ダメ女こそ「素敵な男」を掴まえる…!?|12星座連載小説#53~射手座5話~
【12星座 女たちの人生】第53話 ~射手座-5~

前回までのお話はコチラ。
「今日は楽しかったね、Junちゃん」
ガングロ男が私の肩に手を回しながら微笑みかけてきた。
時計を見ると、いつの間にか朝の5時。結局オールしちゃった。
「そうだ! LINE交換しようよ!」
純がスマホをフリフリしている。
『そうだね! 交換しちゃおう~』
朝まで飲み続けた私の思考回路は、もう“ショート寸前”。あ~、でも、こういう感覚がたまらないのよね。
取りあえず、その場にいる全員とアドレス交換して、ふわふわの意識のままクラブを出る。
扉を開けると……朝日の眩しさに目がくらみそうになる。
『はぁ……気持ちワル…』
周りを見ると、ヘラヘラした男がベロベロに酔いつぶれた女を、“お持ち帰り”しようとしていた。“もんじゃ焼き”みたいな嘔吐物もちらほら。
よく見る“六本木の朝”の光景だ。

「じゃあね~! また連絡するね」
純が手を振ってくれる。
私も手を振り返し、そしてタクシーを拾う。
―――タクシーに乗った瞬間、意識は途切れた。
目を覚ますと、私は家のベッドに“すっぽんぽん”で横たわっていた。
『あ……れ?…… うっ、頭イタ~』
頭がクラクラズキズキして、起き上がれない。
「Jun……、ボクはもうどうしていいかワカラナイよ…」
ヒゲもじゃもじゃのメガネが心配そうに、私の顔を覗き込んできた。
……どうやら私は、クリスに介抱されていたらしい。
昨夜の記憶が2時くらいからほとんどない。あの後、どうやって帰ったんだろ。
『クリス……、アリガトウ。水、もらえる?』
困った顔で肩をすくめ、オーバー気味に“お手上げポーズ”してみせるクリス。なんだか、ちょっとカワイイ。
今何時だろう?
頭は動かさず、“目だけ”でアンティークの掛け時計を見る……。
もう昼の2時かぁ。早いなぁ。
「ハイ、お水ダヨ」
起き上がれない私を抱き抱えるようにして、水の入ったコップを持たせてくれる。
……ああ、彼氏がいるって幸せだなぁ。この絶対的な安心感。どんなにベロベロでダメな私でも、クリスはいつでも私の味方。
少しずつ水を口に含み、ゆっくり飲み込む。
ちょっと落ち着いた。
「大丈夫?」
『愛してるわ、クリス。今朝、私どうやって帰ってきたの?』
「ハァ……」
クリスが深い溜息をつき、長々と説明を始める。
どうやら私は明け方、タクシーで家へ帰ろうとしたらしい。
……が、行き先の説明が曖昧過ぎて、運転手さんを相当困らせてしまった。結局、寝ているクリスに電話をかけ、自宅の場所を代わりに説明してもらうことに。
ひどく酔っている私を心配し、クリスは家の下で出迎えてくれた。
そこからがまた酷くて、クリスはゲロゲロ吐きまくる私の世話と、嘔吐物の後片付けに“小一時間”ほど付き合う羽目に。
シャワーを浴びさせ身体を拭き、ベットに寝かしつけたのが朝の8時。
そんな感じだった。
……本当に優しいわね、クリスは。
「Jun、アンマリダヨ……」
確かにあんまりだと思う。彼氏がいるのにクラブで踊って、見知らぬ男たちと朝まで飲み明かす……。
最後には、寝ている彼を起こし、昼まで介抱させるなんて……。なかなかダメ女ね。
『ゴメンネ、クリス』
両手を合わせ、謝罪する。
「ボクは17時から仕事だから、そろそろ帰るネ。……Jun、もう少し考えて欲しい」
そう言って、彼は私に背を向けた。
……まぁ当然よね。
『クリス、ありがと』
悲しそうな目をして、クリスは家から出て行った。

『はぁ~』
ダメダメだなぁ私。
……分かってはいるけど、でもやめられないの。
だって、刺激がなくっちゃ生きてる実感が持てないんだもの。
え~と、今日は何しようかな。
フリーで動いている私は、基本的にすべて自分でスケジュールを組んでいる。
提携先をもっと増やし、本気でやればもっと稼げるんだけど、何にも縛られないこれくらいのスタイルがラクで良い。
でも、明日は銀座のジュエリー店に石を卸して……、それから“サンクチュアリ”の瀬名さんとブライダルジュエリーの打ち合わせもしなくちゃ。
ああ、でも今日はもう何もしたくないや……。
なんとか身体を起こし、ベットから出る。少しお腹が空いた。
『あ……』
キッチンのコンロの上に鍋がある。
蓋をあけると、中にはベーコン、玉ねぎ、ニンジン……。琥珀色のオニオンスープがキラキラ輝いていた。
『ああ~、なんて素敵な彼氏なの!』
心から、クリスに感謝する。
スープを温め直して、胃袋に流し込む……。
『ふぅ~、おいし……』
クリスはイタリア人のくせに、日本風の薄い味付けを好む。
オリーブオイルを瓶ごと使い、トマトをワッサーって入れような料理をするかと思っていたのにね。
感謝感謝だわ……“謝謝”。
クリスへお礼を送るためにスマホを手に取る。
LINEを開くと……、
「昨夜はとても楽しかったね! 俺もメチャクチャ飲んじゃって、二日酔いだよ(泣)実は、俺たち、歌舞伎町でホストやっててさ、今日も夜からまた飲むんだ。また、良かったら一緒にのもうよ♡」
純からだ。
―――クリスへメッセを送るよりも先に、純に返信していた。
【今回の主役】
戸部淳子 射手座28歳 ジュエリー卸業
ヨーロッパ圏でのホームステイなど、学生の頃から海外経験が豊富で、英語がそこそこ堪能。国外から宝石を買い付けて、ブティックやウェデイング業界に卸している。若さの割に目利きであると評されるところも。イタリア人の彼氏・クリスがいるが、性に奔放で何かとトラブルが起こりやすい。
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