私たちの「不倫関係」はバレていた…?|12星座連載小説#133~双子座 10話~
【12星座 女たちの人生】第133話 ~双子座-10話~
前回までのお話はコチラ。
その日は、いつもと何も変わらなかった。
そう、義久さんがいないことを除いては―――
相変わらず、彼のLINEは既読になったまま返信がない。
一体どこへ行ってしまったというの……? 義久さん……。
疑問符が頭の中から拭えないまま、一日が終わる。そして翌日、さらに驚くべきことが私に起こった。
「江崎君、次のシーズンから22時のニュース番組のレギュラーとして、君が担当になったから宜しくね。スポーツニュースだけど」
局次長からの通達によって、“それ”は不自然なほど自然に、あっさり決まった。今の私のキャリアからいえば、本来ならあと2年はかかるポジションだろう。
『ケイゴ……さん……?』
数日前に身体を重ねた男のことを思い出す。
現実的に考えて、こんなに不自然な抜擢が起こりうるはずはない。
となると……、
彼、“ケイゴ”と名乗る男の働きかけ以外に考えられない―――
でも、望んだものが手に入ったというのに、何なのかしら、この“腑に落ちない”感覚……。
義久さん……今、あなたはどこにいるの? 何をしているの?
それでも、仕事は待ってくれない。
私が任されるスポーツニュースは、ただ出来事を解説するだけでなく、現場で選手にインタビューをしたり、試合風景を視聴者に届けたりと、かなり“動き”のある番組だ。
スポーツニュースは初めてのことだから、全く要領が分からない。でも、せっかく掴んだチャンス、活かさなきゃ……!
まずは理想のキャスターに倣うことから始めよう。幸いなことに、まだ時間はある。
スポーツキャスターとして、人気のある堤雅子先輩の喋りやアクションを勉強しよう。
デスクで資料を整理していると、スマホに電話がかかってきた。
“非通知”
の文字が液晶に浮かんでいる。
何かただならぬ予感を覚え、人気のない場所へと移動して通話に出る。もしかして……、もしかして……、義久さん……?
『もしもし……?』
「やあ、仕事は順調かな?」
聞き覚えのあるその声は、“ケイゴ”だった。戦慄が走る。
『あ、ええ……』
「言ったでしょ? 僕には“ダイヤモンド”を輝かせることができるって。」
『え? もしかして……』
「そう、ちょっと君のところの上に働きかけておいたよ。頑張ってね。君をテレビで見られるのを楽しみにしてるよ」
『あ、ありがとうございます……』
何と言ったら良いのか、言葉が出てこない。
そして同時に、
「ああ、自分はもう“戻れない場所”に足を踏み入れたんだな」
と、何となく感じた。
「ははは……結構、結構」
満足そうに、“ケイゴ”が笑っている。
「ああ、それと」
『はい……』
―――嫌な予感がする。
何というか、“虫の予感”のようなもの。電話の向こうの男の声を、この先、聞きたくなかった。
「禍根を残さないように、しておいたからね」
え……、禍根?
「これから君は、“みんなのキャスター”なんだからね。節度ある行動を期待しているよ」
『えっ、それってどういう……』
そこで通話が切れた。
…………。
しばらく思考が追い付かなかった。
めまいのような感覚。気持ちが悪くて、少し壁に寄りかかる。
今のケイゴさんの口ぶりからすると、“禍根”……私に関するスキャンダラスな問題を取り除いておいたという意味、よね……。
つまり、ケイゴさんは私と義久さんの不倫関係を知っていて、それを潰したってこと?
もしそうなら―――
私がキャスターとしてのし上がるために、義久さんを“切り捨てた”ということになる。
言いしれぬ罪悪感が私を襲う。
「これから君は、“みんなのキャスター”なんだからね」
ケイゴさんの放った一言が、頭の中でリフレインする。
もしかして、私は―――
とんでもないことをしてしまったのかもしれない。
確かに私は、女子アナとして成功したかった。それが私の幼いころからの夢だったし、そのために色んな手を使ってきた。
だけど、だけど……。
義久さんを傷つけてまで、そうなりたかった訳じゃない……!
とにかく、義久さんのことが気になる。何とかして、連絡をとる方法はないの……!?
電話はダメ。奥さんに握られている可能性がある。メールも同じ。LINEもFacebookも危険だわ。
どうすれば……、どうすれば……。
考えをめぐらせる中で、さっきかかってきた“ケイゴ”からの電話を思い出した。
そうか、“非通知”の手がある―――
私は会社を飛び出し、すぐ近くの公衆電話に向かって走る。途中、社内で何人かが振り返る。けど、気にならない。一番近い電話ボックスを探す。
黄昏時、仕事上がりのサラリーマン達の波が、反対側から押し寄せる。
邪魔! どいてよ! 早く、早く知りたいの!
とにかく、義久さんが今、どうしているかが知りたい……!
『あった……!』
緑色の電話機が透明な小さいスペースの中に収まっている。スマホが普及したこのご時世、これほどまでに電話ボックスをありがたいと感じたことはない。
彼の携帯電話番号は、登録していないけど手帳に書き留めてある。
震えを抑えながら、彼の携帯番号をひとつずつ確認しながら押していく。初めて恋人に電話をかける少女のように、手帳を見ながらひとつひとつ……。
コール音が長く感じる。
出て……
出て……!
お願い……!
呼び出し音が鳴り続ける―――
【今回の主役】
江崎友梨 双子座25歳 アナウンサー
23歳の時にアナウンサーとしてTV局に入社。有名大学出身だが1年浪人している。ハイソサエティな世界に憧れを抱いており、自分を磨く努力も怠らない。現在、同じアナウンサーでもあり、上司である新垣義久と不倫関係にある。当初は踏み台にしようと考えていたが、だんだんと彼に惹かれキャリアと恋の間で、悩み揺れる
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