「彼」への消化しきれぬ想い|12星座連載小説#64~牡牛座4話~

文・脇田尚揮 — 2017.4.24
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第64話 ~牡牛座-4~


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――15時になった。子どもたちを起こさなくちゃ。

『美雪先生、そろそろ……』

「あっ、そうですね!」

頭の中は“雅俊さん”のことで一杯だけど……、今は少し忘れて、“保母さん”に戻る。

『ほら、みんな起きて~』

みーたんこと美雪先生と、子どもたちを起こし始める。「寝た子を起こすな」って諺があるけど、子どもを起こすのはなかなか大変。

スッと起きてくれる子のほうが珍しくて、ほとんどの子はすぐには起きてくれないし、泣き出してしまう子もいる……。そんな子たちの横で、先に起きた子たちが走り回る。

「わ~~~い! おやつ~~!」

ドタドタドタとコウジくんが走り回って、お外に出ようとする! 危ない!

『みーたん、コウジくんを止めて!』

「了解!」

コウジくんは、園内一活発な男の子。まさに“わんぱく坊や”だ。つい先日も、すべり台でムチャな滑り方をして、頭から落ち、額に擦り傷を作ったばかり。

子どもがケガをしたとなると、烈火のごとく怒る親もいるのだが、幸いコウジくんのお母さんは「先生、うちの子が元気過ぎてすみません~。うちでも手がつけられなくて……」と、不問にしてくれた。

保育士まで責任を追及されるケースもあるから、どんなことがあっても子供たちから目を離してはいけないの。春日先生がいつも厳しいのは、そういう理由からなんだろう。

「おやつまだ~~?」

「はい、コウジくん、ちょっとまってね~。お部屋に戻ろうね~」

みーたんが上手いことやってくれたみたいね。ホッと胸をなでおろす。

他の子たちも少しずつ起きてきだした。

「せんせー、おしっこ」

ゆまちゃんだ。この子はお昼寝の時間のあと、必ずトイレに行きたがる。

みーたんに目で合図を送りながら、トイレまでついて行く。毎日がバタバタだけど、やっぱり子どもは可愛い。

……私も欲しいなぁ、子ども。

一瞬、また“雅俊さん”のことが浮かんだ。まるで鉛を飲み込んだように胃が重たくなる。いつものことだ。いつも……。こうして何かあるたびに、彼のことを思い出しては気持ちが落ち込んでしまう。

ずっとこうなのかな。苦しいなぁ……。

「せんせー、おわった」

『は~い、じゃあ戻ろうね~』

大人がどんなに悩んでいようと、子どもは普段と何も変わらない。

ゆまちゃんを連れて戻ると、春日先生がお布団を片付けながら、子供たちをあやしている。さすが手際がいい。

「ああ、清水先生! おやつの準備は美雪先生がしてくれてるから、先生はおふとんの片付けをお願い」

『はい!』

春日先生から引き継いで、お布団をたたみ始める。早く終えないと、いつまで経っても“おやつの時間”にならない。おやつの後は、“お迎え”が待っているから、ここは先生たちと連携をとってスピーディーにしなくちゃいけない。

『終わりました!』

片付けを終え、春日先生に報告。

「はい、お疲れ様。先生も座って」

隣のお遊戯部屋では、既にテーブルの上におやつが並べてあり、ほとんどの子が着席していた。

「いちにのさん、はい!」

♪時計が鳴ります ボンボンボン おいしいおやついただきましょう
みんなで仲良く行儀よく
おいしいおやついただきましょう♪

お手てを合わせましょ、ぱっちん!

春日先生の“おやつの時間の歌”で、子どもたちが一斉に歌を歌い始め……お手てが“ぱっちん”と合わされた。

今日のおやつは、“さつま芋とりんごの甘煮”。この懐かしい甘さが良いのよね~。うう~ん、美味!

実は私も毎日のおやつの時間を楽しみにしている。甘いものには目がないの。というか、何でも美味しいんだけど!(でも、意外とグルメだったりもする)。

子どもたちも“ほっぺたが落ちそ~う”って顔で真剣に食べている。この時ばかりは、みんな静かだ。

他の保育園では保護者から、「カラダに良くないから、おやつを食べさせないで下さい」なんて声もあがるみたいだけど、ここ『あさひ保育園』は管理栄養士さんと提携しており、きちんと栄養バランスが考えられたものしか出さないから、親御さんも安心しているようだ。

「ごちそうさま」の声とともに、“お迎えの時間”がやってくる。子供たちはみんな、満足そうな笑顔だ。

私はおやつの片付けをする。みーたんは子どものお世話。春日先生は園長先生と出欠表の確認作業。

こうして、だいたい園長先生とメインの3人で業務を分担しながら1日が終わる。

あさひ保育園は3歳からの子どもを預かるスタイルなので、保育士の数はそこまで多くなくていいのだ。

最初にお迎えに来たのは、ゆまちゃんのお母さん。いつもお洒落していて、ニコニコ笑顔が素敵なお母さんだ。

「先生、有難うございました。今日も特に変わったことはありませんでしたか?」

『ええ、今日もゆまちゃんはお利口さんでしたよ。ね~、ゆまちゃん!』

「うん! せんせーさよーなら~」

お母さんに手を引かれ、お家に帰るゆまちゃんに手を振る。

このようなやり取りが毎日繰り返される。そして、私の中でも“彼”への消化しきれない想いが、燻り続ける。



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【今回の主役】
清水和歌子 牡牛座28歳 保育士
子供好き。学生の頃から付き合っていて、結婚まで考えていた彼(飯田雅俊)に振られる。彼との恋をずっと引きずっており、復縁を望んでいる。ややぽっちゃり体型だが、男ウケする柔和な笑顔が特徴的。結婚していい奥さんになるのが夢。友人の紹介で、同郷の志田秀と引き合わされ、淡い恋心を持ちながらも、過去を忘れられずに苦しむことに。

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