選べない…2人の男に溺れる女|12星座連載小説#81~蟹座9話~

文・脇田尚揮 — 2017.5.22
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第81話 ~蟹座-9~


前回までのお話はコチラ

竹井さんと石田さん、二人の男と同時にやり取りするなんて……私、悪い女。

竹井さんとは、その後1時間ほどのやり取りで、一気に仲良くなった。「顔写真を見せて」だって。ウフフ。まだもう少し仲良くならなきゃ、送ってあげないんだから。

石田さんに対しては、少し真面目な女を装う。仕事上の大変なことや、やり甲斐なんかを語り合って。

本当はもう少し、やり取りを続けていたいけど……、今夜は遅いから寝ようかな。

女としての充足感に包まれながら、ベッドに横になる。

……なんだ、私ってまだイケてるんじゃん。

―――翌朝のコンディションは最悪。眠い……。

結局、昨日は夜中の2時まで竹井さんとやり取りしていた。朝ごはんを口に入れるのもダルい。

「あんた、大丈夫かい?」

母が心配そうに、顔を覗き込んでくる。

『ああ、うん、大丈夫』

夜中まで婚活サイト内でメッセージのやり取りをしていたなんて……流石に言えない。

「ママ、おはよう」

由愛が起きてきた。

もうすぐ新しいパパが見つかるからね。と、心の中で呟きながら、頭を撫でる。

この子に不憫な思いをさせることもなくなる思うと、気がラクになる。

『行ってきま~す』

朝の支度を終え、普段通り出勤。気になるのは、やはり婚活サイトのメッセージ。

バスに乗り、後部座席に座って早速スマホをチェック。

竹井さんは……、まだ昨日の最後のやり取りで止まっている。寝ているのかな。
石田さんは……お! 来てる来てる。

「おはようございます。今日も都内はいい天気ですね。

亜矢さんもお仕事でいろいろと苦労されているんですね。私も社内に少し変わった女性社員がいるのですが、重要な企画を任されていてやりたい放題なんですよ。

こちらは、急にシステムを作り替えるなどしなくちゃいけなくて……、文句の一つでも言ってやりたいですよ。

でも、そもそも楽な仕事なんてありませんからね。お互い頑張っていきましょう!

今日も亜矢さんが良い一日を過ごせますように^^」

え! “亜矢さん”だって! 思わず、座席から立ち上がりそうになる。完全に目が覚めた。

私もすぐに返信をする。

「おはようございます。本当、今日もいい天気ですね!

私は今、出勤中です。石田さんも、お疲れさま。社内にマイペースな人がいると、大変ですよね。

先日、私も外注のジュエリー担当の女性とお話したんですが、その人がかなり奔放な方で困っちゃいました。

でも、仕事っていいですよね。大変でもその分やり甲斐を感じるっていうか……。

今日も一日頑張ります! 石田さんも素敵な一日になりますように☆ 」

もう、気分は女子学生。すっかり浮かれていたら、降りる駅を間違えてしまった。でも、気にしない。

いつもより少し遅れて、丘の上の職場に到着。ロビーで田代さんと目が合った。

『おはようございま~す!』

田代さんが目を丸くしている。そりゃそうか、昨日はかなり不機嫌だったからな。

「瀬名さん、おはよう。今日はご機嫌だね」

『そうですか? ウフフ』

「今日は、先日瀬名さんが担当された山岡様がお見えになるみたいよ。14時からって」

ああ、あのお二人! ……ついに彼が決心したのかしら。

『有難うございます!』

「張り切ってるね~」

そりゃそうよ。女は恋をすると“変わる”んだから。

事務室でプランを練っている間も、ちょくちょくメッセージを確認してしまう。

お昼ご飯を食べ終わった頃。あ! 竹井さんから来てる!

どれどれ……

「亜矢ちゃん、お疲れさま。昨日の件、考えてくれたかな?

亜矢ちゃんの写メ、送ってくれたら嬉しいな。楽しみに待ってるよ!」

ウフフ。そろそろ送ってあげようかしら。

周囲に誰もいないことを確認。メイクをバッチリ“お直し”して……。

カシャ

う~ん、イマイチ。

それから撮り直すこと10数分。やっと、いい感じのが撮れた。

一応、美顔アプリで補正もしておこう。これくらいインチキじゃないわよね。

えいっ

私の“全力写メ”を添付して送る。

これで竹井さんもイチコロね。気分はもう、小悪魔女子だ。

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さてと、山岡さんカップルの準備に取り掛かろうかしら。プランをA、B、Cの三つ用意する。多分Bプランを選ぶだろうけど。

―――山岡さんと話している最中も、頭の中は石田さんと竹井さん二人の男のことで一杯だった。

プランを提案してみたものの、彼が難色を示し、結局「またの機会に」なった。最後まで、招待する人たちの交通費と宿泊費のことが引っかかっているとのこと。

山岡さんが、残念そうに肩を落として帰っていく。

まぁ、仕方ないわね。結婚式はお金がかかるもの。

それから終業まで、私はずっと上の空だった。

「瀬名さん、ちょっと」

帰り際、田代さんから呼び止められる。

「どうしちゃったの?」

『え……どうって?』

「山岡様、帰しちゃったでしょ?」

『ええ、プランBでも費用面で折り合いがつかなくって……』

「クレーム来てるみたいだよ。他店は身内だけの簡易プランを提案してくれたのに、こちらは無いんですかって」

――しまった。

最終的に、最も費用が少ない簡易のプランがあるんだった。

「いつもの瀬名さんなら、最適なプランを提案するじゃない。お詫びのメール入れときな?」

『すみません……有難うございます』

色ボケ、してたかも。

なんだか、重い気持ちのまま帰路につく。

竹井さんからは、まだ返信がない。

蟹座 第3章 終


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【今回の主役】
瀬名亜矢 蟹座29歳 ウェディングプランナー
バツ1子供あり(瀬名由愛・7歳)。仕事で、華やかな結婚式場のプランニングを企画しながらも、どこか冷めている自分に気づきつつある。婚活や合コンには頻繁に参加しているが、どこか満たされない”出会いイベントジプシー”な一面も。カップルの幸せを見送る立場でありながら、医者である元夫(二階堂恭二)との離婚を経験した自分に矛盾を感じている。

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