年下好青年からの猛アタックに、女は…|12星座連載小説#115~山羊座10話~

文・脇田尚揮 — 2017.7.10
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第115話 ~山羊座-10~


前回までのお話はコチラ

体育館の裏で、男女が二人―――

本来なら“ときめく”シチュエーションなんだろうけど、私たちは教師同士だから誰かに見られちゃ困る……。

話の内容もデートについてだから、なおさらまずいというか……。

「山崎先生、どうして逃げるんです? 私、何か気に障ることしましたか?」

真っ直ぐに疑問を投げかけてくる。私もこれぐらいハッキリものが言えたら、気苦労も少ないんだろうけど……。

『いえ、別に気に障ったとかではなくてですね……』

しどろもどろに言い訳する私。なんとか、ごまかしてこの場を終わらせたい。

「では、どうして?」

この人は、疑問が生まれると徹底的にその原因を突き止めるタイプね。さすが数学教師……。

『いや……学校内で、教師同士がする話じゃないのかなと思いまして』

これで彼を黙らせることができるだろう。

北野先生はハッとした表情を浮かべた。そして、彼の顔はみるみるうちに真っ赤になった。

「すみません……つい……失礼いたします!」

そう言って、彼は走り去った。

……ふぅ、なんとかこの場は乗り切れた。

正論よね。

なんだかんだ言って私のほうが年上だし、教員歴も長いから。

ただ、きっと傷つけちゃったわよね、北野先生のこと。後でどんな顔して会おう。

―――お弁当箱の包みを再び開く。

でも、あんなに“熱くなれる”なんて、羨ましいな。職員室からここまで、私の後を追って走ってきたんだ。すごいなぁ。

基本的に、“去る者追わず”なスタンスの私には、考えられない。

あそこまで必死になるってことは、それってもしかして―――

いやいや、そんな自分に都合の良い解釈はしないでおこう。違っていたら、すっごく恥ずかしいしバカみたいだし。

こうやって体育館裏でひとりお弁当を食べていると、新任の頃を思い出す。最初は右も左も分からなかったのよね。

教頭先生から怒られた時なんかも、ここへ来て泣いたっけ。熱意はあるんだけど、それが間違った方向に向いてしまうのは新任によくあることだって、先輩から教えられたわ。

……ん?

“熱意が間違った方向”か。何だか少し、北野先生にも当てはまるような気がして、可哀想になった。

お昼休みの終了を告げるチャイムが構内に響いていた。


校内清掃の時間。職員室の向かいデスクには北野先生はいない。多分、体育館の掃除をしているんだろう。

年下かぁ。午後の授業が終わったら、声を掛けてみよう。

午後の授業は不思議と冷静だった。いつものように生徒たちの前でテキストを読み上げる。黒板にチョークを滑らせ、例文を書き、小テストをする。

6限目が終わり、今度はサークルの支度。階段を下り職員室に戻ると……、また北野先生はいない。

タイミングが悪かったわね。別に私を避けてるわけじゃないだろうけど。

サークルの子達と、前回の課題について話をしている間に夕方に。

結局、今日は北野先生と話せそうにない。まぁ、こうして同じ学校にいるから、必ずまた会うことになるだろうけど。

サークル活動が終わり、鍵を閉めようとしたとき、

「せんせ~、今日は何かあったの?」

飯山さんから声を掛けられた。

『え、どうして?』

「だって、午前と午後とで全然雰囲気が違うから」

私って、そんなに顔に出るタイプなのかしら。弱ったな……。

『別に何もないわよ、ほら、遅くなるから早く帰りなさい!気をつけてね』

「はぁ~い」

飯山さんは、つまらなそうに返事をして帰っていった。

校舎の3階から外を眺めると、まだ体育館のライトが点いている。剣道部はまだやっているのね。

北野先生、今どんな気持ちなんだろう。落ち込んでなきゃ良いけど。

人気のない職員室に戻り、視聴覚室の鍵を元の場所に返す。今日も一日が終わった。

ドキドキしたり、ビックリしたり、冷静になったり、なんだかとても忙しい一日だったなぁ。

帰り支度を済ませて、職員出口から専用駐輪場まで歩く。そして、校門を出ていつも通り帰ろうとしたその時。

「山崎先生~!!」

聞き覚えのある声が、後ろから聞こえて振り返る。よく見えないけど、あのシルエットは……北野先生。

スーツ姿でカバンをブンブン振り回しながら走って近づいてくる。

『本当に、この人は……』

“呆れ”とともに、“愛おしさ”を感じている自分がいる。

「ハァハァ……ハァ」

あっという間に、私の目の前にやってきた。

『どうされたんです? そんなに息を切らせて……』

「先生、学校の中で話す内容ではないと仰っていたので、学校外でお話したいと思いまして!」

なっ……この人! これってストーカーに近い何か……。

でも、悪意がないし真っ直ぐだし。もう良いわ、私の負けね。

『そうですね、そしたら降りた角の喫茶店にでも入りましょうか』

その言葉に、顔がパアァァ……と明るくなる彼。

本当にこれでいいのかなぁ。何とも言えない気持ちで、自転車を押しながら坂道を下る。横には北野先生。

星がやたらと綺麗に見える夜だった―――


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【今回の主役】
山崎千尋 山羊座30歳 高校教師(英語)
生徒からの信望も厚く、仕事ができる「良い先生」。ただ、他人に甘えるのがヘタなので誤解されることも。大学時代にアルバイトをしていた塾で、塾長にセクハラを受け続けた過去がトラウマになっている。自分に恋をする資格が無いと思っており、結婚願望はある一方、身動きできない。後輩の北野俊一から好意を持たれているが、気づいていない様子。


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