失恋後…「新しい男」との出会い|12星座連載小説#73~牡牛座7話~

文・脇田尚揮 — 2017.5.10
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第73話 ~牡牛座-7~


前回までのお話はコチラ

午後8時前の有楽町駅前は、人でごった返していた。

待ち合わせ10分前に、マリオンの時計下に到着しソワソワしている。

これから、学生時代からの友人・祥子から、“オトコ”を紹介してもらうのだ。落ち着かなくて当然よね。

行き交う人々を眺めながら、また雅俊さんのことを考えてしまう。

別に、彼氏が欲しいんじゃない。このまま恋愛から遠ざかり、ブスになっていき、雅俊さんに忘れ去られてしまうのが嫌なだけ―――

自分に言い聞かせるように何度も呟き、今日のこの“よく分からない”会合に参加する理由を見出していた。そして同時に、雅俊さんに対して感じるうしろめたさを拭おうとしていたのだ。

「ヤッホー、和歌子! 久しぶり」

懐かしい声が聞こえると同時に、軽く肩を叩かれ振り向く。そこにはキツネ目が特徴的な女が立っていた。彼女こそが今回の仕掛け人・滝口祥子だ。

『ああ、祥子……今日はわざわざありがとね』

お礼は一応言っておく。

そして、その後ろに“少し頼りなさそうなつるんとした男”が、申し訳なさそうに立っている。

「あ、彼が志田さん! 真面目で良い人だよ! 和歌子に紹介したくって! 取りあえず、近くにゆっくり話せるバルがあるからさ、行こっ!」

祥子は、線のように細い目をキラキラさせている。その後ろで、もじもじしている志田という男。

ああ、そういえば8年前の“あの時”も、こんな感じだったっけ……変わらないなぁ。

祥子のこの“仲人気質”は生来のものだと思う。私なんか、他人様の恋愛に首を突っ込むのは、面倒臭くてゴメンだ……。

こういう子だからこそ、男女問わず友達が多いのだろう。悪いヤツでないことは確かだ。聞けば、彼女は今、生保レディとしてかなり活躍しているらしい。納得できる。

祥子は“あっち”と指差しながら、人混みをかき分けグイグイ進んでいく。

『ちょ、ちょっと待ってよぉ……』

必然的に、志田という男と二人で歩く形になってしまい、少し嫌だった……。

「ほら、着いたわよ」

歩くこと5分……か。実際は20分くらいに、長く感じられた。何も言わず、私の後ろをとぼとぼついてくる、この男……何を考えているのか全く分からないわ。

「まぁまぁ、取りあえず座って。何か軽くつまみながら、パーッとお酒飲もうよ! 志田っちはビールよね? 和歌子も最初の一杯はビールでしょ?」

黙りこくる私たちを前に、祥子がまくしたてる。この感じ、なんなのよ。

てか、生理中にお酒はキツいわ。悪酔いしやすいし、今日はソフトドリンクでいこう。

『あ、祥子、私、ウーロン……』

時既に遅し、祥子は既に注文を始めていた。

もう! いつだって人の話を聞いてないんだから!

すぐに、黄色い液体がなみなみと注がれたジョッキが、目の前に3つ並べられた。

「それじゃっ! カンパーイ!!」

ひときわ大きな声を出し、祥子がビールを高く持ち上げる。

……このテンション、ついていけねぇ。

そして、志田という男も私と同じくテンションが低い様子。男なら何か話しなさいよ。

グイと三口ほど飲んで、上唇に白い泡をつけたまま祥子が、

「で、どう? 志田っち、和歌子カワイイでしょ?」

肘で男をツンツンつついた。

『なっ……、ちょっ、バカ!』

カァッと顔が赤くなるのが分かる。お節介も度が過ぎているわ! そもそも私は、この男のこと何も知らないんだから。

「あの……」

男が、初めて口を開く。

「あの、私、志田秀と言います。清水さんのことは、少し滝口さんから聞いています」

『あっ、どうも。私は清水和歌子と言います』

祥子のヤツ、一体私の何を志田さんに話したのよ。コワいわ。

「保育士をされていらっしゃるんですよね? 私は……」

「そ! そ! 志田っちは、環境省で働くえら~い公務員サマなのよ!」

祥子が話に割り込んでくる。

「しかもね! 和歌子」

なんだか、嫌~な予感がする。何を言い出すんだろう、この女は。

「あんたと同郷で茨木出身なのよ!」

え、そうなんだ。そっか。

“同郷”と聞いた途端に、安心感が生まれるもんだから不思議だ。

「私は、水戸市の生まれです」

『そうなんですね、私は守谷市です』

私の出身の守谷市は、利根川・鬼怒川・小貝川の3つの河川に囲まれた、水と緑豊かな街。

何かの雑誌で、“住みやすい街ランキング”第1位に輝いたくらい、とっても素敵な場所。

「ああ、とっても住みやすい街ですよね。公園や遊歩道が多くって。私も何度も行ったことがあります。ああいった景観や街並み、私、好きなんですよ」

志田という男が初めて笑顔を見せた。

何だか自分のことを褒められたかのように、温かい気持ちに包まれた。

照れ隠しに、グイとジョッキを持ち上げビールを煽った。


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【今回の主役】
清水和歌子 牡牛座28歳 保育士
子供好き。学生の頃から付き合っていて、結婚まで考えていた彼(飯田雅俊)に振られる。彼との恋をずっと引きずっており、復縁を望んでいる。ややぽっちゃり体型だが、男ウケする柔和な笑顔が特徴的。結婚していい奥さんになるのが夢。友人の紹介で、同郷の志田秀と引き合わされ、淡い恋心を持ちながらも、過去を忘れられずに苦しむことに。

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