気になる「あの人」にまた会える…|12星座連載小説#119~獅子座11話~

文・脇田尚揮 — 2017.7.14
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第119話 ~獅子座-11~


前回までのお話はコチラ

「それじゃあ、そろそろ出ようか」

私が、飲み過ぎてベロベロになりつつあるのを察したのか、尾田ちゃんが“今夜はもう帰ろう”と促してきた。

まだ22時をまわったくらいじゃない。せっかくいい気分になってきたっていうのに!

アタシがもう一杯注文しようとすると、

「ダメよ」

尾田ちゃんが制止する。……こいつ、全然酔ってない。

「ほら、真利子、行くわよ。あなた恋愛頑張るんでしょ? お酒の飲み方にも気をつけなくちゃ」

あー、もう! 尾田ちゃんはいっつも正論。

半ば強引に店から連れ出される。そして、タクシーに押し込められた。

「いい、ちゃんと帰るのよ?」

『言われなくても、帰るわよ!』

「じゃあ、すみませんがよろしくお願いします」

丁寧にタクシーの運ちゃんに頭を下げる尾田ちゃん。思えばこの子は、会社立ち上げ当初から、ずっとアタシの面倒をみてくれていた。

大変な時期は励ましてくれて、上手くいっている時は「調子に乗っちゃダメよ」って諌めてくれたっけな……。

『尾田ちゃん』

「何?」

『……ありがとう』

「何言ってんのよ、早く帰って寝なさい! ……それじゃあね」

二軒目に行きたい気持ちをグッと堪えて、そのまま帰宅する。

タクシーから見える、夜の街灯りがキラキラと眩しい。

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恋愛ねぇ、ガラじゃないんだよなぁ……。

木村さんのことは気になるけど、こっからどうやって進めたら良いのか、分かんないのよね。

なんでもスパッて決めるタイプなのに、珍しくクヨクヨグズグズしている。

―――自宅に到着。

カードで支払いを済ませて、領収証を運ちゃんから受け取る。千鳥足でエントランスへ。

バッグからキーケースを取り出して、オートロックを解除する。ついでにスマホもチェック。

尾田ちゃんからLINEが入っている。

「真利子、お疲れ。ちゃんと帰れた?」
「今日、お店に来て下さった菜摘ちゃんのお母様にお礼の連絡を入れておいたから、明日あなたからも連絡しておいて」

……なんなのよ、この“段取り力”は。

昔から、いっつもそう。私の至らない部分を、尾田ちゃんが補ってくれる。「アリアンロッド」が軌道に乗ったのも、彼女あってこそなのよね。

『分かってるわよ……』

エレベーターの中で、そのまま「分かってるわよ」と返信する。取り敢えず、今日はもう色々考えたくないのよっ!

自室に到着し、そのままベッドに倒れこむ。シャワーは明日でいいや……。

そのまま眠りについた―――

朝。目覚めは悪くない。頭もガンガンしてない。昨夜そこまで飲まなかったからな。

ベッドから起き上がり、冷蔵庫のジャスミンティーをコップに注いで飲んで、喉の乾きを潤す。

『ふぅ……さて、今日もやるか!』

スイッチが入る―――

少しぬるめのシャワーを浴び、普段通り支度を始める。このリズムを維持することが、大切なのよね。

どんなに前日飲んで騒いでも、次の日はキッチリ起きて動く。それがマイルール。

今日もビシッと決めるわよ!

お気に入りの下着を身につけ、タイトなスーツに身を包み、シャネルのN°5の霧をくぐっていざ出勤ね。

今日も、お店にはアタシが一番乗り。自ら掃除をすることで、運が向いてくるの。

せっせとモップをかけていると、

「おはよ!」

尾田ちゃんだ。

『おはよ~』

「朝から良い心がけね」

『まぁね、ゲン担ぎみたいなもんよ』

一日が始まる―――

お昼休憩中、お店の奥でコーヒーを飲んでいる時にふと思い出した。昨日の尾田ちゃんからのLINE。

菜摘ちゃんママに、私もお礼の連絡を入れておかなくちゃ。

会員名簿をチェックし、電話番号を確認する。

『あったあった』

番号をメモして、お店の電話機から電話する。

プルルルルル
プルルルルル

「はい、もしもし内田です」

『こんにちは、“アリアンロッド”代表の黒木真利子でございます! 先日はお店まで足をお運び下さり、ありがとうございました!』

「まぁ、黒木社長……わざわざご連絡、ありがとうございます。菜摘も、そちらで購入させて頂いた下着を喜んで着けてますのよ」

『お気に召されたようで、私も嬉しい限りです……!』

「それで、ええと……昨日、尾田さんからもご連絡頂いたのですが、木村先生とのお顔合わせの日程をいつにしましょうか?」

―――ええっ!

尾田ちゃん、何をしてくれたの!? もしかして、木村さんと会えるように、菜摘ちゃんママにお願いしておいてくれた?

今は取りあえず、話を合わせておこう。内ポケットから手帳を取り出し、スケジュールをチェックする。

『あぁ! はい! ありがとうございます。えぇと、再来週の土日でしたら、何時でも大丈夫です』

「分かりました。では、木村先生にもそのようにお伝えして、日程調整させて頂きますね!」

菜摘ちゃんママは、かなり“話し好き”なようで、その後15分ほど話は続いた。

「それでは、またご連絡差し上げますわね、ウフフ」

ようやく受話器を置くことができた。

しかし、

木村さんと、また会うことができるなんて―――

平静を装ってはいるものの、私の心は踊っていた。


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【今回の主役】
黒木真利子 獅子座31歳 経営者
女性向け下着ブランド『アリアンロッド』の経営者。プライドが高く、自分の力で今の会社を立ち上げ軌道に乗せたことに誇りを持っている。しかし、恋愛はあまり得意でなく、強気な性格ゆえに男性との関わり方について悩んでいる。顧問税理士の茂木篤史は心を許せる存在。


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