「直接会おう」婚活女に届いた想定外のメール|12星座連載小説#109~蟹座10話~

文・脇田尚揮 — 2017.6.30
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第109話 ~蟹座-10~


前回までのお話はコチラ

『ただいま~……』

竹井さんから返信がない。母も娘の由愛も、ちょうど買い物に出かけているようだ。

ふぅ……。椅子に荷物を下ろす。

今日、来店された山岡さんカップル……、もっと親身になってあげられたら良かった。

田代さんに言われた通りで、“いつもの私”なら、絶対にしない失敗。これまで、それぞれのカップルに合った最適プランを提案してきた。上と交渉して、多少無理してでも……。

そんな姿勢が私の信頼にも繋がっていたし、プライドもあったしね。

恋と仕事の両立って、難しいなぁ……。

自室のデスクに向かい、ペンをとる。あれこれ考えながら、山岡さんカップルへのお詫びメッセージをメモ帳に書き出していく。

渋る彼を納得させることができる、“簡易プラン”も選択肢の中にあったのだ。それを提案せずに帰してしまうなんて、プランナーとして失格だわ。

つい、同じ女性である山岡さんに肩入れしすぎてしまった。私自身が恋に浮かれて、素敵な結婚“式”を意識しすぎていたからだ。

お互いの、“気持ち”を大切にしなければ、決まるものも決まらない。それをまとめることができてこそ、プロってものよね……。

私なりに精一杯のお詫びの文章を作成し、何度も読み直し、修正を加え、そしてそれを山岡さんにお送りした。

また来てくれたらいいけど、多分もう二度目はないだろうなぁ。

机に突っ伏して、反省する―――

そして婚活サイトのマイページにログインし、ぼんやりとメールをチェックする。

石田さんからは「お疲れ様メール」が届いていた。でも、竹井さんからは、私が自撮り写真を送って以来、開封済みなのに返信はない。

多分、好みのタイプではなかった、ということなのだろう。
写真を送るまでは、あんなに楽しくやり取りしてくれたのに、途端に無視か……。
何だか妙にリアルで傷つく。

それ以外の人からのメールは他愛もない、どうしようもない内容のものばかりだった。

ちょっと疲れた。少し横になろう。ベッドに横たわりながら、いつも自分がお客様に言っているフレーズを思い出す。

「一生に一度の結婚」

……か。本当にそうなら良いのにね。

―――無意識に目から涙がこぼれ落ちる。

ウトウトしていると、玄関から、カチャと鍵が開く音が聞こえてきた。

二人とも帰ってきたみたいね。

急いで涙を拭く。こんな顔、母親と娘には見せたくない……。案の定、買い物に行ってくれていたみたいで、買い物袋を両手に下げた母と、それよりもだいぶ小さな紙袋を抱えた由愛が家に入ってきた。

『おかえり~~!』

わざとらしいくらいに明るい声を出す。二人とも私が元気ないと、心配して色々聞いてくるから。

―――そして普段通り、家族団欒の時間が流れた。

22時を過ぎ、入浴後、化粧水と保湿クリームを塗り終え、スマホを手に取る。

依存してはいけないから、時間を決めてメールチェックすることにしたのだ。

メールフォルダを開くと、石田さんから2通。一通目は、「大丈夫ですか?」という件名。そして二通目は、「もし良ければ……」という件名。

私から返信がないから、心配してくれているのかな? 順に開封する。

一件目は、案の定、「お疲れ様メール」への返信がない件が書かれていた。そうよね、開封しているのに返信がないと、嫌われたのかと思っちゃうもの。竹井さんのときみたいに。

そして、二件目のメールには……意外な内容が書かれてあった。

「恥ずかしながら、亜矢さんとこうしてサイトで知り合い、交流するようになって、何だか毎日にハリが出てきているように感じます。

亜矢さんとやり取りすることができるので、仕事や人間関係が大変でも、毎日が楽しいのです。

まだ、お会いして間もないことは重々承知の上で申し上げますが……

もしよろしければ、直接会って頂けませんでしょうか? お返事、お待ちしています。 石田」

うそ……これって、私のこと、気に入ってくれたってことよね!

婚活サイトで知り合って、実際に“出会える”ことなんて、あるんだ。

今日の山岡さんカップルへの失敗や、竹井さんから連絡が途絶えたことで、自信をなくしていたからか、石田さんの言葉は本当に嬉しかった。

だけど実際に会うに際して、懸念点もあった。

……出会って間もなく、顔写真さえ送っていないこと
……バツ1子持ちであること

もう、竹井さんの時のように、傷つきたくない。初めから、全部本当のことを言おう。

―――そう決心し、メールを返す。

「石田さん、亜矢です。

夕方メールを下さっていたのに、返信できておらずゴメンなさい。ちょっと家のことが忙しくって……。

お誘い、本当に嬉しいです。

でも、まだ知り合いになって間もなく、私、顔もまだお見せしていませんし……。それに、実はバツ1で娘が一人いるんです。

もしそれでも良いのであれば、是非よろしくお願いいたします。 亜矢」

これで嫌われてしまっても、後悔はない。自分を取り繕って、嘘をついてまで会うなんて私にはできないわ。

ありのままの自分を愛してくれる人じゃないと、どのみち上手くいかないもの。

開き直って、メールの返信を待つ。

5分後、送ったメールが開封された―――


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【今回の主役】
瀬名亜矢 蟹座29歳 ウェディングプランナー
バツ1子供あり(瀬名由愛・7歳)。仕事で、華やかな結婚式場のプランニングを企画しながらも、どこか冷めている自分に気づきつつある。婚活や合コンには頻繁に参加しているが、どこか満たされない”出会いイベントジプシー”な一面も。カップルの幸せを見送る立場でありながら、医者である元夫(二階堂恭二)との離婚を経験した自分に矛盾を感じている。


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