私たちの「不倫関係」はバレていた…?|12星座連載小説#133~双子座 10話~

文・脇田尚揮 — 2017.8.4
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第133話 ~双子座-10話~


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その日は、いつもと何も変わらなかった。
そう、義久さんがいないことを除いては―――

相変わらず、彼のLINEは既読になったまま返信がない。
一体どこへ行ってしまったというの……? 義久さん……。

疑問符が頭の中から拭えないまま、一日が終わる。そして翌日、さらに驚くべきことが私に起こった。

「江崎君、次のシーズンから22時のニュース番組のレギュラーとして、君が担当になったから宜しくね。スポーツニュースだけど」

局次長からの通達によって、“それ”は不自然なほど自然に、あっさり決まった。今の私のキャリアからいえば、本来ならあと2年はかかるポジションだろう。

『ケイゴ……さん……?』

数日前に身体を重ねた男のことを思い出す。

現実的に考えて、こんなに不自然な抜擢が起こりうるはずはない。

となると……、

彼、“ケイゴ”と名乗る男の働きかけ以外に考えられない―――

でも、望んだものが手に入ったというのに、何なのかしら、この“腑に落ちない”感覚……。

義久さん……今、あなたはどこにいるの? 何をしているの?

それでも、仕事は待ってくれない。

私が任されるスポーツニュースは、ただ出来事を解説するだけでなく、現場で選手にインタビューをしたり、試合風景を視聴者に届けたりと、かなり“動き”のある番組だ。

スポーツニュースは初めてのことだから、全く要領が分からない。でも、せっかく掴んだチャンス、活かさなきゃ……!

まずは理想のキャスターに倣うことから始めよう。幸いなことに、まだ時間はある。
スポーツキャスターとして、人気のある堤雅子先輩の喋りやアクションを勉強しよう。

デスクで資料を整理していると、スマホに電話がかかってきた。

“非通知”

の文字が液晶に浮かんでいる。

何かただならぬ予感を覚え、人気のない場所へと移動して通話に出る。もしかして……、もしかして……、義久さん……?

『もしもし……?』

「やあ、仕事は順調かな?」

聞き覚えのあるその声は、“ケイゴ”だった。戦慄が走る。

『あ、ええ……』

「言ったでしょ? 僕には“ダイヤモンド”を輝かせることができるって。」

『え? もしかして……』

「そう、ちょっと君のところの上に働きかけておいたよ。頑張ってね。君をテレビで見られるのを楽しみにしてるよ」

『あ、ありがとうございます……』

何と言ったら良いのか、言葉が出てこない。

そして同時に、

「ああ、自分はもう“戻れない場所”に足を踏み入れたんだな」

と、何となく感じた。

「ははは……結構、結構」

満足そうに、“ケイゴ”が笑っている。

「ああ、それと」

『はい……』

―――嫌な予感がする。

何というか、“虫の予感”のようなもの。電話の向こうの男の声を、この先、聞きたくなかった。

「禍根を残さないように、しておいたからね」

え……、禍根?

「これから君は、“みんなのキャスター”なんだからね。節度ある行動を期待しているよ」

『えっ、それってどういう……』

そこで通話が切れた。

…………。

しばらく思考が追い付かなかった。

めまいのような感覚。気持ちが悪くて、少し壁に寄りかかる。

今のケイゴさんの口ぶりからすると、“禍根”……私に関するスキャンダラスな問題を取り除いておいたという意味、よね……。

つまり、ケイゴさんは私と義久さんの不倫関係を知っていて、それを潰したってこと?

もしそうなら―――

私がキャスターとしてのし上がるために、義久さんを“切り捨てた”ということになる。

言いしれぬ罪悪感が私を襲う。

「これから君は、“みんなのキャスター”なんだからね」

ケイゴさんの放った一言が、頭の中でリフレインする。

もしかして、私は―――

とんでもないことをしてしまったのかもしれない。

確かに私は、女子アナとして成功したかった。それが私の幼いころからの夢だったし、そのために色んな手を使ってきた。

だけど、だけど……。

義久さんを傷つけてまで、そうなりたかった訳じゃない……!

とにかく、義久さんのことが気になる。何とかして、連絡をとる方法はないの……!?

電話はダメ。奥さんに握られている可能性がある。メールも同じ。LINEもFacebookも危険だわ。

どうすれば……、どうすれば……。

考えをめぐらせる中で、さっきかかってきた“ケイゴ”からの電話を思い出した。

そうか、“非通知”の手がある―――

私は会社を飛び出し、すぐ近くの公衆電話に向かって走る。途中、社内で何人かが振り返る。けど、気にならない。一番近い電話ボックスを探す。

黄昏時、仕事上がりのサラリーマン達の波が、反対側から押し寄せる。

邪魔! どいてよ! 早く、早く知りたいの!

とにかく、義久さんが今、どうしているかが知りたい……!

『あった……!』

緑色の電話機が透明な小さいスペースの中に収まっている。スマホが普及したこのご時世、これほどまでに電話ボックスをありがたいと感じたことはない。

彼の携帯電話番号は、登録していないけど手帳に書き留めてある。

震えを抑えながら、彼の携帯番号をひとつずつ確認しながら押していく。初めて恋人に電話をかける少女のように、手帳を見ながらひとつひとつ……。

コール音が長く感じる。

出て……
出て……!
お願い……!

呼び出し音が鳴り続ける―――


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【今回の主役】
江崎友梨 双子座25歳 アナウンサー
23歳の時にアナウンサーとしてTV局に入社。有名大学出身だが1年浪人している。ハイソサエティな世界に憧れを抱いており、自分を磨く努力も怠らない。現在、同じアナウンサーでもあり、上司である新垣義久と不倫関係にある。当初は踏み台にしようと考えていたが、だんだんと彼に惹かれキャリアと恋の間で、悩み揺れる


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