新しい男に「今、私ドキッとした。」|12星座連載小説#75~牡牛座9話~
【12星座 女たちの人生】第75話 ~牡牛座-9~
前回までのお話はコチラ。
昨夜の“失態”が、嘘のような平和な朝だ。
実は全部“ドッキリ”か何かで、2人が私を驚かせようとしているだけだと思いたい……。
どうして私のスマホに志田さんからメールが届いているのか……、私には理解できなかった。
『あのさ、昨日私、志田さんとアドレス交換したっけ?』
開封するのがちょっと怖くて、祥子に聞いてみた。
「いや、してないと思うよ」
『え! だったらどうして、彼からメール来てるんだろう……』
「志田っちから、電話番号を教えて下さいって、言われたの覚えてない……よね?」
『うん、まったく』
「昨日の和歌子、すごく酔ってたから、志田っちが心配して電話番号を聞いてたわ。だから、ちゃんと私の家に着いたかどうか、ショートメールで確認しようとしたんじゃない?」
『あー……』
なるほど。そりゃあ、初対面の女がぐでんぐでんに酔っ払ってたら、心配になるのも当然よね……。
「志田っち、あんな感じの人だけど、良いヤツだよ」
『それは、分かるけどさ』
あんな失態をしてしまった後で、一体どんな顔して会えばいいのよ……。
恐る恐るメールを開封する。
PM 11:05「志田です。今日はお疲れ様でした。無事に滝口さんの家に着きましたか?」
AM 00:56「志田です。遅くに失礼します。もし何かありましたらご連絡下さい」
AM 06:42「志田です。おはようございます。体調いかがですか?昨夜は有難うございました。少なくとも私は楽しかったです。また機会がありましたら」
短いメールが、昨晩から今朝にかけて3件入っていた。
丁寧で親切な人なんだろう。ショートメールに収まりきるように、言いたいことをまとめて書いてある。
「志田ちゃん、何て?」
祥子が興味ありげに聞いてくる。
『いや、無事に帰りつけたか、って』
「いやあ、昨日の志田ちゃん、男らしかったわよ。見直しちゃったもん」
『“男らしい”って何が?』
「和歌子がリバースしたものを片付けて、その後、タクシーを拾って抱きかかえて乗せてくれたのよ。私じゃ抱えきれなくって。で、運転手に1万円渡して、“何かあったらいつでも連絡下さい。私、起きてますから”ってさ」
……吐いたものまで、片付けてくれたんだ。しかも、抱き抱えられたって。
私、60キロくらいあるよ。ちょうど“米俵1俵”くらい。
恥ずかしすぎる。
お寿司食べて飲んで吐いて、抱っこされて……世話ないわ。彼が良くても私がムリ。
「和歌子、返信してあげないの? 彼、心配していると思うわよ」
『できるわけないじゃん! あんなことの後に……』
「志田っちさ、最後に“楽しかったです、また誘って下さい”って言ってたよ」
―――ドキッ
今、私、ドキッとした。いろんな意味で。
こんな失態、雅俊さんにすら見せてない。いつも背伸びをしていたから。
ちゃんとしていないと、嫌われると思っていた。
でも、もしかしたら、それが雅俊さんにとっては窮屈だったのかもしれない。
お互い自然体でいられなかったのは、私が原因……。
私は彼に嫌われまいと、“素の自分”を隠して8年間付き合い続けてきたのかもなぁ。
それを、志田さんに教えられたような気がした。
本当の私は、欲張りで、嫉妬深くて、女々しくて……そして、大食い。
自分でも分かってる。
昨夜は、私が今まで隠し続けてきた“本性”を、全部ぶちまけちゃったんだと思う。それでも、志田さんは引くことなく真摯に対応してくれた。
――もし、もし、雅俊さんだったらどうだっただろう。
志田さんみたいにしてくれたかな。それとも、幻滅されてしまっただろうか。
確かめる術はないけれど……、一つだけ言えるのは、
“志田秀”という男は、私のダメな部分を受け入れ「また会いたい」と言ってくれる人なんだということ。
『……メール、返さなくちゃな』
そんな彼の誠意に、私も誠意をもって応えなくてはいけないような気がしてきた。でも、どうすればいいのか分からない。ショートメールは文字数が限られているし……。
「“また飲みましょう!”でいいんじゃない?」
横から祥子。
『いやいやいや! まずお詫びでしょ! 謝罪でしょ!? で、それからお礼と、タクシー代のことと……』
「和歌子」
『な、何よ?』
「素直に言いたいこと、言えばいいじゃん」
『なっ……』
まるで人の心を見透かしているかのようなことを言う。“素直に”って簡単に言うけど、一番難しいんだから。
そこから十数分ほど、悩み考え、送ったのは
「清水です。昨夜はご迷惑をおかけしました。私も楽しかったです。また宜しくお願いします」
謝罪、共感……そして同意。(だけど、最後の同意部分では具体的に「また会いましょう」とは明言してない)
私なりの全力投球だ。
「ま、女は素直が一番よ。私なんて、いっつも素直」
祥子が悪戯っぽく笑う。
『あんたの場合、“明け透け”って言うの!』
心の中にできた、“雅俊さん”とは違うもう一つのフォルダー。
“志田秀”という大人しいけど温かい男性の、数少ない情報がファイリングされている。
……いつの間にか、頭痛は治まっていた。
牡牛座 第3章 終
【今回の主役】
清水和歌子 牡牛座28歳 保育士
子供好き。学生の頃から付き合っていて、結婚まで考えていた彼(飯田雅俊)に振られる。彼との恋をずっと引きずっており、復縁を望んでいる。ややぽっちゃり体型だが、男ウケする柔和な笑顔が特徴的。結婚していい奥さんになるのが夢。友人の紹介で、同郷の志田秀と引き合わされ、淡い恋心を持ちながらも、過去を忘れられずに苦しむことに。
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