「また会いたい」と言えない女|12星座連載小説#91~獅子座7話~

文・脇田尚揮 — 2017.6.6
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第91話 ~獅子座-7~

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この木村という男、さっきからチビチビとシャンパンを飲んでいる。全く男を感じない……。

「黒木さんは、どういったお仕事をされてるんですか?」

木村が尋ねてきた。

『私は下着屋をやってます。あ、もちろん女性向けの、ね』

「そうなんですね。もしかして、オーナーさん?」

『ええ、小さなお店なので、“オーナー”なんて大袈裟ですが、一応』

「へぇ、その若さで、凄いじゃないですか! 何年やってらっしゃるんですか?」

『6年目になるかなぁ』

「素晴らしいじゃありませんか」

『いえ、ただ続けているだけですよ』

「いやいやご謙遜を。85%の会社は、立ち上げて5年のうちに潰れてしまうと言われているんですよ」

ふーん、顧問税理士の茂木ちゃんと同じようなことを言うのね。この男、意外と詳しいのね。

「会社生存率って言うんですかね。会社もひとつの“生き物”なんですよ。じゃあ、10年後に生き残っている会社は何%だと思います?」

木村がニコッと微笑みながら、聞いてきた。

『んんと……10%くらい?』

「実はですね、約5%なんです。そして、20年後に生き残っている会社は1%未満。厳しいものです。愛着ある会社の終わりを見るのは、経営者としてはさぞ無念でしょう」

木村がほんの一瞬見せた、哀しげな表情が妙に印象的だった。

―――ちょっとドキッとした。この男、一体どんな人生を歩んできたんだろう。

『今度は、私から質問させてもらっても良い?』

「ええ、どうぞ」

『木村さんは、どんな仕事をしているの?』

「私ですか? 私は倒産や破産しそうな会社の息の根を止める、言わば“死神”のようなものです」

『え……』

「いやぁ、はは。すみません、冗談が過ぎましたね。私の職業は、一般的には“破産管財人”と呼ばれています。死にそうになっている会社の整理・精算をして、まだ生き残れそうなら再生させる。反対に、ダメそうなら携わった人たちに財産を配当する、私の仕事はそんな感じです」

破産管財人……確か、裁判所から選任されるのよね。とすると、この男……弁護士か!

『優秀な弁護士さんでいらっしゃるのね』

「いえ、哀しい仕事ですよ。見込みのない経営者たちに引導を渡す、嫌な仕事です。泣いてすがってくる方もいて、いつも心が痛みます」

そうか、さっきの哀しそうな表情は、これまでの経験によるものだったのか。

「黒木さんの会社には、私の出る幕はなさそうですね」

皮肉っぽく笑う。

『どうだろう、それは分からないわ。いつ、何が起こるか分からない、それが会社ですもの』

実際にそうだ。私も、多くのアパレルショップが倒産するのを見てきた。

「意外ですね。あなたなら、“当たり前よ! 私の会社が潰れるわけないわ”とでも、仰るかと思っていました」

『そこまで傲慢じゃないわ。内心いつもヒヤヒヤしてるのよ』

「そうですね。心中、お察しします」

『……それでも』

「それでも?」

『会社経営は、楽しくてやめられない』

男は目を丸くし、こちらを見つめた。

それから、

「……あなたのような社長が、きっと次の時代を創っていくんでしょうね」

と、目を細めながら言った。

―――会場の皆様、ご歓談中、失礼いたします。早いもので、もうすぐお開きの時間です。

彼と随分話し込んでいたのか、いつの間にか閉会の時間になっていた。

「あぁ、もうこんな時間なんですね」

『本当、あっという間』

もう少し、この男と話してみたい。もっともっと、この男のことを知りたい。

どうしよう。こんな時、なんて言えばいいの?

「次のお店に行きましょうよ」
「連絡先、交換しませんか」
「また会えますか」

みんなそんな風にして、次に繋げているのだろう。でもアタシには、その一言を言う勇気がない。

「それじゃあ、黒木さん。今日は私の話にお付き合い下さり、ありがとうございました。とても楽しかったです」

あっ……、行ってしまう。言わなくちゃ、何か言わなくちゃ!

『あの!』

「はい?」

『私、黒木真利子って言います。私もお話できて楽しかったです!』

「私は木村秀一と言います。それでは!」

そう言って、彼は会場の人波に紛れていなくなってしまった。

私にできた唯一のこと……。それは自分の名前を伝えることだった。

重い気持ちのまま帰宅する。服を脱ぎ捨て、そのままベットに倒れこむ。

アタシって本当にダメだ。プライドが邪魔をして、自分からアプローチすることができない。

チャンスはいくらでもあったのに……。

あ~もう、バカだぁ。

私の心は、木村秀一という男に持っていかれた。恋に落ちてしまったようだ。

チビで地味で男の魅力なんて微塵もない。だけど他の男にはない、“奥深さ”がある。

連絡先くらい交換しておけば良かった。きっと、もう会えないだろう。

―――初めて、男に会えないことを悲しいと思った。

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【今回の主役】
黒木真利子 獅子座31歳 経営者
女性向け下着ブランド『アリアンロッド』の経営者。プライドが高く、自分の力で今の会社を立ち上げ軌道に乗せたことに誇りを持っている。しかし、恋愛はあまり得意でなく、強気な性格ゆえに男性との関わり方について悩んでいる。顧問税理士の茂木篤史は心を許せる存在。

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