紳士・淑女が集う「高級デートクラブ」の実態|12星座連載小説#47~獅子座5話~

文・脇田尚揮 — 2017.3.30
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第47話 ~獅子座-5~


前回までのお話はコチラ

仕事は相変わらず順調。

尾田ちゃんとは、あれから少し気まずい空気だけど、仕事に支障がでるほどでもない。お互いプロだからね。

週末の今日は、数時間後に、例の会員制クラブに参加する予定だ。

……さて、今日は何を着て行こうかな。

仕事柄、セクシーな下着やカチッとしたガードルなんかには、全く困らないのだけど、肝心な洋服の類をあまり持ってないのよね、私。

普段は基本的にスーツだから、こういう時に何を着て行ったらいいのか、いつも困っちゃう。

「今日は早いんでしょ? ここは私に任せて、上がっても大丈夫よ」

尾田ちゃんが、気をきかせてくれる。

『うん、じゃあお願いしようかな』

「分かったわ。売り上げ報告だけ、後から入れておくわね」

先日の件に関しては、あれからお互い触れずにいる。

彼女も少し踏み込みすぎたと思っているんだろう。もともと彼女はあまり干渉するタイプじゃない。

それなのに、あんなこと言うなんて、よっぽど私のことが心配だったんだろう。……でも、私にだってプライドがあるし、好みだってある。恋愛のことは、いくら親しい間柄でもあまり口出しされたくないわ。

『じゃあ、あとお願いね』

少し早歩きで、自宅へ戻る。もともと背が高く、歩幅が大きいこともあり、少しペースを上げるだけで、サラリーマン達をグングン追い抜いていく。なんだかなぁ。

自宅までは、電車乗り換え1回。そんなに遠くない。

帰宅途中で、ミニスカの女の子を見て、取りあえず今日は“これにしとくか”と決めた。

家に帰ったら、大忙しだ。

シャワーを浴びてヘアセットして……、クローゼットの中身を全部引っ張り出して、着ていく洋服を探す。

仕事の段取りには自信があるけど、こういう“女の装い”については疎く、苦手だ。

『あ、あった!』

帰宅途中に見たミニスカ女子のイメージに近い、ボディコンを手に取り、合わせてみる。

ま、こんな感じだろう。

31歳でボディコンなんて“痛い”と思われるかもしれない……けど、プライベートでは若い頃からずっとこのスタイルなもんだから、それ以外のファッションをあまり知らない。

そろそろこのスタイルが似合わなくなることは分かりつつも、頑なに貫いているのだ。

ゴールドを基調としたメイクにつま先の尖ったハイヒールで締め。さて、そろそろ行くか。下着はもちろん、うちのメーカーのやつだ。やっぱり自分にはこのスタイルがシックリくる。意気揚々と家を出た。

―――碁盤の目のように区画された、少しレトロな雰囲気の街。そう、ここ銀座で“ロイヤル・ヴェイル”は催される。“紳士・淑女の集い”とか何とかうたってるけど、まぁ要は、金持ってる男とそんな金持ち男目当ての売れ残り女が、化かし合いをするのよね。

……嘲笑しつつも、これに希望をかけている自分が少し情けなくもある。

さて、と。

夜の銀座の空気は心地良い。

六本木ほどチャラチャラしていないし、渋谷ほどゴチャゴチャしていない。

かと言って、表参道ほど最先端を気取ってもなければ、麻布みたいに落ち着き過ぎてもいない。

“程よく粋な感じ”がこの街にはあるのよね。

『ここか……』

この社交場“ロイヤル・ヴェイル”は、銀座内でも毎回場所が変わるから、辿り着くまでが億劫だ。

黒服に会員証を見せて、地下に降りていく。

ドアを開けると、シャンデリアやらなんやらギラギラ輝き、えらく豪勢ぶったホールが現れる。

そこに、これまた着飾った男女が群れをなしており……やけに眩しい。

タキシードでバッチリ決めた“指揮者”みたいな男、なぜか着物を着た“代議士”風の男、褐色の肌でやたらとゴールドアクセをチラつかせる“ヒルズ族”ちっくな男など、あらゆる部類の男がひしめき合っている。

何だかオトコ共を見ていると、“金持ち気取り”のように見えてならない。

一方で女たちはというと、全体的にハイレベルなのが揃ってる。

同じ女から見ても、ファッションやメイクはもちろん完璧、スキンケアやネイルまで抜かりなく、まさに“男ウケ”が計算され尽くされている……。

中には、“お顔をイジりました”みたいな女や、バレバレ“入れ乳”の女もいるけどさ。

そりゃそうだ。イイ男をゲットするには、どんなに磨いても足りないくらいだからね。こう見てみると、自分が浮いているかがよく分かる。

どーせ、周りの奴らは“アバズレ”が来た、くらいに思ってるんでしょうよ。

女たちの中には、私と同じような常連メンバーもちらほら。

……ハァ、実際、婚活市場で売れ残っているのは、やっぱり恥ずかしいから、お互い声掛けにくいわ。

―――「皆様、今宵もこの“素敵な宴”にお集まり下さり、誠に有難うございます」

主催と思しき、男のスピーチが始まった。……まぁ、毎回毎回よくも懲りずにやるわね。

ダラダラと男のおしゃべりが続く。

黒服からシャンパングラスを受け取る。「早く飲みたい」と思った。



【これまでのお話一覧はコチラ♡】

【今回の主役】
黒木真利子 獅子座31歳 経営者
女性向け下着ブランド『アリアンロッド』の経営者。プライドが高く、自分の力で今の会社を立ち上げ軌道に乗せたことに誇りを持っている。しかし、恋愛はあまり得意でなく、強気な性格ゆえに男性との関わり方について悩んでいる。顧問税理士の茂木篤史は心を許せる存在。

(C) wrangler / Shutterstock
(C) Roman Samborskyi / Shutterstock