画をやろうということになりました。

とはいえ、個人の秘密の生活というのをどうやって表したらいいのかなと悩んでいたんですが、そんなときに私の友達がバイクで事故に遭って救急車で運ばれたんです。そこで何があったかというと、彼は持っていたアタッシュケースとスマホを奥さんに渡したんですけど、奥さんがそれを見て、それまで知らなかった彼の秘密を発見してしまったんですよ。その話を聞いて、いまの私たちにとって個人個人の秘密というのはスマホの中にあるんじゃないかなということで、このストーリーを書くことにしました。

今回、この映画に欠かせないのが個性的なキャラクターたちですが、誰に共感するかによっても、見方が変わってくるので、鑑賞後に友達や彼氏と議論するのも楽しみ方のひとつ。

ちなみに、登場人物にはモデルがいるのですか?

監督 特にモデルというのはなくて、現代のイタリアにいるミドルクラスの人たちの代表的な性格というのをいくつか選んで、観る人たちが自分と重ねられるようにと意識しました。自分を投影したキャラクターはいませんが、ほかの脚本家とも話し合いながら、分析や研究をして作り上げていった人物像になっています。

それだけ作り込まれているだけに、嘘をつくときについ饒舌になってしまったり、やましい気持ちからスマホの画面を思わず下にして置いたりと、ちりばめられた細かい描写にはとにかく共感してしまうはず。

監督自身の経験も反映されているところもありますか?

監督 コメディを描くときには、それが現実にありそうで信じられるようなものにする必要があるので、ディテールを研究して描いていくことがすごく重要。だから、小さな癖や動作といったものは実際の経験を繋げていくことになりました。

特に、今回は私を含めて5人の脚本家がいますが、それぞれが自分の間接的な経験や直接的な経験というのを出し合うことでアイディアがたくさんあったので、そのなかから一番適切なものを選ぶことができたのもよかったですね。

監督は自分のスマホを他人に見せるのはアリ?ナシ?

監督 見せないですね。見せてと言われても断ると思います(笑)。やっぱりすごくプライベートなものなので、スマホの中身を調べるというのはするべきではないと思いますね。

私も監督とまったく同意見ですが、スマホが原因で発覚する秘密の代表格といえば、やっぱり浮気。本作では当然この問題も取り上げられますが、イタリアといえば世界でも有数の浮気が多い国といわれています。ある調査によると、なんと平均45%以上もの夫婦が不倫をしているのだとか……。

そんなイタリアで観客たちの反応は?

監督 評判はすごくよかったですね。この映画を観ることで多くの人が、「自分がよく知っている人たちのことを本当はあんまり知らないんじゃないかな」と考えさせられたり、怖さを感じたりしたところがあったんだと思います。

大人にとっては、ホラー映画を観るよりも、他人のスマホを見たり他人にスマホを見られたりする方が、よっぽど背筋が凍ってしまうような恐怖が潜んでいるのかも。

監督にとって、夫婦や親友との関係に大切なものとは?

監督 他人との関係において一番重要なのはリスペクトですね。それがあれば、相手と深くて正直な関係というのが持続的に築けると思っています。

インタビューを終えてみて……。

一般的に私たちが抱くイタリア人のイメージから比べると、落ち着いた雰囲気のジェノヴェーゼ監督ですが、だからこそ鋭い洞察力をもとにしながら緻密にキャラクターを作り上げていったのだと納得。すでに世界中からリメイクのオファーも殺到しているという話題作なので、要チェックです!

スマホは、聞けば気の毒見れば目の毒!?

まるで自分も一緒にゲームに参加しているような臨場感を味わいながら、大人たちが繰り広げる会話バトルも堪能できる本作。さらに、最後には思いがけない “仕掛け” も待ち受けており、見破れるかどうかはあなた次第です! 

すべてを共有することによって絆が生まれるのか、それとも相手の秘密を知らないからこそお互いの関係を保てるのか。考えれば考えるほど悩ましいところですが、それでもあなたは愛する人のスマホを見たいですか? 

問いを突き付ける予告編はこちら!

作品情報

『おとなの事情』
3月18日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
配給:アンプラグド
© Medusa Film 2015 

http://otonano-jijyou.com/